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恋をしますか、しませんか  作者: 如月ちえ
7/17

22:00


 ジリリリ、と朝から耳が痛くなるほど目覚ましが鳴る。侑太はベッドから腕を出して、それを荒く止めた。

「ん」

 大きな伸びをして、侑太は身体を起こした。そして、自分の左隣に視線を向ける。その先にいる映子の身体は窓のほうを向いていた。すぐに映子も身体を伸ばして、上半身を起こした。侑太はいつも下着一枚しか着けていないが、映子は必ず下着も服も着ていた。あなたとは、そういう友だちなのよ。という自身への戒めも込めて。映子は立ち上がって、洗面所で顔を洗い、軽く化粧水を顔に叩くと、カバンを持って部屋を出て行った。

 侑太と映子は大学の同級生だった。ゼミが同じで話す機会も多くなり、卒業後にあった飲み会で、酒に飲まれた二人は流れで関係を結んでしまった。それ以降、そういうお友達として、二人は生きていた。

 ベッドのコイルが軋む音と、荒い息遣いが薄暗い部屋に響いていた。いつもと何も変わらないはずだった。

「ごめん、破れてた」

侑太はぼそっと声を出した。映子は一瞬驚いた顔を見せ、

「ん、病院行くから大丈夫」

 と冷静に返事をした。朝が来ると、映子は会社に電話を入れ、産婦人科に向かった。

「一回しか出しませんからね。今後はこういうことがないように」

 新しい命が生まれるところで新しい命の可能性を絶つ。良いようには言われないだろうと覚悟をしていた映子だったが、いざ医者に強い口調で言われると、心の底から申し訳ない気持ちになった。

 二週間後の同じ曜日に、映子は会社を休んだ。具合が悪いのは、アフターピルの副作用のせいだ。そう思い込み生活していた映子だったが、その日は気持ち悪さに耐えられなかったのだ。

「熱、測った?」

「測ってない」

 この日はめずらしく、侑太が映子の住むアパートを訪れていた。

「体温計どこにあんの」

「その棚の真ん中」

「ああ、これか」

 侑太はラックの真ん中にある救急箱を開け、体温計を取り出し、映子に渡した。体温計は、37.3度を示していた。

「微熱か。とりあえず寝てな」

「ごめん、ありがとう」

「いいって」

 映子はうっすら勘づいていたが、気にしないふりをしていた。二週間経っているのに、アフターピルが成功した証となる消退出血がなかったからだ。そして、普段の風邪の症状とは少し違う感覚があった。気にせずにはいられないほど、とにかく、とにかく気持ちが悪いのだ。

「ねえ、失敗したかもってなったら、どうする」

「なにがよ」

 似非関西弁のようなアクセント遣いで、侑太は笑った。

「あかちゃん」

 今にも消えそうな声で、映子は答えた。

「赤ちゃん?薬飲んでないの」

「飲んだよ」

「じゃあ大丈夫だよ」

 確かに、消退出血は三週間以内に起こるとされている。まだ、一週間の猶予があるのだ。それに、女の身体というものは精神的な影響を受けやすい。単純に遅れているだけだと思いたかった。

「もしも、の話だよ」

 薬を飲んだのか疑われることも、もし赤ちゃんがいたらということも考えたくなかった映子は、その話を終わりにしようとした。

「そうなったらなったで、なんとかするよ」

 侑太は普段の声よりトーンを落として、言葉を発した。映子は、なんとかするのは中絶費用のこととしか聞こえなかった。


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