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第十章 パーティーの夜

 夏も盛りだけれども、夜に吹く風は気持ちが良いある日のこと。この街が所属する領主の館でパーティーが開かれることになった。ソンメルソとその両親も参加することになっているので、付き人としてマリユスとユリウスも同行することになっている。馬車に揺られ会場へと向かう道すがら、マリユスは時折ソンメルソの顔色を窺っていた。


「……? どうした?」


 不思議そうに視線を返すソンメルソに、マリユスは心配そうな顔をして言う。


「いえ、昼間もお仕事で疲れていたでしょうし、馬車に乗ってお加減がどうかと思いまして」

「ああ、心配してくれていたのか、ありがとう。

でもそうだな、着くまでの間少し眠りたいから、隣に来て肩を貸してくれると助かる」


 特に眠そうな様子は無いけれど、領主の館まではそれなりに距離がある。休めるうちに休んだ方が良いだろう。そう判断したマリユスは、手早くソンメルソの隣に移動し、声を掛ける。


「どうぞ。僕の肩では固いかも知れませんが」

「別にそれは構わないんだ。それじゃあ借りるぞ」


 先日あつらえたばかりの服に包まれた固い肩に、ソンメルソが頭をもたれて目を閉じる。その様子を見て、マリユスはつい笑みを零す。

 まるで弟がもうひとり居るようだなと、そう思いながら。


 館に到着し、パーティーが始まる。領主の挨拶が有ったあとは、皆それぞれ好きなように談笑し、ダンスホールで踊る。もちろんダンスホールで踊ることが許されているのは貴族だけなので、マリユス達使用人は壁際で控えているだけだが。


「お兄ちゃん」

「ん? どうしたの?」

「僕もごはん食べたいなぁ」


 隣に立ったユリウスが、テーブルの上に並べられた様々な料理を見て物欲しそうな顔をしてそう言う。気持ちはわかるけれども、あの料理は使用人のために用意された物では無い。勝手に食べるわけにはいかないのだ。


「帰ったらまかないがあるだろうから、それまで我慢しよう?」

「そうなんだけど、んー」


 こう言った場で色々と我慢するのは当たり前のことなのでマリユスは苦に思ったことは無いのだが、ユリウスはその辺りの感覚や認識が若干ふわふわしている。本来ならばこういう場に連れてくるべき人間では無いのだろうけれども、仕事が出来るという事実があるし、何よりも見た目が珍しく、うつくしいのだ。なので、半ば愛玩動物のような物として扱われていて、主人の所持品として自慢の種にされている節はある。

 主人には逆らえない。それを考えるとユリウスのことをしっかりと躾けるべきなのだろうけれども、それと同時に弟は愛玩動物ではないという思いもある。割り切って考えられれば楽なのだろうけれども、マリユスにはそれは難しいことのように感じられるのだ。

 ほんの少しの苛立ちを抱えながら、パーティーを眺めていると、目の端に知った顔が入ってきた。花柄のドレスの女性と、緑色のドレスの女性、ふたりに詰め寄られじりじりと後退している、肌の白い男性。それを見て、マリユスはソンメルソに言われていたことを思いだし、男性に近づいて声を掛けた。


「デューク様、お話中失礼いたします。

ソンメルソ様が用事があるようなので、ご一緒していただけるとありがたいのですが」


 それに気づいた男性、デュークは、ほっとした顔をして女性ふたりにこう言った。


「そう言うわけで、この辺で失礼するよ。

マリユス、案内してくれる?」

「かしこまりました。こちらでございます」


 マリユスを先頭に、ふたりはそそくさと人混みに紛れ、壁際まで移動する。


「あ、お兄ちゃん。デューク様のことまた保護してきたんだ」

「まぁ、ソンメルソ様に頼まれてるからね」

「あの、いつもご迷惑お掛けして申し訳無く」


 また。と言われているように、マリユスがデュークをこの様に壁際に移動させるというのは今に始まったことでは無い。デュークは容貌が整っているというのもあるが、その特徴的な白い肌がうつくしいもののように見えるのだろう、パーティーの度に何人もの婦女子に声を掛けられて困っているのだ。

 こう言った場で女性に話しかけられるのは良いことだろうと大体の男性は言うが、デュークはどうにも押しの強い女性は苦手なようで、ソンメルソやその使用人のマリユス達に助けを求めることが多い。


「それじゃあ、僕もソンメルソ様の事探してくるね」


 そう言ってユリウスも人混みに紛れていく。残されたマリユスとデュークは、暫しその場で談笑していた。


 そして少しの後、ユリウスが連れてきたのはソンメルソでは無くメチコバールだった。


「ねぇユリウス、話が違うよ?」


 思わずそう言うマリユスに、ユリウスは朗らかに笑いながら答える。


「デューク様の保護者っていう点だけで見たらメチコバール様でも良いかなって。

ソンメルソ様見つかんないし」

「そうだけど……」


 確かに、万が一見つからない場合は代わりにメチコバールを保護者として連れてきても良いとはソンメルソに言われているけれども、実際そうすると後ほど機嫌が悪そうな顔をするのでマリユスとしてはあまり気乗りがしない。

 何はともあれ、連れてこられたメチコバールに挨拶と事情の説明をしないわけにはいかないので、マリユスは軽く頭を下げてからメチコバールに話しかけた。


「こんばんわ、メチコバール様。今回は例によって、デューク様が困っておいででしたので、もしご迷惑で無ければ付き添っていただけたらと思いまして」


 すると、メチコバールも苦笑いをしてこう返した。


「ああ、ユリウスから話は聞いている。やはりデュークをひとりにしておくのは不安だな。

それにしても、私を頼ったとなると後であいつがうるさいだろうが、頑張ってやり過ごしてくれ」

「はい……」


 ふたりのやりとりを見て、デュークは申し訳なさそうな顔をしていたけれども、やはりひとりで居るのは不安らしい。メチコバールに付き添って貰う事にしたようだ。


「それじゃあ、なんかふたりに悪いから、これからソンメルソのこと探してみるよ。

ありがとうね」


 そう言って、デュークはふたりに手を振ってから、メチコバールと共に人混みに紛れていった。

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