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第四十五章 華やかさの裏で

 日中、照りつける光が肌を焼くようになった頃。夜でも暑い日が続いているけれども、この日はとある貴族の館でパーティーが行われていた。

 このパーティーに出席するソンメルソとその両親に付いてきたマリユスとユリウスは、相変わらず壁際でホールの様子を見ている。

 マリユスが、手元でハンケチを弄んではいるものの、大人しくしているユリウスに言う。


「最近はパーティーの時でも、並んでいる料理が食べたいとは言わなくなったね」


 すると、ユリウスは少し頬を膨らませて返す。


「だって、どうせ言っても食べられないし、ご主人様にもダメって言われたから」

「うん、そっか」


 不満そうではあるけれど言いつけを守っているかわいい弟の頭をマリユスが撫でる。白い髪が虹色の光を浮かべながらふわふわと揺れた。

 ふと、固い物が落ちる音がした。反射的にそちらの方を向くと、床に転がり割れているティーカップと流れる紅茶、そしてそのすぐ側に立っているデュークが目に入った。すぐ側にデュークの侍従が居ないようなので、マリユスが駆け寄って話しかける。


「デューク様ご無事ですか?」

「うん、ちょっと手を火傷しちゃったくらいで」

「火傷ですか? すこし拝見させていただいても良いでしょうか」

「え? うん」


 割れたカップを片付けに来たメイドにその場を譲りながら、マリユスはデュークの右手を見る。白い肌の親指の付け根だけが赤くなっていた。火傷の応急処置に使えるなにかはないか。そう思った時に、真っ先に呼んだのは。


「ユリウス、ラベンダーのオイルはある?」


 少し離れた場所にいたユリウスが、ポケットをまさぐりながら近づいてきた。そして、取り出したのは茶色い小瓶。


「気付け用にってご主人様から預かってるのがある」

「ご主人様からのか……後で理由をお話することにして、お借りしてしまうか。

デューク様、右手に失礼します」


 ユリウスから小瓶を受け取り、マリユスは清々しくも暖かみのある香りのオイルを、デュークの手に数滴落とす。それを赤くなった肌に優しくすり込んだ。


「これで少しはましになるかと思いますが」


 そう言ってマリユスが手を離すと、デュークは困ったように笑って言う。


「なんか心配かけちゃってごめんね。

ところで、この香油は火傷に効くのかい?」

「はい。ラベンダーのオイルは、火傷を静めてくれるのです。昔僕が火傷したときに、母が教えてくれたんですよ」


 小瓶の蓋を閉めながらマリユスが説明し、ユリウスがそっと小瓶を受け取る。

 ラベンダーのオイルが火傷に効くというのは事実だけれども、出来れば冷やした方が良い。とは言っても、この場に火傷を冷やせるような物は見当たらないので、オイルだけで応急処置するだけにとどまってしまう。

 ふと、ユリウスがデュークに訊ねる。


「でも、急に火傷なんて、どうしたんですか?」


 するとデュークは、手をさすり、苦笑いをしながら答える。


「ちょっと、熱い紅茶を手にかけちゃって」

「なるほどー」


 ユリウスは納得した様だけれども、マリユスも続いて問いかける。


「手にかけてしまったと言うのは、もしかして躓いてしまったとか、そう言うことが?」


 パーティーは基本的に立食なので、飲み物を持ったまま移動することもある。なので、その最中に躓いて零れた紅茶がかかったのかとマリユスは思ったのだが、デュークが言うにはこうだった。


「実は、最近疲れてるのか手が震えることが多くて。

それで、紅茶を零しちゃうしカップも落としちゃうし。恥ずかしいよね」

「ああ、お仕事が忙しいのですね」


 恥ずかしさを誤魔化すように笑うデュークの言葉にマリユスは納得するが、すかさずユリウスが口を開く。


「それならパーティーに出ずにご自宅でおやすみになっていれば良かったのでは?」


 言われてみればその通りなのだけれども、パーティーという社交的な場は、貴族にとって重要なものだ。デュークの家は言ってしまえば、そこまで位が高いわけではない。こういったところで繋がりを作らなければならないのだろう。

 マリユスはそう思ったのだけれど、何故かデュークは顔を赤くして俯いている。なにか有るのだろうかと思ったけれど、それを訊ねる間もなく、彼は片手を上げて身体の向きを変えた。


「えっと、あの、それじゃあ、僕これから探す人が居るから、これで失礼するよ。

手当してくれてありがとうね」


 そう言い残し、デュークはホールの中へと消えていった。それを見送り、ぼんやりとユリウスが言う。


「ソンメルソ様やメチコバール様探すんだったら僕達でやったのに、他の人探してるのかなぁ」

「いつもあのおふたりとだけ話しているわけにもいかないんだろうね」

「それもそっかぁ。貴族って大変だね」


 納得した様子で、ちらりと料理の置かれたテーブルを見るユリウスの背を軽く叩き、マリユスが言う。


「取り敢えず、壁際に戻ろうか。

給仕というわけでも無いのに、いつまでもここに居るのは良くないから」

「はーい」


 名残惜しそうに料理を見ているユリウスの手を引き、マリユスはもといた壁際へと戻っていった。

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