第十六話 料理・上
「それで私のところに来たの?」
「はい、イルさんの屋台の後ろの空いてるスペースで料理させて貰えたら良いなぁと…そしてあわよくばアドバイスなんか貰えたらなと思いまして」
「・・・別に良いよ。その代わり基本暇だから話し相手になって貰う。貴方と精霊の事教えて?」
『構いませんよ』
「精霊も構わないそうなので大丈夫です。とりあえず友達と7:00頃に待ち合わせしているので、それまでの間よろしくお願いします。」
「ん、よろしく」
と言う訳で料理する場所を確保。
インベントリから〔中級料理キット〕を取り出して空いたスペースに置く。
〔中級料理セット〕は魔導コンロ×2とシンク、そして申し訳程度の収納の付いた台だった…
「もしかしてフライパンとか包丁買って来ないとダメ?」
詰みなんだが…
「違う。その台自体が魔導具だから、その収納は料理道具専用のインベントリになってる。明ければリストが表示されるから必要なのを出せば良い。」
なるほど、扉の取手に手をかけると、確かにインベントリと同じ様に中に入っているアイテムのリストが表示される。
「本当だ、なんか一杯有りますけど、本当に貰っちゃって良かったんですか?」
「問題無い。それよりエキトの素質を見てあげるから、何か作って見せて。」
「わかりました。コレでも向こうの世界ではほぼ毎日料理してるんです。」
「それは楽しみ」
とりあえず収納から扱いやすそうな包丁とまな板、それと小ぶりかフライパンを取り出す。
後はメイン食材をどれにするか…
魔猪は”魔”猪なんだよな…いや、市場でも見かけたから食べれはするんだろうけど、どうも躊躇ってしまう。
今回魔猪は保留で、ウサギと鹿ならウサギかな…自分で倒した獲物だし、今回はウサギにしよう。
インベントリを操作してホーンラビットの肉を選択。ん?取り出す時に部位が選べるらしい…ウサギ肉なんて扱った事ないから分からないな、鶏肉感覚で選ぶか…〔もも肉〕っと。
そうしてまな板の上に現れたのはホーンラビットの骨付きのもも肉。ウサ公1匹から角とコレだしかドロップしなかったのか…
『それはエキトさんが綺麗に仕留めなかったからですよ?私の様に綺麗に仕留めればその分ドロップも良くなります。』
もしかしなくても攻撃した場所や回数でドロップ数が変動する感じですか?
『昨日エキトさんが倒したホーンラビットと私が倒したのとでドロップ数に違いがあった事、気付きませんでした?』
角とレベルに気を取られて気付いて無かった…
『ドロップを狙うのならなるべく一撃で目的の部位以外を攻撃する様にしましょう。』
余裕が出来たらそうするよ。
今は雑魚を倒すのがやっとだからね、仕方ないね。
さて、料理の続きだ。
まずはフライパンを火にかけ油をそそg…
油が…無い…だと……。
…………………
「イルさん、料理が終わり
ました…お話でもしましょう?」
「始まってすらいない様に見えるけど?」
「油が無かったんです…」
「……なるほど?でもそのフライパンも特殊なやつだから、油なしで問題無いよ…?〈鑑定〉して見なかった?それとも〈鑑定〉持ってない?」
持ってますけどMPが無いんです…
『いえ、〈鑑定〉にMPは必要有りませんよ』
「え?そうなの?昨日の戦闘の時〈鑑定〉の話出なかったから、てっきりMPが必要で使えない物と思ってた」
『あー…コレは私のミスですね。あの程度の敵の強さは、たかが知れてるので〈鑑定〉する事を忘れていました。今考えるとスキルレベルを上げる為にも〈鑑定〉は使うべきでしたね…と言うか今日からはなるべく使う事を心がけて下さい』
シアさんのミスは今に始まった事じゃ無いし気にして無いから構わないよ。それより〈鑑定〉以外のまだ使ってない〈気配察知〉〈調合〉〈隠蔽〉も実は使えたりする?
『そうですか…。〈隠蔽〉はMPを消費して一定時間、敵に気付かれにくくするスキルなので現在使用不可です。〈気配察知〉はパッシブスキルなので常に発動している状態です。ただ、今のスキルレベルだと《死角に現れた〈アクティブモンスター〉》にしか反応しないので、〈ノンアクティブモンスター〉しか出ない始まりの街周辺では効果を実感できません。最後に調合ですが、〔初級調合セット〕を持っているので材料さえ揃えばいつでも出来ますよ』
なるほど…コレで漸くチュートリアルが終わりって感じですね。
『ソウデスネ…』
「いきなり黙り込んでどうしたの?」
しまった、イルさんと会話中だった。
「あ、いえ、何でもないです。とりあえずこのフライパンに〈鑑定〉使ってみますね」
〈すごいフライパン〉(道具)
・レアリティ:☆5
・品質:★4
解説:すごいフライパン。このフライパンに何かがこびりつく事は無い。だから油も必要ない。すごい。
うん。すごい。
「すごいフライパンみたいですね。これなら料理を続けられそうです」
「そう、すごいフライパン。それじゃあ料理頑張って」
気を取り直して調理開始。
フライパンを火にかけて温めている間にインベントリから〈塩〉100gを取り出してウサギ肉に振り掛ける。塩は100gから99gへと表記を変えた。
やはり回数制ではなく、実際に使った量か。
塩を振ったウサ肉をフライパンへ投入。
弱火にして蓋をし、時々返しながら焼けるまで待つ。
確かこのまま弱火で30分掛けてゆっくりと火を通す…だったかな?
本当は塩以外の味付けもしなきゃだけど
焼き上がるまでの間はイルさんの話し相手になるとしますかね…
a「イルさんを見てるとホットドッグ食べたくなりますねー」
b「わかる、イルさんの作ったホットドッグ食べたい」
c「貴方達…微妙にニュアンスが違うのに会話が成立してるわね。でもホットドッグ食べたくなる気持ちは分かるわ。」
f「実は今日差し入れにホットドッグを作って来たんです。昨日のイルさん達を見てたら食べたくなってしまって。1人1つですので…」
ab「いっっっやっほーーい」
c「煩い」
f「八代さんもどうぞ」
八代「ん?おぉ、丁度ホットドッグが食べたい気分だったんだ。ありがとう」




