後悔、先に立たず
「え、こんなとこ」
「たまにはいいでしょ」
三つあるエレベーターの真ん中に乗った。一番奥にある展望台へ直行するエレベーターには乗らなかった。きっと修さんが何か買いたいものでもあるのだろうと思っていたら、ホテルのレストランに連れてこられた。
「初めてなんだけど」
「大丈夫」
すぐ横は夜景が広がっていて、やっぱり落ち着かない。修さんは慣れた様子で、ワインを選んでいく。最後のコーヒーを飲み終わるまで緊張は解けなかった。
「やっと落ち着いた?」
「うん、ごめん。でもおいしかった」
「それならよかった」
レストランを出て、エレベーターに乗った。時間的にも、誰もいなかった。私たちは、東京の夜景のなかに飲み込まれていった。なんとなく、タワーマンションの上層階に住む人間の気持ちが理解できた気がした。
マンションに帰ってきて、私をあんなところに連れてきたのはどんな心境なのだろうと考えていた。チケットが余っていたのかな、前の彼女と来る予定だったのかな、と澱んだ自分の気持ちを無理やり飲み込んだ。
お風呂から出て、いつものように自分の部屋に戻ろうとすると、修さんに「ちょっと時間いい?」とリビングに呼び出された。
「なに?」
「いや、ちょっと飲み足りなくて……付き合ってくれる?」
私は次の日のことも考えて、お酌に専念することにした。ワインのボトルが半分くらい空いたころ、修さんは話し始めた。
「本当は、さっき言いたかったことがあって」
「うん」
「この間は、急に抱きしめてごめん」
「……うん」
酔っぱらいのハグに対する反省?だったらそんなものは私には必要ないし、いくらなんでも高くつきすぎだと思った。
「あのさ、俺のこと、どう思ってる?」
「どうって」
「その、気持ち悪いとか、一緒に住みたくないとか、思ってない?」
「思ってたらこんなことしないよ」
「だよな」
修さんのグラスが空っぽになった。私は敢えてつぎ足そうとしなかった。修さんは不思議そうにこちらを見つめる。
「飲みすぎ」
私もアルコールが抜けていなかったのか、修さんの首に両腕を回した。頭を肩にそっと乗せると、腰に熱い腕が回ってきた。
「今日は、お酒のせいにしないで」
「うん」
もう、そうなったら、大人の男女なのだから、事は起こる。その間は、何も考えられなかった。ただただ、お互い欲望にまかせて、夜に飲み込まれていくだけだった。
それからは、不思議なほど、何も起こらなかった。私たちは付き合っているわけではないのだと思う。「お付き合いしてください」なんて言われていないし、言ってもいない。たった一度、身体を重ねただけで彼女面するのはおかしい気がした。それに、私は修さんの部屋に住まわせてもらっている身分なのだ。ケンカをして「出ていけ」と言われてしまえば、私は帰ってくる場所がなくなる。これは依存なのか、私がはっきりしたほうがいいのか、曖昧な今の関係を続けていくべきなのか、本当にいろいろなことを考えた。結局、これだ!と思える方法はなかった。いつもの時間が、いつも通りに流れていくだけ。日が経てば経つほど、修さんに会いたくない気持ちは増した。必然的に自分の部屋にいる時間が長くなった。




