13話 R・C
「あぁ〜ここかぁ」
ツーソンから東に歩くこと30分、森の中にそれはあった
「なんだぁ?これ?ちょっと俺の思ってたダンジョンと違うな」
カイトの目の前にそびえ立つのは彼からしたらダンジョンというより洋館の廃墟に近かった
「
どんなのを予想してた?」
ジェーンが横からひょっこり言ってきた
「もっと洞穴っぽいものを想像してたな」
「なるほどねぇ、まぁこれはこれで冒険心くすぐるじゃないか!」
「好奇心は猫をも殺すとか言うぞ?」
ゼロが口を挟んできた
「なぁに、私はそう簡単には死なないさ」
(どうだかなぁ、まぁ猫に九生ありって言うしな)
「よし、入るぞ!」
「「おー!」」
「...おじゃましまー....す」
赤く年季の入ったドアをガチャリと開け、意味はないと分かっててもクセで小声で挨拶をしながら入る
「うわぁ....」
辺りは薄暗い、窓はなく、蝋燭の火だけがゆらめいている、玄関は吹き抜けのようなつくりになっており少し先に4人ほど横に並んでやっと埋まるほど、幅の大きな階段がたっている。
そしてなによりここは、長年放置されてたせいか『自然』と融合している、まるで洋館も森の一部であるように
「ひぇぇぇ...不気味...」
(だが神秘的でもあるなぁ)
「なんだい情けない」
「暗いのは怖くないけどホラーは苦手なんだよ...」
(昔っからホラーゲームは嫌いだったなぁ特にビックリ系、コイツはユルさん)
「...ってなんで当たり前のように蝋燭に火が灯ってるんだ!」
勘弁してくれよ!こえーよ!!
「そりゃダンジョンだって生きてるし」
ジェーンが当たり前だろって感じに衝撃的なことを口にする
「生物なのぉ!?」
「そうみたいだよぉ!」
「でもなんで蝋燭に火を?」
うーん謎が謎を呼ぶ
「知らない、私たちが汗をかいたり、膝叩いたらビクッってなるのと同じようなものだろう」
「えぇ...」
「そもそもダンジョンは放置された建物や君が言ってた洞窟などに、何らかの原因で魔力が蓄積していった結果、建物自体が魔物化するんだ。
だけどまだ色々謎が多くてね、学者たちが議論を重ねあってるんだ」
こういうロマンがあることが好きなのかジェーンは目を輝かせながら語っている
「はぇ〜、放置された建物じゃなくちゃいけないのか?」
「知らないな、だけど現在使われてる建物でダンジョン化は聞いたことないよ」
(うーん謎が謎を呼んでまた謎が来た)
「おいお前ら、描き終えたからさっさと進むぞ」
ゼロがペンとボードを手に言った
「そういえば本筋は地図作成だったな...」
(完全に忘れてたな)
「さーて、階段か右の扉か左の扉、どれにする?」
ジェーンがワクワクしたような顔で尋ねた
「左だな」
(迷ったら左の法則だ)
そう思い左の扉のドアノブに手をかけた瞬間
「待って!」
ジェーンからストップが入った
「中に『何か』いる、それも複数、おそらく魔物だよ」
(魔物か...本格的に探査を始める前に試さないとな)
「なるほど、確認するか【レインボーシックス!】」
すると前見た時より3テンポほど遅れて犬獣人が現れた
「扉の向こうに少しの一瞬だけコイツを出して偵察させた。何事も応用は大切だぜ?」
(応用ってレベルなのか?それは?)
そう言いたい気持ちをグッと抑え
「...で結果は?」
「はい!中はおそらく食堂であります!そして2体!ヴァーウー居たであります!」
(ヴァーウー?...聞いたこともないな)
「ジェーン!ヴァーウーの説明プリーズ!」
困った時のジェンぺディアだ
「本当に記憶ないんだねぇ...まぁいいさ、ヴァーウーは簡単に言うとただの二足歩行のオオカミだよ、そこそこ凶暴でデカイ、スゴいタフで急所に攻撃しないとだいたい死なない、もはやクマだね、それ以外は特にない魔法もつかってこない」
「はぇ〜ありがとう」
ノートで『アレ』を出すか
「あの〜自分、殺ったほうがよかったでありますか?」
少し申し訳なさそうに犬獣人ちゃんが言った
(このワンちゃんカワイイ顔して恐ろしいこと言うな..)
「いやいい、それよりさっき偵察ありがと、ビーフジャーキー贈呈だ」
「え?いいんでありますか!やったであります!」
ノートでジャーキーを出すと幸せそうに尻尾ブンブン振って肉をかみかみしている、可愛い奴め
「.....?...はっ!?」
視線を感じて振り返るとジェーンがスゴい目力でこっちを見ている
「か...帰ったらたんまりとあげるからね...ね!」
「よろしくおねがいします」
(ジェーンの敬語って初めて聞いたな)
ふと横を向くと
「...?いくらご主人とはいえこれはあげないでありますよ?」
ゼロが羨ましそうの顔で犬獣人ちゃんを見ていた
(ゼロ、お前もか...というか忠実じゃなかったのかレインボー部隊...)
「しゃーねーな今お前らにもやるよ」
「「わーい!カイトくん大好き」」
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「休憩もこれまでにしてそろそろ行こうぜ」
「そうだな」
「そうだね」
入る前に確認したが念のため、装備を再確認しよう、拳銃のセーフティ、弾、薬室、マガジン、アレも全てokだ
「もう一度偵察するであります!ご主人!」
「よし、行ってこい」
犬獣人ちゃんが一瞬消え、再び現れた
「敵はヴァーウー2体!入って11時の方向、2時の方向であります!」
「了解!左は任せろ!」
カイトは勢いよくドアを蹴り開け、カイト、ゼロ、ジェーン、犬獣人と食堂に侵入していった
カイトは敵の方向は知らされていたため入った瞬間、左のヴァーウーがこちらを振り向き、こちらを敵と認知するまでに三、四発ほど撃ち込んだ、が
(予想はしていたが効果はほぼなしか)
そもそも拳銃という武器は完全なる『対人』向けの武器である、対獣向けには設計されていない。一部狩猟用もあるが手首が死ぬ。
日本の鹿ですら腹をライフルで撃たれても人間が追いつけない速度で走るのだから、ヴァーウーなんてもってのほかであった。
「グオオォォォォォッ!!!」
ヴァーウーは「何しやがるテメェ!!」とでも言うように雄叫びをあげ、正体不明の攻撃の主と思われるカイトに突進した
「あぶねっ!」
カイトはテーブルを踏み台にし、間一髪ヴァーウーの突進を免れ、ヴァーウーの背後をとる
「じゃあこっちはどうだ?」
そういいカイトはノートで出した新兵器、クロスボウを取り出し、こちらに振り向いたヴァーウーの顔面に狙いを付け、引き金を引いた。
その矢はヴァーウーの顔に着弾すると同時に激しい爆発を引き起こした
「特別製だ」
(といっても矢の着弾を起爆にセットしたブービーボムを付けただけなんだけどね)
プスプスと肉が焦げる臭いと共にヴァーウーが倒れた
「耳鳴りが止まねえぜ...」
「何使ったのさ、君」
「クゥーン...」
確かにただで爆発音がうるさいのに建物内で使ったらもっとうるさいな...
「いやーゴメンゴメン!、予想以上にうるさかったわ」
どうやらゼロ側も倒し終えたらしく全身穴だらけの惨い死体となっている
「どうやったらそんなエグいことになるんだよ...」
「企業秘密さ!」
ジェーンはドヤ顔で言った。
「いよぉーし!描き終えたから次の部屋...おいっ!?カイト後ろっ!!!」
「グルルルルッ.......!」
ゼロに言われ振り返るとそこには死んだはずのヴァーウーが、かなりご立腹のご様子で立ち上がっていて、すでに、その恐ろしい爪を振り下ろそうとしていた
「なっ!?」
(速・・避・・・無理!)
カイトは本能で被害を最小限にしようと、腕で防御の構えを行い、恐怖で目を瞑った
ベギベギベギッ!!
肉が裂け、骨が砕かれる音が鳴り響く、カイトは反射的に「ぐおおぉぉおおぉっ!!!」と悲鳴をあげるが、痛みはこない、あれ?っと思い目を開けるが、失う覚悟はしていた腕はしっかりとあった。
視線を前に向けると、ヴァーウーは仁王立ちをしてこちらに顔を寄せてきた...いや、正しくは倒れこんできた
「危ねぇっ!!」
カイトは瞬間的に左に避け、ヴァーウーは地面に倒れ、微動だにしなくなった
「あーあ、まじーでありますなぁこいつ」
「えっ!?」
(犬獣人ちゃん!?怖っ!?完全に捕食者特有の目になってるよ!あれ!)
ヴァーウーの死体をよく見ると、左首が食い千切られていた
(嘘だろ!?犬獣人ちゃんは真ん中のでっかいテーブルを挟んで右後ろにいたんだぞ!?)
「あー、自分結構瞬発力は自信あるので...あ!それより口直しのビーフジャーキー欲しいであります!...どうしたんでありますか?そんな被食者みたいな目をして?」
犬獣人ちゃんは先ほどの殺意にまみれた目はなくなり、かわりに飼い主においしい食べ物をねだる飼い犬の顔になっていた
「い...いやなんでもない、いーよいーよ、もういくらでもあげちゃう!」
(ヤバイ...!惚れちゃう...!)
「わーい!であります!!」
「大丈夫だったかい!?」
ジェーンが心配そうな顔でこちらに来た
「あぁ、おかげさまで」
「よかった。多分アレは死んだんじゃなくて気絶してただけだと思う」
「だよなぁ....」
(改善が必要だな)
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「治療の必要はなさそうだし先進むぞ」
とりあえず、銃のマガジンに弾を込め、クロスボウに爆弾矢をセットし、先へ進むことにした
犬獣人ちゃん
本名:オリヴィエ・フラマン
ゼロの能力で出てくる数少ない明確な自覚を持っている犬の獣人の女の子。
全体的に白い。めっちゃ白い。
ポニーテールでとっても元気で食いしん坊。
黙ってれば姉御系。
口を開けばやたらやかましいおばあちゃん家の犬。
身体能力は化け物。