15話 ツーソンの休日
ーーーーーーーーー寝れない
(どうしよう、驚くぐらい眠くない、いつもならすぐ二度寝できるのに...)
カイトは洋館の倉庫から拝借した懐中時計を取り出した
(4時か...それにしても眠くないな今日...いや昨日か、あんな疲れることやったのに...人体って不思議!!...ん?)
カイトは異臭を感じ、周りを見回した、が臭いの原因っぽいものはなかった
(まさか俺か!?...って当たり前か...この世界に来てからまだ一回も風呂どころかシャワーすら浴びてないしな)
カイトはジェーンがフレーメン反応を起こす前にさっさと風呂に入ろうと、
【ちょっくら出かけてくる、探さなくていいです。】とだけ書き残し、宿の外に出た
夜もうるさかったこの町だが、さすがに早朝は静まり返っていた、陽はまだ出ておらず、建物の明かりもなく、月光だけが光源だった。
しばらく町のはずれ歩いていると、微かなせせらぎの音とともに魚の跳ねる音が聞こえた
(お、川か!ちょうどいい!)
【スクリブルノーツ!】
カイトは置き型の浴槽を出し、冷める事を考慮し少々熱めのお湯を注いだ、そしてカイトは全裸となり川の水でかけ湯ならぬ、かけ水を始めた
「ひゃんっ!つめたっ!」
川の水は予想以上に冷たかった
「まぁいいやもう入ろう」
カイトは冷めきった身体を湯船に沈めていった
「あ゛あ゛〜身体に染みる゛〜」
かけ水で流しきれてない汚れが今までの精神的疲れとともにどっと流れ出て行く感覚がなんとなく分かる。
ーーーーーーーしばらく入ったところでいったん出て、カイトはノートで出したシャンプーやらコンディショナー、ボディソープを使って身体を洗い、再び湯船に入った
ーーーーー(思えばいろいろあったなぁ...)
故郷の世界、ジェーンのこと、教団、戦闘、ダンジョン、さまざまな事を熱い湯船で横になり、ちょうど川の下流から出てきた朝日と共に思いを馳せる。
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ーーーーー「はっ!?」
カイトの発声により、あたりの鳥が一斉に旅立った
(しまった、寝てしまった)
カイトは我ながら不用心だなと思った
(お湯の温度的に10分も寝てないな...たぶん、とりあえず着替えよ)
カイトは湯から出て、バスタオルで身体をふいた
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戻って来る頃には街は活気にあふれていた
「小一時間でこんなにも雰囲気が変わるもんなんだなぁ」
カイトはとりあえずまっすぐ宿に帰った
「ただいまーっと」
「おう!おかえり、どこ行ってたんだい?」
ゼロがいすに座って本を読んでいた
「入浴」
「風呂?わざわざ入りに行ったのか?」
「?」
カイトは彼の意図が分からなかった
「いや、一般的な家庭魔法を使えば事足りるだろ」
(家庭魔法?そういうのがあるのか?いやまぁ結局)
「俺魔法使えないらしいんだよ」
「なんだって?」
ゼロは信じられないって顔をしていた
「そういう体質みたいで魔力が一寸もないらしい」
「え?じゃあ今まで魔法無しで生活してきたってことか!?」
「え?あぁ...うん」
(まぁつい数日前にこの世界に来たとは言えんか)
「そうか...苦労してきたんだな」
ゼロはカイトを同情して肩を掴んだ
「でも特殊魔法は使えるけどね」
(そういえばあの神さま爺さんは魔法と特殊魔法は違うって言ってたが具体的にどう違うんだろう?)
「まぁ魔法と特殊魔法は根本から違うらしいからな」
どうやらそのことはゼロも知っているらしい
「どう違うんだ?俺、普通の魔法知識すら危ういんだ」
「あぁーそういえばオマエ記憶がどうたらこうたら言ってたな」
ゼロはまたも同情しているようだ
「まぁいいじゃあこの際魔法について教えてやるよ」
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「オレらが住んでるこの世界の空気中には《魔素》というものが大量に漂ってるんだ、オレたちはそれを知らず知らずのうちに取り込んで、魔力に変換して体に溜めている」
「んでその魔力をオレたちは常日頃魔法を使ってるってわけだ、ちなみに魔素を溜め込める量は努力でも伸びるが大幅は才能や血筋だ、だけどオマエみたいなケースは初めて聞いたなぁ、まさか魔法使えないなんてな」
「多少は努力で伸びるのか!?」
(それはいいこと聞いた!)
「いや、厳しいだろうな、オレも医者じゃないから詳しいことはわからないが体の魔素を溜め込む機能がイかれてる可能性が高い、多分無駄に終わるぜ」
「........」
(使ってみてぇなぁ魔法...)
「それで特殊魔法だが...正直分からない事の方が多い、だが魔素とか魔法、そんなチャチな物ではない、
不可避な絶望を生き抜こうとする意志、絶対的な願望などが最大限にまで昂ぶった時、発現することがある《守護霊》確かそんな風に言っていたな」
「言っていた?」
(誰かから聞いた話なのか?)
「ん?あぁちょっと知り合いがな...」
そう言うゼロはどこか遠くを見つめていたような気がした
『触れてはいけない話題』そんな気がした
「なるほどなぁ..ありがと、そういえばジェーンは?」
カイトは話題を変えた
「ん?あぁまだ寝てるぜ」
そうゼロが指差したベッドがもぞもぞ動き、「うーん...」といううめき声が鳴った
「うーむ...まぁいっか今日は自由だし、俺飯行くけどゼロ来る?」
「いや、オレは遠慮しておこう、魔法はもういいのか?」
「あぁまた今度教えてくれ、じゃあ行って来るわ」
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森の中の町と聞くと田舎っぽいが、ここツーソンはサラマほどではないがそこそこ賑わっている
(パンに見たこともない果物、油っこいものもいいな!)
カイトは心を踊らせながら大通りの屋台や店を見て歩いていた
「そこのにいちゃん!!ブレミラリートを一つどうだい?」
(ん?俺か)
「ブレミ...なんだって?」
「ブレミラリート、肉と野菜、さらに特製ソースをパンに挟んだ料理だ、歩き食いには持ってこいだぜっ!」
(ほー、美味そうだな)
「じゃあ一つください」
「200ユードルだぜ!」
「ほい、どーぞ」
カイトは財布から200ユードルきっかり出し店主に渡した
「まいどありっ!」
そう言い店主はブレミラリートを作り始めた
ーーーーーー「ん?」
どんどん完成に近づいて行くブレミラリートはどこかカイトに、見覚えのあるものであった
(ハンバーガーだこれっ!!)
カイトはハンバーガーが大好きであった
(高校の部活帰りでよく友達と食べたなぁ...)
「おあがりよ!」
「ん、ありがと」
カイトはハンバーガーを受け取り、大通りを観光しながら食べた
「旨い...」
一口食べるたびに別の学校になってもよく会う竹馬の友、一緒に食べた部活仲間達の顔が思い浮かぶ
「これぞ青春の味...」
ーーーーーーー(気がついたら完食してしまった...)
(以外とデカかったし腹七分目ぐらいといったとこか)
「あれは...武器屋か?入ってみるか」
カイトは剣の看板がぶら下がっている店に入った
「うぉぉぉ....」
見渡す限り、鉄。
短剣に長剣、レイピア ハンマー 斧など男心をくすぐるさまざまな武器が展示されていた
「何かお探しかい?」
「いや、特にはないな」
店主は女性で、元気いっぱいって感じだ
「うちはいろんな武器が揃ってるよ!例えばこういうのが」
お姉さんはおもむろに剣を取り出し、カイトに渡した
「鞘をから抜いてみな」
カイトは言われたとおり抜刀した
「な...なにこれ...すげぇ」
剣身は青く妖しい光を放っていて、文字のようなもの..俺が読めないということは、おそらくこの世界の死語らしきものが彫られている。明らかに妖刀って感じであった
(こういうのってなんで衝動買いしたくなるんだろなぁ.....欲しい)
カイトは修学旅行のお土産やさんで木刀を買うタイプであった
「実はねー、その剣は私のオリジナルなんだ!」
「え?じゃああんたが作ったのかこれ」
「そう!いや〜苦労したよ、特に剣身を青くするのが、ある鉱石を混ぜるとね剣身が青くなるんだけど剣がかなり脆くなっちゃうんだよね、そこで改良、改良アンド改良を重ねて、今はそこらの剣より丈夫になったんだ」
「はぇ〜...でもなぜわざわざ青くするのにこだわったんだ?」
「えっ?」
女店主はキョトンとした顔でこちらを見つめた
「なぜって...わかってるくせに、そりゃカッコいいからに決まってるでしょっ!!」
「たしかにかっこいいな、ちなみにこの剣身の文字はどういうことが書かれてるんだ?」
「ん?ああそれ?実は特に意味はないんだよねこれが、それらしい感じの文字を創って並べただけなのよね〜」
「なぜ?」
「んぇ?そりゃまぁ...かっこいいから...?」
(なんで作った本人が疑問系なんだ)
「どう?耐久性と斬れ味は保証するわよ?」
「うーんぶっちゃけかなり欲しいな...」
「かっこいいから?」
「うん」
「やったぁ!作った甲斐があった!」
「うーん正直剣は重いしかさばるからなぁ...いやでも...」
女店主は目をキリッとさせて言った
「ダガーバージョンもあるわよっ!」
「言い値で買おう!」
カイトは即答した
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カイトのホルスターだのマガジンポーチなどが付いているベルトに新たなものが加わっていた
「良い買い物をした...のか?」
カイトはさっさと宿に帰ってダガーをいじくり回したく、早歩きで宿へ帰った
(それにしても凄かったなぁあの武器屋、剣にクロスボウをくっつけたものだったり、剣身が魔術で爆破する一回限りの剣だったり、本当に見掛け倒しの脆い剣だったり)
「ただいまーっと」
カイトは扉を開けた
「やあやあ私置いてどこへ行ってたんだ」
ジェーンはすでに起きていた
「飯...って何してんの?」
毛布の竜が宙に留まっていた
「お?気付いちゃった?すごいでしょ!?能力で頑張って作ったんだ!」
ジェーンは得意げな表情を浮かべ毛布竜を見つめた、そしてチラチラこっちを見ている
「ほぇ〜結構良い出来だぞ、スッゲェ能力の無駄遣いだけど」
「むぅ、一言余計」
「そういえばゼロは?」
「ん?そこで寝てるよ」
ゼロは本を目隠しにし、椅子で寝ていた
(起こさないであげるか)
「それよりも見てくれジェーン!このダガー!」
ジェーンはカイトの予想通りのリアクションをした
かなり遅れましたね。