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第三十六章 歌うダンスホール

 日もだいぶ短くなり、暖かい物が恋しくなり始めた頃。交易のために海に出ていたキャラベル船も無事に帰り、マリユス達は忙しい日々を過ごしていた。

 船から降ろされたスパイス、紅茶、絹織物、綿織物、陶磁器など、それら様々な輸入品の管理をしなくてはいけない。どれがどれほど運ばれてきたのかの報告を聞き、リストを作る。このリストを元に、どこに何を卸すのかを決めるのだ。

 ふと、リストを確認していたソンメルソがマリユスに声を掛ける。


「ところで、この東洋からの書籍類の詳細はどうなっている?」

「書籍でございますか?

数はあまりありませんが、チャイナからの物と、今回は要望が有りましたのでジャポンからの物がございます」

「チャイナからの物はどんな物だ?」

「チャイナからの物は……一応医学書という事になっております。

ですが、チャイナの文字を読める船員は殆ど居ませんし、読めたとしても医学には疎いです。なので、また違う物も混じっているでしょう」

「そうか。それじゃあいつも通りメチコバールに選り分けて貰うか」


 やっぱりそうなるだろうなと思いながら、マリユスはジャポンからの書籍の書類を取り出して見る。そこには、要望通り図画の本を仕入れたとある。


「ジャポンからの物は図画の本と書類には有ります。

元々が絵の描かれた物という注文だったので、比較的遠からずな本が集まったようですね」

「遠からず、とは?」

「アモバン様からのご注文は、ジャポンの服飾に関する本と言う事だったのですが、『絵』と言う部分だけが強調して伝わってしまって、風景画や植物、動物などの絵の本も混じっているようです」


 それを聞いて、ソンメルソは少し考える素振りを見せてからマリユスに言う。


「それはそれで良いだろう。あの方も珍しい物がお好きなようだから、ご覧に入れれば気に入るかも知れない」


 机の上に広げていた書類を一旦まとめ、ソンメルソが倚子から立ち上がる。マリユスも、持っていた書類を抱えていた油紙製のファイルにしまった。


「そろそろアモバン様のお宅に伺う時間だ。お前もジャポンの本を用意してこい」

「かしこまりました」


 船が帰ってきて荷物の確認をしてすぐに、ジャポンの本が入ったとアモバンに報告をしたら、是非見たいと言う返事が返ってきたので、この日、本を持って館に行くと言う約束をしていたのだ。いつもなら客の側から来ることが多いのだが、折角だから見せたい物が有ると言うので、そういうことになった。なんでも、その見せたい物というのが動かせないほど大きい物らしく、色々な人に見せたいのだけれど、わざわざ来て貰うのも悪い気がするので、用事のある人だけに披露しているのだという。

 マリユスは輸入品が置かれている部屋から本を出し、一旦自室に戻って身嗜みを整える。それから、またソンメルソの部屋へ行って合流し、館を出て馬車に乗った。


 アモバンの館に着き応接間に案内されると、いたく上機嫌なアモバンに歓迎された。


「やぁやぁ、良く来てくれたね。

今日はジャポンの本を持って来てくれたのだろう?」


 ソファに座ってにこにこしているアモバンに、ソンメルソの側に立っているマリユスが七冊ほどの糸綴じされた本をテーブルに並べてみせる。それから、ソンメルソが本の説明をした。


「こちらの三冊が、ジャポンの服飾に関する物のようで、服の図画が多く載っています。

真ん中の二冊は博物画で、植物や昆虫の絵が沢山載っております。

その隣二冊が風景画の本でございます」


 説明を聴き終わってから、アモバンは丁寧な手つきで、一冊ずつ中身を確認していく。先日アモバンが買っていったようなウキヨエと違って白黒の印刷の物も多い。なので、ウキヨエの印象が強かったとしたら、気に入らないのでは無いかとマリユスとソンメルソはは少々心配していた。

 ところが。


「どれもいい絵ばかりだね。とても良いねぇ。

それじゃあ、これ全部いただこうかな」


 嬉しそうにアモバンはそう言った。

 少し驚いた様子のソンメルソが礼を言い、マリユスも頭を下げる。

 取引が成立した所で、アモバンがそわそわした様子でふたりに言う。


「ところで、今日はふたりに見せたい物が有るんだけど、見ていってくれるかい?」


 それはあらかじめ聞かされていたことなので、ソンメルソはにこりと笑って返す。


「勿論です。一体どの様な物なのでしょうか?」


 すると、アモバンはそそくさとソファから立ち上がって、ソンメルソとマリユスに手招きをする。


「ダンスホールに置いてあるのだけれどね、来てくれる?」

「はい、喜んで」


 一体何が有るのかはわからないけれども、余程気に入っている物なのだろう。ソンメルソもソファから立ち上がり、マリユスと一緒にアモバンの後を付いて行く。

 そうして案内されたダンスホールには、とても大きな、うつくしい装飾が施された箱があった。その箱の手前には長い鍵盤が並び、箱の窓からは長さや太さの違う金属製のパイプがいくつも覗いている。そして他の窓からは、何台も据えられたバイオリンも見え、色々な楽器を寄せ集めてあるように感じられた。

 圧倒的なその存在感に、マリユスは言葉が出ない。ソンメルソも呆然としていて、あの箱がなんであるのかがわからないようだった。

 立ち尽くすふたりに、アモバンは座ると良いと言ってソファを勧め、ソンメルソが大人しくソファに座る。一方のアモバンは、ポケットからコインを出して嬉しそうにこう言う。


「これはね、自動演奏楽器と言って、この箱が勝手に音楽を奏でてくれるんだよ。

いろんな人に聴いて欲しいんだけど、如何せん大きくて持ち運べないからねぇ」


 確かにこれは持ち運べないなとマリユスが思っていると、アモバンは取り出したコインを、自動演奏楽器の中に入れた。それから数秒待つと、自動演奏楽器の鍵盤やバイオリンがひとりでに動き出し、賑やかな音楽を奏で始めた。

 普段、館で雇っている演奏家の演奏とも、舞台で聴く演奏とも違うその音色に、マリユスは圧倒される。けれども、この音はとても親しみやすい物で、好感が持てた。


「確かに、アモバン様が好みそうな物ですね。持ち主に似て、懐が広くていらっしゃる」

「そうかい? そう言われると照れるなぁ」


 ソンメルソの素直な賛辞に、アモバンは照れながら笑っている。マリユスも、確かにこの楽器の音色は、アモバンの心根に似ているなと思った。

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