エピローグ
この世界は本当に退屈だ。それはボクだけでなく他の神々も思っていることだろう。
ああ……ボクが触れ合ったあの兄妹…
あんなにも感情が動きやすく変わりやすい人間は珍しい。その上決して壊れることなくその芯は強い。
思わず口角が上がる。
ソルティア・アルティにあるマーケットを一つ一つ覗き込みながら歩く。するとのんびりと上品に歩いてくる影に気が付いた。
「あら、ソーラ。随分と帰ってくるのが早いわね。人間界でのお勤めはどうしたのかしら?」
振り向くと丈の長いドレスを着た長い金髪の神がいた。
「やあ、クラリスじゃないか。キミの方こそどうしたんだい?キミは妖精界のクオリア・スイルランティアの担当だったはずだろう?」
「ああ、今は休暇中なのよ。今は交代でクロリに任せてあるわ。」
クロリというのはヘルピアである。
ヘルピアとは自身の担当は特に持たず様々な神の手伝いをすることを仕事にしている神々を指す。
ヘルピアに属する神は変わり者が多い。なので神の間ではそんな者を『次元の旅人』とも呼ぶ。
だが、そんな仕事をしているせいか周りの神々からはこき使われることも多い。
「クロリも災難だねえ。あの子は他にもいろいろな神の休暇中にはいつも駆り出されるから休む暇もないって聞いたよ。」
「そういうあなたこそ今ここにいるってことは今は他の神に人間界を任せているのでしょう?」
「まあね、ボクはちょっとこっちに帰ってこないといけない急ぎの用事があったから今はアルに任せているよ。」
『アル』というのはヘルピアに属する神だ。
昔からボクと彼は馬が合い今でもよく交流している。
「それにしてもあなた、妙に楽しそうね?」
「まあね。ちょっと新しい楽しみを見つけたのさ。」
「そ、まあ、あなたがそのうちここに強制送還される日が来ないことを祈ってるわ。」
「そういうキミもね。キミだっていつも規定ギリギリじゃないか。」
「いいのよ、わたしはわたしのやりたいことをやりたいようにするだけだわ。」
「相変わらず自由だねえ。」
ボクはそう言い苦笑する。
クラリスは自由奔放だ。ボクなんか比べ物にならないくらいに。
「じゃあ、わたしはもう行くわ。」
「ああ、じゃあまた。」
軽く手を振りクラリスを見送る。
「さてと……」
あの兄妹はこれからどんな人生を歩んでいくのだろう。
ボクはすっかりお兄ちゃんのふうには嫌われっちゃってるだろうけど。
今人間界ではボクがいない間のお勤めはクロリが請け負ってくれているのだろう。
人間は本当に面白い生き物だ。そしてすごく面倒くさい。
人々の気持ちは日々交差する。誰もが都合の良いようには出来ていない。
誰もが人生の主人公ではない。
本当に面倒くさくて、面白い。
マーケットの屋根の隙間から天を見上げる。そこには暖かな光が覗いていた。




