わたしとさっちゃん
中学三年のとき、当時の彼と初体験を終えて、二ヵ月生理がこなかった。不安で不安で仕方なかったけれど、親に言えるはずもなく、私は一人で不安を抱え込んでいた。彼にも、親友にも相談できなかった。そんなとき、遠戚のおばさんが急に病気で亡くなって、仕方なくお葬式についていった。そこで、初めてサチコさんと出会った。
雨音が響いていた。父と母は親戚と遺品整理やら手続きやら、中学生の私にはひとつも理解できないことをしていて、私は小さな和室に放置されていた。
「あら、先客」
襖を開けたのは、日本人の標準体型より少しふっくらした目鼻立ちのいい女性だった。
「私はサチコ。んーと、ふみちゃんだよね」
「はい」
「附属中なんだね。私もそのチェックのスカート履きたかったんだあ」
「はあ」
「おバカさんで入れなかったのよ、わたし」
あはは、なんて笑いながら、サチコさんは煙草に火をつけた。
「本当は禁煙なの、ナイショね」
「はい」
スーっと簡単そうに煙を吸い込んで、天井に向かって煙を吐いた。消えていく煙をなんとなく眺めていた。
「ねえ、私の話聞いてくれる?」
「……はい」
「ひと月前に彼氏と別れたの。最初はさあ、すごい泣いてさ。でも、女のほうが心の復活が早いっていうじゃない?だから、一週間くらいでケロっとしてたんだけど、なんか最近やっぱり寂しくてさあ」
「じゃあ、戻ればいいんじゃないですか」
「こっちから振ったのに、それは言えないよ」
「そうですかね」
「ふみちゃんだって、彼氏できたことあるでしょ?てかいるかあ」
「一応」
「どんな人?」
「背が高くて、勉強もそれなりにできて、サッカー部のキャプテンしてて」
「ほう、高スペックだね」
「たまに天然発言するんで、そこがおもしろくて」
「そうなんだあ」
そこから、私は言葉が出なくなってしまった。
「どうしたの」
「すみません」
頬に生ぬるい水分がスっと流れて、自分が泣いていることに気づいた。
「どうしたの」
サチコさんは私に近づいて、そっと抱きしめてくれた。
「なんかあったんだね」
そこから、どんどん涙が止まらなくなった。
「もし、私に言えたら、言って。いくらでも聞くし、もちろん誰にも話さないから」
若干過呼吸になったけれど、サチコさんが背中をトントンと優しく叩いてくれて、やっと落ち着いた。
「あの」
「うん」
「本当に、秘密にしてくれますか」
「もちろん。その代わり、私が彼氏と別れたことも秘密ね。ふみちゃんにしか言ってないから」
「はい」
私はサチコさんに生理がこないことを伝えた。もしサチコさんが親に言ったって、本当に赤ちゃんがいたらいつかはばれることだし、と半ば諦めも入っていた。
「うーん。そっかあ」
サチコさんはしばらく唸って、頭を下に傾けてしまった。
「初めて生理が来たの、いつ頃?」
「小6です」
「今ダイエットしてる?」
「特にしてないです」
「うん、検査薬試してないよね」
「はい」
「じゃあまずはそこかなって感じだけど、私はたぶんしてないと思うなあ……ごめんね、無責任なこと言ったね」
「ううん」
「ふみちゃんどうしたい?今、何が知りたい?」
「妊娠してるかしてないか知りたいです」
「じゃあさ、ちょっと出かけよっか」
言われるがまま、私はサチコさんについていった。サチコさんはリビングのドアを少し開けて、「ふみちゃん借りるね!」と言って、ドアを閉めた。そしてニコっと笑って、こちらへ歩いてきて、ブーツを履いて玄関のドアを開けた。ミニクーパーだったろうか、かわいい外車にサチコさんは乗っていた気がする。
「ごめんね、強引だけど付き合って」




