4 ご近所さんから追い回された日
「おーい!あっちだっ!」
「どこだよっ。ちゃんと探せよっ!」
「お兄ちゃああああん!」
ぎゃーぎゃーと騒がしい声が村の中で響いている。
ほのぼのとした雰囲気は平和の象徴とでもいうように大人たちは元気よく遊ぶ子供達に微笑ましい顔を向けている。
そんな子供達が何をしているかといえばかくれんぼという奴だ。
「……なんだかなあ」
俺は魔族の子供としてこの世界にて生まれた。
そう、人間のまま世界を救うのかと思いきや魔族の子供として転生してきた訳だ。
まあ、一度地球で死んでしまっているので人間として生きているのもおかしな話かもしれない。
「何か今声がしなかったか?」
「はあ?空耳だろ?ちゃんと探せよっ!」
「お、お兄、お兄っぢああああゃんっ!」
そんなわけで俺は五歳になり、村の子供達と一緒にかくれんぼをしている最中である。
決して、そんなことをしている暇はないはずなのだが子供という身分では世界を変えるような大した行動はできない。
まだ何も成長していないような子供なのでそんな状態で死と隣り合わせの冒険に出ようものならいくら神様の加護があっても命がいくつあっても足りないという物だ。
「それにまた死にたくないしな」
俺が望んだのは才能の力だ。
その力で俺は五歳児にしてはもの凄いスピードで成長している。
だがそれは不死身になる力でも生き返る力でも無い。
だから油断したらきっと死ぬ。
だって。
「見いいいいつううううけええええたああああっ!」
俺の隠れていた物置の扉が爆炎に包まれて無残にも破壊されて飛び散っていく。
そこから現れたのは自分より背丈の大きい男の子二人を左右の手で一人ずつ引きづる女の子。
その女の子の額には立派な角が生えており、キラキラと赤い光が輝いている。
「お兄ちゃん、カーラと遊ぼ?」
ニコニコと微笑む顔は普段の切れ目がちな目からは想像できないほどに愛くるしい。
しかしカーラが望んでいる遊びは日本人男性が想像するような遊びでは決して無い。
「やべえ見つけちまった!」
「すまねえ!逃げろアルフォンソ!」
騒いでいた男の子達が用済みとばかりに手を離され地面にボトリと落ちる。
這いずるようにしてカーラから離れたものの逃げずに俺に向かって逃げるように進めてくる。
その腰はぷるぷると震えており、怖いにも関わらず俺を助けようとするその姿勢は誇り高い魔族の男の子である。
「もうかくれんぼ、カーラやだ。次の遊びしよ?魔法のぶつけ合い?拳のぶつけ合い?」
パチパチと弾ける音が飛び散った扉の破片から聞こえ、ゆらゆらと揺れる炎が下からカーラの顔を照らす。
戦いを遊びと勘違いした女の子の角が闘争の歓喜からさらに赤く輝く。
「いっそのこと全部でいいよね、お兄ちゃん」
「断る!」
言葉を口にすると同時に俺は動き出した。
狙いは物置に唯一設置されてある窓である。
そこに目がけて全力で走る。
「あ、お兄ちゃん!また逃げた!」
突然の俺の行動にカーラは一瞬固まり、逃げ出した俺を見て叫ぶと無表情になる。
すると角が完全に赤くなり、俺はようやく窓の縁に足をかける。
「逃げるなああああっ!」
カーラが叫ぶと同時に足に力を入れて体を跳ね飛ばすようにして窓から外へと出る。
次の瞬間には背後の壁が窓ごと爆炎と共に吹き飛んだ。
怒ることを予想していた俺は爆炎を追い風にして体制を整えると、勢いを殺さずにそのまま逃走する。
「もおおおおっ!お兄ちゃああああんっ!」
言っておくがカーラは血の繋がった兄妹などではない。
俺は数か月だけカーラより先に生まれた近所の子供であり、カーラ的には近所のお兄さんといった奴なのかもしれないので恐らく近所のお兄ちゃん的なポジションなのだろう。
だからと言って彼女の狂気染みた戦闘ごっこに付き合うつもりは無い。
たとえそれが魔族の子供として当たり前の遊びであったとしてもだ。
「なんで滅ぶ予定の魔族がこんなに強いんだよ。この魔族に勝つとか人間どんだけ強いんだよ」
ズドンズドン!と背後で聞こえる爆発音からカーラが追ってきているのが分かる。
それが爆炎の魔法だけでなくカーラの拳によっても引き起こされている音なので凄まじい。
そんなカーラを止めることなく大人たちは微笑ましい物を見る目で見ていることからこれが魔族にとって代わり映えの無い日常なのだ。
こんな場所に地球人知識の持った人間を連れて来てみろ、俺みたいに逃げるに決まっている。
お蔭で足腰はかなり鍛えられている。
実際に食らえば魔族の無駄にハイスペックな耐性によってそこまでダメージを受けることは無いので気が向いたときに遊んでしまったのが運の尽きか、カーラにとって俺は最後まで遊ぶことができる、あるいは戦うことができる存在として認識されてしまった。
そのため俺は毎日のようにカーラに追い回されているという訳だ。
「お兄ちゃあああああああああああんっ!」
びりびりとした咆哮のような大声が村の中に響く。
俺アルフォンソは朝から晩まで角の生えたご近所さんに追い回されている。
それが転生した俺の日常。
五歳にして命の危険が匂う日常である。
だって。
こんなにも魔族の子供が強いんだ。
魔族の大人が負けるような人間に出会ったら、油断なんてしたら絶対に殺されてしまうに決まっている。




