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作られた体 5

 宿泊施設滞在三日目。フラカナに呼び出された美樹とジファは手術室に来ていた。そこでは万能細胞から作り上げたと思われるジファの脚部が、ガラス管に浮かんでいる。

 ジファのごくわずかな皮膚細胞から出来上がった脚。それは、人間の知性が辿り着いた「到達点」の一つにも美樹には映る。再生治療はジファの体に、その成果を見せるだけになっていた。

 美樹は、ガラス管に浮かぶ、ジファの完全な脚部を見て、その技術力に驚くばかりだ。

 だがそれらの行程、流れはフラカナにとってはごく当たり前で、日常的な光景なのだろう。フラカナは淡々と手術の説明をする。


「再生したジファの脚は、原型と僅かばかりの違いもない。あとは君の患部につなげるだけだ。ジファ。君のお眼鏡にかなったかい?」

「フラカナ。充分だ。感謝するよ」


 ジファにとっても、「この世界」の医療技術、自分の足が「再生」されることは、半ば当たり前なのだろう。特に何の感慨もなく、感謝の言葉を口にするだけだ。そのやり取りから美樹は、「ジファの世界」がテクノロジーの進歩に、なんら躊躇がないのが分かる。

 フラカナは、ジファに何事もないように応じる。


「いいや、構わない」


 フラカナが白い歯を少しだけ見せると、ジファは義足を外し、手術台に横になる。フラカナもガラス管から脚を取り出すと、いよいよ結合手術を始める。大手術であるにも関わらず、フラカナはこともなげだ。


「結合は機械がしてくれる。十五分もすればジファの足は元通りだ」


 美樹は、フラカナにとってこの程度の怪我の治療はたやすいものであるのが、手に取るようにわかった。幾度も幾度も、それこそ、昨日中庭で出逢った車いすの男性の組織、器官を再生したように、フラカナはこの種の手術を毎日といえるほど行っているのだ。


「フラカナさん、孤独じゃないのかな。この辺境のコミュニティで一人、国に認められもせずに、ただただ患者さんを治す毎日」

 

 美樹が地に足の着いた、一人の人間としての感想を抱くも、フラカナはそんな美樹に、構う素振りさえ見せない。それは「ジファの世界」の人々が美樹の価値観からすれば、「普通」ではないのを表していた。

 ローズにカザにジファ、そしてフラカナ。彼らは本当に強い。そのことが美樹には、どこか寂しくもあり、切なくもあった。彼らは、等身大の人間の感情にやや欠けているのだ。それが美樹に幾何かの孤独感をも与えていた。

 物思いに耽る美樹をよそに、フラカナは手術用の機械を手術台に近づける。手術用の機械、いくつもの手、指先をかたどっているかのようなそれは、人間の手足以上に滑らかに動く。


 ジファの手術は、特殊な抗菌カプセルの中で、強力な局所麻酔をほどこし行われる。ジファはつながれていく「足」を見つめながら、科学へ時に伴う危うさを美樹に伝える。


「美樹。これが科学の力だ。時にグロテスクで、尊敬に値する。人間の定義さえ変えてしまいかねない、背徳の力さえ伴うのが、つまりは『正しい』科学だ」


 ジファの言葉には少し、自嘲と皮肉めいたものが含まれているのを、美樹は微かに感じ取る。だがその理由を、美樹はたしかには知るすべもなく、二つの感情はジファからすぐに消える。

 やがて手術は終わり、ジファは立ち上がる。ジファは右足の感触を確かめようと足を二、三度踏み鳴らす。彼は右足の出来映えに満足したようだ。まるで傷口に絆創膏でもつけただけのような光景。美樹は唇に指先をあてて、驚くばかりだ。フラカナは、ジファの充足しきった様子を見て、彼に話しかける。


「ジファ。君の手術はもう二度目だ。拒絶反応などが起こる可能性は、限りなく0に近いが、もし何か異常があったらまたすぐに来てくれ」

「わかった。ありがとう。フラカナ」


 有意義で、命に関わるかもしれない大手術を終えたあとなのに、二人にその面影は一切ない。リラックスして言葉を交わし合うと、別れの言葉を口にする。


「それじゃあ、ジファ。また」


 フラカナはジファに手を差し出す。ジファはフラカナの求めに応じる。依然として、緊迫感の拭えないジファではあったが、フラカナには心底から気を許している。それがジファの一つ一つの動き、振る舞いから、美樹には感じ取れる。

 ジファとフラカナは、切っても切れない深い信頼関係でつながれている。そこが、美樹には、羨ましくも思えた。


「何だか……、いい関係」


 指先で唇を撫でる美樹を差し置き、手術を終えたジファは、特に達成感に包まれるわけでもない。彼は、美樹を連れ立って手術室をさっさとあとにする。例によってフラカナは、二人へ陽気に手を振ってお別れの合図をするだけだ。そのフラカナを見て、美樹は少しだけ心が和らいだのか、手を振って返した。

 病院を離れ、街へ出たジファと美樹は、またもエアタクシーに乗り込む。エアタクシーの、前とは別の運転手は今度も陽気にお喋りしていたが、ジファは気にも留めない。彼らはみなお喋りな人が多いようだ。

 運転手がご機嫌に話を続けて、客が取り合わなくても、別に構わない。このコミュニティの、そんな暗黙のルール、雰囲気が美樹には、なぜだか心地よい。


「いーい感じ」


 ジファと美樹は走り抜けるエアタクシーで静かに揺られていた。

 やがてタクシーがエアポートに着くと、ジファは管制官と料金のやり取りをすぐに終える。ジファは、このコミュニティに特段思い入れがないのか、それとも「復讐」が頭から離れないのか、美樹を連れ立つと、すぐにメカへと乗り込む。

 ジファは一言、二言告げて、美樹へ操作手順の確認を行うと、メカを大空へ舞い上がらせた。美樹は、この「コミュニティ」での、束の間の休息が終わり、ジファの現実に、二人が戻ってしまうのが心惜しくもあり、胸が痛々しく締め付けられていた。


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