表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

優性の法則

作者: カエデ

「うん、やっぱりダメみたい。」


「は?」


急な呼び出しにも、関わらず、君が来てくれたことが嬉しかった。


「どうやらここまでみたいなんだ。」


「何…いって……」


「劣性の形質(aa)の組み合わせで致死遺伝子って言うんだけど、僕の身体はそれでできてたんだ。本当は生まれてくることもできなかったはずなんだけど、制限付きで生きながらえてきたんだ。でもそれも限界みたいだ。」


挨拶だけはちゃんとしなきゃと思ってね、と言うと君はひどく狼狽した。


「だ、…だってお前、いつも変わらないし、そもそも何で急に…」


「時間が、ないんだ。」


そっと手を差し出す、肉が溶け落ちて、ただ腱と骨がぶら下がってるだけの腕を。


「ッ…そ、それでも、手術とか薬とか使えば…」


「これ以上は一回死なないといけない。」


「どういうことだよ?!」


「このまま身体を直さないと死んじゃうけど、直そうとすると身体が耐えられなくて死んじゃうんだ。」


「死んだら、また、蘇生すれば…」


「死んだら生き返れないんだよ、ヒトなんだから。だから、もう、どうにもならないんだ。」


たんたんと、事実を、現状を並べていく。


「お前は…それで……いいのかよ、」


目の前が一瞬真っ暗になった気がした。


「よくないよ……」


どっ、と怒りに近い感情が溢れ出てくる。


「もっと、いろんなものを君と見たかった、もっとたくさんのことを君としたかった、」


力の入らない手を握りしめる


「ずっと…君の隣で、笑っていたかったんだ……」


それでも…それなのに…


「ダメなんだ…」


自分が情けない


「いろいろ試したさ、君といれるなら、どれだけ苦しくても、痛くても構わない、でも、これでも無理矢理延ばした結果なんだ。」


「…諦めるのか?」


君は、静かに言葉をなげかける。


「君と、話すことに残りの時間を使うことにしたんだ。放棄したわけじゃない。これは、決断だよ」


「…なんで、もっとはやく…」


君の顔に触れると涙で指先が濡れた。


「そんな顔、させたくなかったんだ…」


やっぱりもっとはやく言えばよかったかな。もっと、強い身体だったら…もっと、君のためにやれてれば…もっと、何かいい方法が……


<もっと>が、頭のなかをぐるぐると駆け巡る。


「そう、伝えたいこと、伝えなきゃだね」


そのために、ここに呼んだんだ、今、ここにいるんだ、


「さよなら…君のこと、大好きだったよ。人のこと、すぐからかってくる君が、何かに向かって頑張る君が、ちょっとひねくれてるけど優しい君が、そうやって僕のことを思ってくれる君のことが……大好きだよ。」


「………」


「…もう、聞こえもしないんだ…最後に…告白の返事くらい、聞きたかったな……」


瞬間、ぎゅっと、折れそうなくらい強く、抱き締められる。


「そっか…僕は…こんなにも、愛されていたんだね…」


ぽろぽろと堪えていた涙が零れる。


「愛してくれて、ありがとう。」


震える腕で君を抱き締め返す。


「君のこと、ずっと、ずぅっと、愛している。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ