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風見鶏 1

 11才の秋。アノマ・カロメは今でもよく覚えている。国防総省長官になったばかりの彼女の父を訪ねてきた男がいた。男は50代後半の科学者だった。

 男は「脳の働き」について研究をしていた。名前はノマ・ゲルマノ。創られたばかりの科学技術協会のメンバーだ。

 ゲルマノの研究は「異端」だった。彼は「脳を操る」ことで強い軍人を育てようとしていた。そのアイデアをアノマの父に持ち掛けていた。

 アノマは母に促されて挨拶に行く。彼女にとってはゲルマノは物腰の柔らかい紳士的な男で、魅力があった。

 アノマは打ち解けてゲルマノと話をした。だが彼が時折見せる親指の指先を撫でる仕草に、どこか神経質で冷たい印象をも感じ取っていた。


 ……そしてその男、ノマ・ゲルマノが昨朝、暗殺された。アノマが知らせを聞いたのは昨日の午後だった。


 政府はAMSOSIの手でジファ・セラヴィナに致命傷を与えた。更にはAMOSOSIがゲルマノを護衛していた。

 それなのに彼は一人、プライベートでゴルフをしていたという。

 アノマはゲルマノの行動が理解出来なかった。なぜ彼は自ら死を招き入れるような隙を見せたのか。

 科学と政治、軍事が関わることについて熱心で、執念にも似た思いを抱いていた彼、ゲルマノがなぜ諦めに近い心境になっていたのかも、アノマは分からない。

 アノマは、ゲルマノの死が彼女にとって、永遠に謎のままだろうと思った。 

 それから三日後、アノマはゲルマノの葬儀で、未亡人ケファナ・ゲルマノと話をする機会があった。

 ゲルマノは夫人にさえ仕事の中身を明らかにしていなかった。

 70近い夫人は、ゲルマノの「脳の研究」について詳しくなかった。

 夫人は、ゲルマノがリーダーだった「AIの研究」についても詳しくなかった。

 夫人は夫、ゲルマノを崇拝していた。

 それだけに今回の暗殺。夫人の心は激しく揺れる。彼女には夫が殺される理由など見つからなかったのだ。

 夫人はアノマを信頼していた。だから彼女はゲルマノの遺稿をアノマに委ねる。小型のメモリーチップに収められた、ゲルマノの「ラストメッセージ」はアノマの心を強く惹きつけた。

 メモリーチップには「AI」とだけ走り書きがしてあった。

 アノマは、ゲルマノの「ラストメッセージ」を後輩のプログラマー、ザナ・プカに渡してプロテクトを解くように頼んだ。ザナ・プカはフリーで活動し、アノマがより個人的に、内密に依頼する仕事を引き受けている。

 アノマは葬儀のあと、会見をした。会見では記者団が彼女に質問を次々と浴びせかける。


「ゲルマノ氏は、脳を操り大衆操作を試みようとしていたとの噂がありますが?」

「彼は一度襲われたにも関わらず、殺された。政府の落度では?」

「ドージ・カルメロ。デュガ・タカハシ。ノマ・ゲルマノ。いずれもAI研究に関わっている。何かつながりが?」


 アノマは記者団の質問に逃げるところなど一切ない。彼女は記者団に向き合い毅然として答える。


「あなた方の質問には、詳しく調べた上でお答えする。政府は何も隠すつもりはないし、隠す理由もないとお伝えして会見を終わらせていただく」


 何か事件が起こるたびに、詮索するように騒ぎ立てるマスコミ。だがそんな彼らをアノマは、特別褒めもしないし蔑みもしない。彼女は報道陣を一瞥すると、会見を終わらせ、足早に会見場をあとにする。会見場には、アノマの「凄み」だけが残り、アノマは次の仕事場へと向かう。

 多忙なスケジュールを、スムーズに彼女がこなしていく最中、レジスタンスから一人の密告者が現れる。

 名前はラナ・キャベラ。A級不穏分子であり、政府が行方を探していた男だ。キャベラはカリスマ性があり、政府に危険視もされていた男だ。アノマは彼を高く評価していただけに、彼の裏切りは彼女を一面落胆させる。


「『人の心』。これこそ人間に残された最後の研究素材かもしれない」


 アノマに、そう思わせたキャベラの本心はどこにあるのか。それを繙くために、彼女は「政治犯収容施設」、政治犯の中でも特に政府にとって重要な人物、時と場合によっては厚遇もする人物を収容する施設へとすぐに向かった。

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