九章
風邪をひいていたことを隠していたこと散々楚乃に怒られた翌日。(結局帰った後散々怒られた)
当然学校には行かせてもらえるはずもなく俺は暇を持て余していた。
今はもう正午過ぎ。午前中はずっと寝て過ごしていたからもう少しの眠気も感じない。
あー、暇だ。でもなにもすることもないもんなー…
…コン、コン、コン…
布団の上でゴロゴロ転がっているとふいにドアがノックされる。
「はーい、どうぞ?」
「失礼します、お兄ちゃん。」
入ってきたのは楚乃だった。
手には土鍋の乗ったお盆を持っている。
「おかゆ、作ってきました。こういうものはあまり作ったことがないので簡単なものなんですけど…」
そう言って差し出してきた土鍋にはシンプルな卵粥が入っている。すごくおいしそうな匂いだ。
「何なら食べさせてあげましょうか?」
楚乃がいたずらっぽく微笑む。
「…そうか…じゃあ、頼む…」
からかってやろうと思い素直にそう言うと、楚乃が驚いた顔した。
さすがにこの答えは想像もしていなかったようだ。
「な…何言ってるんです!?普段のお兄ちゃんならそんな事言わないのに!まだ熱があるんですか!?」
「…冗談に決まってるだろ。」
違う…感じる強烈な違和感……数日前から心に引っかかっているそれは徐々に膨らんでいく…
「本当に今日のお兄ちゃんはいつも以上におかしいですよ?」
違う…この少女は…
「お前は…」
「どうしたんです?お兄ちゃん?」
「お前は…誰だ?」
目の前の俺をお兄ちゃんと呼ぶこの少女は楚乃じゃない。
確信はないけど。雰囲気も全然違うし、それに楚乃はこんな冗談なんて言わないんだ。
「やだなー、」
少女はにっこり微笑む。
「私は楚乃香ですよ? 東雲楚乃香。お兄ちゃんの妹の。」
「違う…違うんだよ。お前は楚乃じゃない…。それに、楚乃は俺のこと兄さんって呼ぶんだ。本物の楚乃を…楚乃香を返せ…っ!!」
「……」
少女は何も答えない。
「答えてくれ!!」
すると楚乃は光のない目で俺を見上げた。
「…ほんとボクは君みたいな勘のいい子は嫌いじゃないよ。でも欲を言うなら兄弟のまねごとをもう少し続けたかったんだけど、こうなったら仕方がないね。…おや? 何か言いたそうな顔だね? まあ、想像はつくけど。じゃあまず名乗ってやろうじゃないか。」
熱はだいぶ下がったはずなのに頭がさっきより重い。
少しでも気を抜けば意識が持っていかれそうだ。
それでも意識を集中させて必死に目の前の少女の言葉に耳を傾ける。
「ボクは神様だよ。」
「か…み…さま?」
神様ってどういうことだ? でもからかっているような様子ではない。
「そうだよ。ボクは神様だよ。崇めてもいいよ! 気が向いたら君の願いも叶えようじゃないか!」
なんとも自意識過剰な物言いだ。
神様ってもっと慎み深い性格の儚いイメージがあったんだが…
でも、こいつが楚乃の中にいるってことは本当の楚乃は…
「…お前…楚乃をどこにやった…!」
「もう、やだなー。何をそんなにおこっているんだい? 感謝こそされても恨まれるなんて心外だなー。ボクはこの子の願いを叶えてあげたのにさー」
「楚乃の願い…?」
「そうそう! この子の願い事♪ その願いを叶えるにはボクが直接この子の中に入るのが都合がよかったんだよねー? なんせボクはこの世界での体を持たないからこの世界で動き回るには何か媒体が必要ってわけ。そろそろ神社に籠るのも飽きてきたし?」
「それじゃあ…楚乃は…楚乃はどこだ…!」
「東雲楚乃香の人格は消えたよ。それで代わりにボクが入ったんだ。ボクもこの街に来たばかりで身寄りがなくてねー。この子の体を間借りさせてもらったのさ。」
血の気が引いていく。楚乃の人格が消えただって?
「お前…返せ!楚乃を今すぐに返せよ…!!」
怒りに任せ叫ぶ。
だが、自称神様は苦笑するだけだった。
「悪いけどそれは出来ないね。他の神は知らないけどボクは願いを叶える代わりに代償をもらうんだ。そうしないとボクのほうが消えちゃうからねー。今回はたまたまこの子の願いとボクの受け取った代償が一致したってだけだよ。君もこの子のお兄ちゃんならこの子の願いをもっと尊重するべきじゃないか?」
「そんなの…知ったことか!楚乃は俺が守…」
「守る。とか言わないでね。この子の記憶を覗いたよ。君は一年もこの子といたのにこの子を救うどころかこの子の心の深くに触れることすら出来なかった。この子もそんな君に心を開かなかった。」
俺の言葉を遮り自称神様はそう言う。
「何言って……」
楚乃の笑顔が頭をよぎる。あの笑顔は嘘だったとでもいうのか…
「ボクの正体がバレてしまったからには仕方がない。ボクはこのままずっと君と兄弟ごっこをしててもいいんだけど、君はボクとこのまま一緒に過ごすのは嫌だろう? ボクは去ることにするよ。このまま、この体ごとね。」
そう言い背を向ける。
「ま…待て…!」
「君はもう少し寝ておきなよ。さすがにボクもキスだけで君の体に影響を及ぼしてしまったことをちょっぴり反省してるんだから。じゃあ、ゆっくりお休み。お兄ちゃん。」
そう言い俺の額を指でつつく。
すると強烈な眠気に見舞われそのまま俺は意識を失った。




