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第二十七章 ホリディ・パーティー

 時折雪がちらつくようになったこの頃。この日はクリスマスで、前日の夜の礼拝が終わった後、貴族達の間でパーティーが行われた。それには勿論ソンメルソとその家族も参加するので、マリユスとユリウスもパーティーに付き添うことになった。

 華やかなドレスに身を包んだ人々。それを見てマリユスはぼんやりと思った。あの人達の中で、どれくらいの人が本当に信仰を持っているのだろう。皆礼拝には行っているのだろうけれども、礼拝の後貴族の方々のおしゃべりで聞こえてくるのは、決まってとある修道士様の話だった。位が高いわけでもないだろうという方なのだけれども、沢山居る修道士様の中でも飛び抜けてうつくしく、男女問わずに視線を集めているようだった。その修道士様の名前はなんと言ったか、それは思い出せない。けれども、その人を目当てに礼拝に行くというのはどうした物かと、マリユスは思う。それを知ったら、きっとその修道士様は疵付くのだろうなと、それが気がかりだった。

 目の前のホールには、立食用の料理が並べられ、中央の広い空間では貴族の方々がワルツを踊っている。


「お兄ちゃん」


 ふと、隣にいるユリウスが声を掛けてきた。いつも通りのぼうっとした表情で、広間を見ている。


「どうしたの?」


 手に持ったハンケチを手で弄んでいるユリウスに訊ねると、こう返ってきた。


「神様は、いつでも僕達のことを見て下さっているんだよね?」

「うん。そうだよ」

「それじゃあ、神様はこれを見てどう思うんだろう」


 これを見て。と言うのは、目の前の享楽的な人々のことだろう。今ここで美味しい料理を食べ、踊り、おしゃべりを楽しんでいる人が居る一方で、自分達の知らない所で寒い思いをしている人も沢山居るのだ。その事をユリウスは憂えているのか。けれどもマリユスは、ユリウスの疑問に答えられなかった。

 ふと、ホールの中央部分からふたりの男性がユリウス達の元に向かってきている。よく見ると、メチコバールがソンメルソの手を引いて、近づいてきていた。この様なことは初めてなので、マリユスは驚いてメチコバールに声を掛ける。


「どうなさいました? よろしければ、何が有ったのかお聞かせ願えますか?」


 すると、メチコバールはソンメルソをマリユスの前に立たせ、こう答えた。


「どうもたちの悪いやつに捕まっていた様でな。見ていられなくなって保護してきた」

「そうなのですか?」


 その言葉によく見ると、ソンメルソは緊張した面持ちで、ぐっと口を結んでいる。


「大丈夫ですか? もし具合が悪いようでしたら、気付けの薄荷油もありますが」

「いや、大丈夫だ」


 大丈夫と言いながらも、ソンメルソはふらふらと両手でマリユスの腕を掴む。余程堪えていたようだった。

 その様子を見たユリウスが、はっとしたようにメチコバールに言う。


「あっ、なんか、そう言う人が居るとなるとデューク様も心配です。呼んできた方が良いでしょうか」


 そう言ってホールの中の方へ向かおうとしたユリウスに、ソンメルソが即座に制止をかける。


「お前はだめだ。

メチコバール、すまないがお前がデュークを探してきてくれないか」

「わかった」


 短いやりとりを交わしてすぐに、メチコバールはホールの中の方へと向かって行ってしまった。ユリウスは良くわからないと言った顔をしているけれども、マリユスはそのユリウスに、こう声を掛ける。


「ユリウス、そこに居る給仕さんから紅茶を一杯貰ってきてくれる?」

「はーい」


 硬い表情のままマリユスに掴まっているソンメルソに飲ませる物なのだと言うのがすぐにわかったようで、ユリウスは一番近くに居た給仕からすぐさまに、紅茶を貰って戻ってきた。


「ソンメルソ様、取り敢えずお茶を召し上がって落ち着いてください。

その、厄介な方はここには居ないので」


 マリユスの言葉に、ソンメルソは頼りない手つきでユリウスからティーカップを受け取り、口を付ける。ひとくち、ふたくちと少しずつ飲んで、少し落ち着いたようだ。


「心配をかけてすまない」

「いえ、ご無事で何よりです」


 それにしても、ソンメルソがここまで疲弊するほどしつこい婦人が居るのだろうか、それとも、誰か嫌味でも言う人が居たのだろうか。そんな事をマリユスが考えていると、ホールの人混みからデュークを連れたメチコバールがやって来た。


「デュークも連れてきた」

「あ、お疲れ様です」


 慣れた顔が集まっていて安心しているのか、デュークはほっとした表情で口を開く。


「みんなここに居たんだね。

面倒なのに掴まる前にここに来られて良かったよ」


 そう言って笑みを浮かべるデュークを見てか、ようやくソンメルソにも笑顔を作る余裕が出来たようだ。先程の様子を見ていたメチコバールは、さすがに今憎まれ口を利くわけにはいかないと思っているのか、ソンメルソに対して特にきつい当たりはしていない。


「取り敢えず、パーティーが終わるまで三人で固まっていた方が良さそうだな」


 メチコバールのその言葉に、デュークは苦笑いをして、ソンメルソは黙って頷く。

 ふと、デュークが呟いた。


「神様がご覧になっていたら、なんておっしゃるんだろう」


 ホールで踊る人々を見て言われたその言葉は、先程のユリウスと同じ疑問で、その答えはどこからも出てこなかった。

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