時計塔に眠る怪人 5
それからどれ位の時間が経ったのか、不意にジファの目を通した光景が美樹の心に浮かぶ。
シールの効果が未だに残っていたのだ。だがさすがにシールは摩耗しているのか、伝わってくる情景、情報は切れ切れだ。景色もかすんでいる。
ジファのいる場所。そこはどこか分からない。薄暗いが、広い場所らしい。話し声からしてそこにはカザがいる。そしてローズも。
加えてもう一人。周囲の人間に「キャベラ」と呼ばれる男もいた。彼はレジスタンスの建て直しをみなに呼び掛けている。
「失った同志の数は数えきれない。それでも我々は必ず政府を打倒するだろう」
彼の、美樹にとっては今や空疎に響く、熱論は続く。
「不毛な戦争に終止符を打てるのは君たちであり、私であり、まだ見ぬ戦友以外にいないだから」
ジファの視線の先に、キャベラの熱弁を耳にして考え込むローズの姿がある。彼女はキャベラの声を注意深く聞いている。密告しながらも、この虚ろな演説を振るう男を見て、ローズが、彼の言葉を、いやひょっとして「言葉」そのものを無力だと考えているようにも美樹には映る。
やがて、美樹は切れ切れのイメージから「その場所」の人々が食事をしているのが分かった。カザとローズが密談しているのも美樹にはしっかりと見て取れる。
イメージはぼやけては鮮明になるのを繰り返す。美樹が意識を研ぎすますと、しばらくの時間が経った頃、ローズがキャベラに耳打ちしているのが見える。
ローズの囁く声は小さいが、辛うじて聞き取れる。
「『果樹砂丘』の……、内部……、お渡しします。内通者が……、外でお渡し……」
ローズはそう言うとキャベラを外へと連れ出していく。視点が二人から離れないことから、ジファも二人についていったのが美樹には分かる。
ローズら三人は外、「果樹砂丘」へ出たようだ。「果樹砂丘」。そこは見渡す限り赤褐色に染まる砂漠だった。
ローズはキャベラを連れ立つと小高い丘の上に立つ。二人は夕焼けに照らされるシルエットになった。遠巻きにジファがその光景を見つめているようだ。
少しだけのやり取りがあったあと、キャベラはローズに背を向ける。その瞬間、ローズのシルエットは物言わずして、銃をキャベラの脳天目がけて撃った。
キャベラは膝から崩れ落ち、動かなくなった。ローズの姿は揺らめき、ジファが一、二度まばたきすると同時に消えた。
こうしてキャベラの裏切りは幕を降ろした。呆気ない、余りに呆気ない幕切れ。キャベラが死を被り、ローズが手を汚さざるを得ないという幕引き。美樹は両掌を握りあわせると、この悲劇の行く先を見据えるようだ。同時に、美樹はやがて訪れる「終幕」に自分と俊樹が使われることを、仄かに予感していた。
オルザヴァが美樹を「キーパーソン」と呼んだのを思い出しながら。




