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短編集  作者: アキラ
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メリークリスマス 愛しい人

2019年クリスマス記念作です

皆さんに幸あれ

「はぁ~。今年もクリぼっちかぁ」

俺は天井を仰ぎながらつぶやいた。


真っ白い天井を見ていると、酷く寂しさに駆られてしまう。

思い返せば去年も同じような感想を抱きながら、クリスマスを過ごしていた記憶があった。

というか、一人暮らしを始めて以降はずっとこの調子。

クリスマスに一緒に過ごしてくれる友達もいないし、ましてや恋人などいない。

街中はクリスマスムードで賑わってはいても、俺の心の中と部屋の中はひどく静かで、なんだか自分一人だけがこの世界から隔絶されてしまっているのではないかという幻想を抱く。


「はぁ~」

2度目のため息はさっきのよりも深かった。


プルルルル。プルルルル


電話の音が聞こえてきた。


どうせまた電話販売の悪徳業者だろう。

そう思いながらもついつい電話口へと向かう。


俺にかかってくる電話なんて親が少し仕送りをしてくれる時か、勧誘ぐらいなものだ。

しかし、もう既に仕送りの電話は一昨日に来ていたことから、勧誘か販売の2択だろう。


「はぁ~」

さっきよりも深いため息が思わず出てしまう。

何がよくてこんな寂しい分析をしているんだろうな。



俺はただただ寂しかった。

今年こそは。という決意をしたものの、今年も彼女はできずに今も一人。

寂しかった。


プルルルル。プルルルル。


電話はまだ鳴り続けている。

悪徳な電話であれば、電話に出てはいけないのというのは周知の事実だ。

しかし、この時の俺は寂しさが限界点を突破していた。


もうどうにでもなれ。

ただ話し相手が欲しかったと言えば野暮ったいが、まさにその通りである。

俺は電話に手を伸ばすと、それを受話器から外すと耳に当てた。


「わたし、メリー。今駅前にいるの」

受話器から聞こえてきたのは少女の声だった。

しかし、その少女の言葉には聞き覚えがあった。


それは完全に都市伝説で有名なメリーさんの一説だった。

本来であれば、呪いの電話に限りなく近いこの電話に恐怖するところ。

しかし俺の寂しさはその恐怖をはるかに凌駕していた。


「そうか、メリー。やっと着いたんだね」

気が付けば俺は何を血迷ったのか、その電話に返事していた

さながら、恋人を待つ彼氏のように・・・。


電話口からは何も聞こえない。

しかしこのまま電話を降ろすことをしたくはなかった。

俺は数分待つことにした。


「わたし、メリー。今コンビニにいるの」

4分後、メリーさんの声がまた聞こえてきた。


コンビニがどこのコンビニを指しているのかは分からなかったけど、近付いている気がした。

けれどもまた彼女の声を聞けたことがただただ嬉しかった俺は、今までに感じたことのない充足感に陥る。

思い返せば、こうして女性から電話を貰ったことなどなかった。

それがたとえ、人ならざるものだったとしても女性であることには変わりはない。

嬉しいな。


「そうなのか。メリー。気を付けてくるんだぞ。」

この嬉しさを彼女に伝えたい。

そんな想いのためか声は弾んでいた。


そしてまたメリーさんの声は途切れてしまう。

普通の人はこんなにも彼女の声を心待ちにすることなどないだろう。

しかし、寂しさとは時に人の心を病ませ、良からぬ方向へと人を進ませるというもの。

“寂しさを紛らわすため”そのことしか考えることが出来なくなっていた。


「わたし、メリー。今あなたの家の前にいるの」

気が付けば、メリーさんの声が聞こえていた。

何ともう既に家の前に来てしまっていたようだ。


「早かったな。焦って来たのか・・・?それなら申し訳ない」

俺の心にはもうメリーさんは呪いの存在ではなく、彼女として映っていた。

3言しか話していないのに俺の心を支配していた寂しさはそんな妄想を生み出した。

我ながら恥ずかしい話ではあったが、もうどうにでもなれ。


俺はただただメリーさんが目の前に現れるのを待った。




「わたし、メリー」

その声はもう俺の持つ受話器から聞こえてきたものではなく、生の声だった。

それも背中越しに聞こえてくる。


メリーさんはもう俺の後ろにいる。

そんな確信が俺の脳裏に浮かぶ。

会いたいと思っていた存在がもう間近にいる。

もしこれで俺がメリーさんの都市伝説通りに殺されたとしても後悔はない。

この先、彼女なんてできるわけもないし、友達だっていない。

ひとりで何の楽しみもなく生きていくのなんてつらい。


俺は意を決して、メリーさんの方へと顔を向けた。



そこにいたのは、都市伝説で描かれるような恐ろしい少女などではなかった。


眩い輝きを放つ艶やかな金髪。

アニメから出てきたのではないかと思ってしまうほどに可愛い顔。

それを鮮やかにしている満面の笑み。

そしてその服装は外国のお嬢様が着るような豪華絢爛なドレス。


そのあまりの美しさに思わず息が止まり、目を丸くしてしまう。


「あぁぁぁ。やっとお会いできました///」


メリーさんはその言葉と共に俺に抱きつこうとする。

しかし、その体は俺の体を透過してしまい、彼女の顔に悲しみが張り付く。


「うっうっ。こんなのひどいです。わたしはあなたに会うために来たというのに・・・。触れられないだなんて・・・。」

ぽろぽろと彼女の瞳から涙が零れ落ちていった。


俺には何が何だか分からなかった。

知っている都市伝説のメリーさんと姿もストーリーも大きく違う彼女。

けれども、女の子が目の前で泣いているのに何もしないのは男ではない。


俺はメリーさんを抱きしめた。

抱きしめたと言っても本当に触れることはできず、彼女の体を腕で覆うことしかできなかったが、彼女に俺の心は伝わったのだろう。


彼女の視線が俺を捕えて離さない。

「ごめんなさい。取り乱してしまって・・・。わたし、あなたに本当にお会いしてくて・・・。この国でまた生を受けたと聞きまして…いけないことだとは分かっていながらも気持ちを抑えることが出来なかったんです///」


メリーさんはどうやら俺に会うためにここまでやってきたようだ。

けれども彼女のことを俺は知らないし、見たこともない。

というかこんな綺麗な子を見たら、忘れられるわけないだろう。

それに“生を受けた”という表現も気になる。


「あ、で、でも覚えているわけないですよね・・・。

わたしと貴方が一緒にいたのは今から100年以上も前の事なのですから・・・。」


その言葉を聞いた瞬間、俺は気づいてしまった。

(そうか。この子は俺の前世の恋人なのか・・・。)と。


俺はここ最近ある夢をよく見ていた。

夢の中の俺はお金持ちなのか屋敷に暮らしていて、かつ恋人がいた。

その恋人と過ごす日々は穏やかでいて幸せなものだった。

しかし、そんな日常は自分が事故に見舞われて死んでしまった瞬間を以て終わっていた。


あの夢の中に出てきた人々や屋敷、周りの風景には確かに見覚えがあった。

けれども、なぜか恋人の顔だけは光に照らされてよく見えなかった。


俺はその夢をいつの頃からか前世の記憶だと思っていた。

そして今、彼女の話を聞いてそれは確信へと変わった。


あれが俺の前世だったのだと。


そう思った瞬間、俺の中に止めどない情景の波が押し寄せた。

夢の中で見た人々の名前、夢の中で住んでいた国。

自分の夢の中の名前、そして愛する家族の名前。色々な風景。


それは完全なる前世の記憶だった。


「メリー。俺も君に逢いたかった。ずっとずっと逢いたかった」

俺はその言葉と共に彼女を抱きしめた。


さっきまでは透過してしまった彼女の体の感触を感じる。

メリーもそのことに驚いたようで振り向くと、俺の顔をその柔らかい指でつまんだ。


「え、触れる・・・。う、嬉しい///」

メリーの頬を涙が零れ落ちていった。



俺はそんな彼女の体を強く抱きしめると、耳元で囁いた。

「これからはこの国でずっとずっとお前のことを幸せにするよ。

メリー・クリスマス。俺の愛しい人」



Fin


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