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引きこもり妹と気まぐれな神様  作者: 成浅 シナ
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六章

玄関の扉の前に立ち尽くしてからどのくらい経っただろうか。

少なくとも十分以上は経った気がする。


「いつまでもこうしてても仕方ないよな…。でもなー……」

こうしてても仕方のないのは分かっているが何となくドアを開けるのが怖い。

どうしたものか…


「何してんの? こんなところで。」

当然背後からした声に驚き振り返ると、そこには手に買い物袋を下げた私服姿の和泉がいた。


「買い物か?」

特にリアクションもせずそう返す。

「え…? 反応なし? まあいいか…、洸弥くんだもんね…。それでなんだっけ? あー、そうそう、食材足りないって楚乃ちゃんが言ったから買い足してきたんだよー。それにしても帰るの遅かったね?」

「ああ、ちょっとうちのクラスの委員長様に捕まってな。」

 そう言うと和泉は何かを察したように苦笑した。

「あー…、そういうことね。じゃあ、入ろうよ、いつまでもそこに立ってないでさ。」

「あ、おい…俺にも心の準備ってやつが…」

和泉に背中を押されそのまま玄関をくぐる。


「ただいまー!」

和泉が玄関で立ち尽くしている俺を置いてハイテンションで家に入っていく。



しばらくするとパタパタとスリッパを鳴らして歩いてくる音がしてきた。

おもわず目を瞑って顔を下に向ける。

そして、その声は頭上に響いた。

 

「お帰りなさい、遅かったですね。 お兄ちゃん。」

「え…、お兄ちゃん…?」

その呼び方に強烈な違和感を覚える。

いつもなら『兄さん』と呼ぶのに…


そんな俺の動揺に気付いていないのか楚乃はニコリと微笑む。

「早くしないとご飯できますよ? 先にお風呂でも入っててください。」

「でも、お前なんか変だぞ! それに大丈夫なのか、辛かったりしないか?」

「もお、お兄ちゃん何言ってるんですか? 私はなんともないですよ?」


何かがおかしい。


口調はいつもと同じでも雰囲気がかすかに違う気がする。

なんなんだ、この違和感は…


「なあ…」

「私ご飯の支度がまだ残っているのでもう行きますね。じゃあまた後で、お兄ちゃん。」

「あ…、おい…!」

俺の言葉を遮り楚乃香は台所に戻っていった。



「ほんと…なんなんだよ…」


浴槽に体を沈めて考える。

先ほどの違和感、ただの勘違いじゃない気がする。

うまく言えないけど、これまでとは何かが違う。

「……やっぱりこないだのことか?」


清梨柚葉の訪問。

あの日のことが関わっているのはほぼ間違いないだろう。

やはりどこからか見ていたんだろうか。

そういえば、公園に向かおうと扉を閉める瞬間に誰かの気配がしたような…



長く時間が経った。

頭がぼんやりする。

長く湯につかっていたせいかのぼせてきたようだ。

「そろそろ上がるか…」

そろそろ風呂から出ようと体を起こすと、いきなりドアが勢いよく開けられた。


「お兄ちゃん、一緒に入りましょう!」

そう言い入ってきた侵入者 楚乃が風呂場に入ってくる。全裸で。

「ちょっ…何してんだ!!せめて何かで隠せよ!」

慌てて顔をそらしたがその裸体はしっかりと目に焼き付いてしまった。

和泉や清梨に比べたら発達は良くないがそれでも十分刺激的でどこからか湧き上がってくる劣情が頭の中に渦巻く。


「ふふふ…兄弟なんですからお風呂くらい一緒に入るのが普通ですよ? むしろ今まで入っていなかったのが異常なのです。ただの兄弟同士のスキンシップなのですからそんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃありませんか。それに…私はお兄ちゃんを愛しているのです、もちろん一人の男の人として。どうせ血のつながりはないんですよ?」

「な…何言ってんだ!?男としてって…俺たちは兄妹なんだぞ!?たとえ血がつながってなくても俺は楚乃を本当に妹だと思って…」

続きの言葉は言えなかった。


なぜなら楚乃に口を塞がれたからだ。 口で。

楚乃の赤くなった顔がすぐ目の前にある。

楚乃の唇はすごく柔らかくて、熱くて、そのことが俺の意識を支配し、何も考えられなくなる。


楚乃が口を離した後もひどく頭がぼんやりし、何も言えずにいた。

「ふふふ…お兄ちゃんのファーストキス奪っちゃいました♪ 初めてのキスは苺ミルク味…なんてことをラノベで読んだことがありますけど全然わからなかったです。やはり緊張でしょうか? …あれ?)

頭が働かない。

視界がだんだんぼやけていく。 


…なんなんだ…これ…


「お疲れですね、お兄ちゃん。今日はもう休んだ方がいいかも知れませんね。和泉お姉ちゃんには私から言っておきますので安心して休んでください♪」

言葉を発したくても口からはかすかに息が漏れるだけで言葉にならない。

意識はだんだん遠のく…

「お兄ちゃん…。私…」

楚乃が何か言った気がしたが結局聞き取ることが出来ず、俺の意識はそこで完全に途切れた。

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