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最後の復讐 1

 ノルガバの思想が明らかにされ、不穏な予感が国全土を覆う中、ジファは静かに、時計塔の頂きでオルザヴァのメンテナンスをしていた。ノルガバの思想をジファは知っていたためか、特別驚くことはなかったし、何よりもジファにとっては、オルザヴァとの残された極短い時間をともに過ごすことのほうが大切だった。

 オルザヴァは劣化が進み、彼のバグ、「混乱」は度々起こっていた。ジファは彼の活動が終わるまで世話をするつもりでいた。だがオルザヴァは、「混乱」のせいで多くの「間違い」を「間違い」と認識出来ずにいる。

 その事実は、オルザヴァが人工生命体であるのをジファに実感させ、ジファを悲しませる。

 オルザヴァは脈絡のない言葉を口にするようになっていた。それは、現実とはかけ離れていて、オルザヴァの知識や情報をつなぎ合わせた、作り話、フィクションだ。ジファはオルザヴァの話に耳を傾ける。オルザヴァの声は、「ザザ」という砂嵐の音にも似たノイズで、所々聞き取れない。


「ジファ……、ザザ……、私を裏切り、見捨てるのか。君の知らない親の温もりを私は与え……、ザザザザ、孤独の淵に私を……、追いやる……」


 当然、ジファはオルザヴァを裏切るつもりなどない。オルザヴァが親の温もりをジファに与えたとの話も誤りだ。それは、オルザヴァが「人」にもなれず、人工生命体としても「欠陥品」でもあったがための孤独な妄想だ。

 ジファはオルザヴァの妄想に、言葉をなくして、彼へメンテナンスを施していく。オルザヴァの妄想は、間違いでありながら、二人の境遇を反映していた。だからそれが余計にジファの胸を締め付けた。

 オルザヴァは会話することさえままならない。彼は操れなくなった「感情」をただ吐き出すだけだ。彼の「感情」は、孤独で覆われ、この悲しむべき「人」の短い半生を象徴しているようでもある。

 部屋の天井モニターには、戦闘機の銃撃戦が映し出されている。戦意高揚のためにプロパガンダ映像として、政府が放送しているものだ。そこからはパイロットの上気した声が響く。


「敵機を背後11の方角に見つけた! 回避する!」


 戦地映像は数秒単位で切り替わっていく。空中戦、海軍の闘い、あるいは地上戦へと。その光景は、オルザヴァとジファの、静かな追想と対照を成している。オルザヴァはジファに訴える。それは彼のAIが機能しなくなりつつある証だった。


「私はジファ……、君に愛が何であるかを教え……、ザザ。私の想いを託し……。世界を……、世界を変えるために……、k#i@pj+……、に! この悲しむべき世界を! v@vf」


 ジファは今やオルザヴァが、もう意思の疎通が出来ないほど、疲弊しているのを知りながらも、彼に話しかける。


「『世界を変える』。その通りだ。俺とあなたはそのためだけに生きてきたのだから」

「#$%fl184……!」


 ジファは、オルザヴァとの共闘戦線が、終幕に近づいているのを知り、感慨に近い感情を抱く。ジファは「混乱」するオルザヴァに想いを伝える。


「長い旅路だった。だが、じきそれも終わる」


 ジファは、「感情」を所々言語化さえ出来なくなっているオルザヴァに、それでもなお、重ねて言葉を送る。


「オルザヴァ、俺達二人の友情は永遠だ」


 ジファが、思いの丈を吐き出したメッセージでさえも、オルザヴァのAIは「解読不能」と処理し、破棄したようだった。オルザヴァの言葉は更に「混乱」し、詩のような表現に成り変わる。


「復讐は、夜闇の狭間に……、月の影を、落としていく」


 オルザヴァの言葉からは、もう何か意味を汲み取ることは出来ない。ジファは幾何かの寂しさを感じながらも、最後に彼、オルザヴァが機能出来るようにと、AIのメンテナンスを終える。天井モニターは、再び爆撃機の映像に切り替わり、爆撃機が墜落していく様を映し出す。パイロットの叫び声が響く。


「やられた! コントロール出来ない! おかしい……、爆発する! 動けよ! このボロ野郎!」


 爆撃機が墜落したのを、政府が認めたのか、その映像を最後にプロパガンダ放送は一旦途絶える。静寂、余りにも澄んだ静けさが「オルザヴァの部屋」を包み込む。

 オルザヴァは、ジファのメンテナンスのお蔭で、一瞬だけ、機能が回復したのか、ジファに呼び掛ける。ジファは、完全に彼が元通りになるのは、もう難しいのを知っていた。だがそれがために、オルザヴァの勧めを胸に刻み込む。


「ジファ、君が復讐を遂げたあと、私たちは離れるべきだ」


 ジファは黙ってオルザヴァの話に耳を傾ける。オルザヴァの言い回しは、欠陥品であった自分自身を自覚し、それがためにジファに十字架を背負わせてしまった悲しみにも満ちている。


「君は『怪人』から離れ、君自身に戻るべきだ」


 オルザヴァのメッセージを素直に聞いたジファは、ただ一言、こう彼に感謝の想いを口にする。


「ありがとう。オルザヴァ」


 そう言い残してジファは部屋をあとにする。オルザヴァはジファの後ろ姿を見送ると、しばらくの休眠に入っていく。それはジファとオルザヴァが心通わせる機会が、もう限られているのを表わしていた。


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