第一話 当選
俺の名前は遠州秋人、この春高校に入学したばかりの普通の高校1年生。今は夕飯のカレーを作りながらスマホゲームの周回をしている。
ピロン♪
本日分の作業を続けているとメールの受信通知が鳴る
「ケータイ会社からメール?珍しいな?」
月々の通信料の確認など専用アプリから自分で確認して下さいなこのご時世に直接メールが来るとは珍しい。
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差し出し人:ou事務局
件名:新規契約キャンペーン当選者様へ
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携帯端末を契約した時に応募したキャンペーンに当選しましたよ!と言うお知らせらしい。そう言えば高校入学時に契約した際にタダで何か貰えるなら儲け物と応募した様な気がする。忘れたけど。
「何が貰えるんだろう?」
確か景品には旅行やら肉なんかがあった様な気がする。貰える物は有り難く頂戴するが、どうせなら俺が貰って嬉しい物だと良いな…
何が当選したのか気になるのでゲームを一旦やめてメールを開く。
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差し出し人:ou事務局
件名:新規契約キャンペーン当選者様へ
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この度は「新規契約キャンペーン」にご応募いただきましてありがとうございます。
厳正なる抽選の結果。
《2等》
株式会社「キーファー」製 最新作MMORPG〈Fantasy Welt Online〉パーフェクトセット
がご当選となりましたのでお知らせいたします。
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〈Fantasy Welt Online〉と言えば街中でもテレビでもネットでも話題のゲームだ。
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ゲーム業界大手の「キーファー」が半世紀に渡って秘密裏に開発し、5年前にその存在を明らかにしたフルダイブゲーム技術。
ライバル会社がヘッドマウントディスプレイ型のVRゲームを発売する中、全てのゲーマーやオタクの夢とも言えるその発表は瞬く間に世界中で話題になった。
しかし、それからしばらく情報が無かった為に世間には忘れられそうになっていたが、1年前にゲーム機本体の仕様を公開。五感全てを再現した世界初の完全フルダイブ機である事と専用ソフトの〈Fantasy Welt Online〉(通称FWO)の発売を発表し、一躍世のトレンドへと舞い戻ってきた。
3ヶ月前に行われたweb抽選予約の倍率は、460倍と言う数字を叩き出し、くじ引きの1等景品をこのゲームの予約権だと詐欺した祭りの屋台で乱闘騒ぎが起きて店主が意識不明の重体になるなど、社会問題になったりもした。
◇ ◇ ◇
新規契約キャンペーンに応募した時はまだ予約も始まっていなかったと思うから、この通信事業者も開発に1枚噛んで居るのだろう。
何はともあれ、おいそれと手に入らないゲームが手に入るのは嬉しいので最速で発送して貰う。
「なになに?ゲームの設置にはシングルサイズのベットスペースが必要です?このゲームがベッドに寝ながらヘッドギア付けてやるくらいは知ってるさ」
”同意する”っと
ゲーム当選に浮かれてウキウキ気分で料理を再開すると、宿題を終わらせた妹の春花が夕食の手伝いをしに二階から降りてきた。
「どうしたのお兄ちゃん?凄い嬉しそうな顔してるけど。」
「実はな…」
夕飯の支度をしながらFWOが当選した事を説明する。
「嘘…でしょ?アレ当てたの?」
余りの驚きに手に持っていたコップを滑り降り落とす春花。俺は慌てて屈んで手を伸ばし、床面ギリギリでキャチする。
「危ないじゃ無いか。」
「ごめんなさい。ってそれよりも本当に当てたの?あの超倍率のゲーム。」
「当てたさ、ほれ」
俺は送られてきたメールを開いて見せる。春花はそれを2、3度読み返していたが現実を受け止めたのか携帯端末を俺に返してくる
「相変わらず運いいねお兄ちゃん。」
「たまたまだよ、たまたま。カレーも出来たし飯にするぞ」
「はぁ。相変わらず自分の運の良さを認識してないのね…」
ため息の後はよく聞こえなかったが、詳しく聞きいても怒られるだけと俺は学習している。ここは聞き返さずにご飯にするのが正解だ。多分。
◇ ◇ ◇
夕飯後、リビングで寛いでいた春花にFWOについて聞いてみる。ゲーム好きの春花の事だから当然このゲームについても調べてあるだろう。
「FWOがザ・ファンタジーな世界を舞台にしたフルダイブ型MMORPGってのは良いよね?」
「あぁ」
「『小説の様な冒険を君も』を宣伝文句に、十数年前とかに小説なんかで人気だった’VRゲーム物’と同じ様なゲームなんだよ。本体のDREAMは存在がその通りなんだけど、FWOの方も凄くて例えばプレイヤーの種族なんかも人間以外にも選べるし、職業も有名どころからマイナーなやつまで色々あるんだって。この手のゲームで1番大切なスキルに至っては運営も『全てを把握してる人は居ない』なんて言うくらい膨大な数が用意されてるらしいよ?」
運営すら把握出来ていない?確かに凄いが、それで良いのか運営…
「βテストに参加した人達もあまりに膨大な情報量で検証もロクに出来ずにその凄さに圧倒されたみたいだよ?ただ1つだけ注意事項みたいに出回っている情報があってね、それが『この世界のNPCはこの世界で生きている』ってやつ。今まで人間に近い思考をするNPCが登場するゲームは何個かあったけど、NPCがそのゲームの世界でせいかつしてるってのは前代未聞だよ。この辺りが『小説の様な冒険を君も』って自信持って言える理由なんだろうけど」
「いきなり現れる俺たちの事はどう思われるんだろうな」
「そういうものだと思う様になってるんだって、でも街で悪さしたりすると買い物が出来なくなったりして、最悪投獄されたりするらしいから気を付けてね?」
その他にも注意する事は有るらしいが、詳しくはキャラメイクとチュートリアルの時に会えるサポートAIにでも聞くと良いといわれてしまった。
何はともあれ想像以上に凄いゲームを当ててしまった事に喜びを隠せない自分がいた。