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美味しいものの話

作者: 宮内涼風

昔、食べることが好きでした。単純に美味しいものを食べることは幸せでした。よく「あんた食べ過ぎ!」と、怒られたものでした。





ある日から僕は「味」が分からなくなりました。何を食べても美味しいと思わなくなりました。あんなに好きだった「食べること」は面倒くさいものになり、ストレスになっていきました。





目が覚めたら病室でした。どうやら栄養失調で倒れたようです。しかし、そんなことは僕にとってどうでもいいことでした。そんなときに彼女と出会いました。





彼女は生まれつきの病気で食べものからうまく栄養を摂れないとのことでした。そのため、食事はしたことがなく、点滴で命を繋いでいました。





彼女は言いました。「ねえ、美味しいってどんな感じなの?」僕は困りました。最近はめっきり美味しいなんてものを忘れていたからです。そんなものは僕が聞きたいくらいでした。しょうがないから僕は子どもの頃、母親が作ってくれた不器用な魚の煮付けの話をしました。





彼女は喜んで僕の話を聞いてくれました。ベットの上で動かない生活は暇だったので僕は彼女に何度も美味しいものの話をしました。そうこうしてるうちに僕は退院しました。





退院してからも僕は彼女に美味しいものの話をするために病室に通いました。彼女が喜んで聞いてくれることが僕には嬉しかったんです。話のネタがなくならないように、僕は新しい「美味しいもの」を探すようになっていました。




そのとき、僕は気づきました。食べものをまた、「美味しい」と感じていることに。それは以前よりはっきりと明確になったように感じました。彼女に言葉で伝えられるように細かい味にも敏感になったようでした。




彼女のおかげで僕はまた、昔みたいに食べることが好きになりました。




そのことを彼女に話すため病室へ行こうとしたら受付の人に断られました。面会謝絶だそうです。また彼女と話がしたかったので、彼女に渡してほしい、と僕は自分の連絡先を受付の人に託しました。





それ以来、彼女とは一度も会っていません。またどこかで彼女と会えたらそのときはありったけの「美味しいものの話」をしようと僕は思います。

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