作られた体 3
宿泊施設に着くと、ジファと美樹は、フラカナが用意してくれた部屋に入る。室内は不思議なインテリアがほどこされている。その余りに奇妙なデザインに美樹は声をあげる。
「ねぇ。これって。ちょっと面白くない?」
美樹が指さした「インテリア」は、深海生物のホログラム、脳の動きのシミュレーション映像、雲のオブジェなどだ。
美樹は、雲のオブジェに触れて、クスクスと笑い声を立てる。インテリア全てに面白味を見い出している美樹を見て、ジファは笑う。
「これらは全てフラカナの趣味だよ」
美樹は、フラカナのセンスに魅了されている。フラカナの人柄とともに美樹は、ますますフラカナに好意を寄せたようだ。
「ドクター・フラカナ。彼、遊び心があるのね」
ジファは、美樹のはしゃいだ様子を見て、目元に笑みを浮かべると、軽く頷くだけだ。ジファは用立てを済ませるのが、何より先だと考えているのか、美樹の心の動きにはさして関心を払わずに、二つあるベッドの片方に腰掛ける。そして義足のメンテナンスを始める。
孤独、孤独な闘い。ジファは「復讐」に心が囚われている。美樹はそう思うと、少し寂しげにジファの姿を見つめるしかない。
美樹がインテリアと戯れ、ジファが細かい用事を済ませていると、やがて陽が落ちていく。夜が更けて、それぞれのベッドにジファと美樹は横たわる。部屋の窓からは、月明かりが射し込み、明かりが部屋の中央にある、ホログラムを照らし出す。それはガーベラのホログラムだった。
ジファは、ガーベラを陶酔的な瞳で見つめる。
「ガーベラ。花言葉は『神秘』だ」
美樹はふと思い立ったのか、前から気がかりだったことを、不意にジファへ訊く。
「ジファ、あなたは科学が嫌い?」
唐突ともいえる問い掛けにも、ジファは質問の意図をすぐに把握したようだ。美樹は、ジファが反科学の人間ではないかと思っているのだ。それが分かったジファは淡々と答える。
「いいや」
「あなたの復讐には『AI研究』。科学が関わってる」
ジファは美樹が、予想通りのニュアンスの言葉を口にしたので、どこか安心する。ジファは、天窓に映る半月を仰ぎ見て静かに口にする。彼のその姿は艶やかでさえある。
「何ごとも、科学自体が悪いのではないよ」
美樹は黙ってジファの考えを耳にしている。科学自体が悪いのではない。では科学を悪用する人間に問題があると、ジファは言いたいのだろうか。美樹はジファの真意、話の続きが聞きたかったが、ジファはガーベラを見つめて、こう口にするだけだ。
「全てが『神秘』のヴェールに包まれたままならば、人は幸せでいられただろうか」
「神秘のヴェール」。人は何も知ることが出来なかったら、それはそれで幸せだっただろう。だが人は知ってしまった。だからジファの「もしも」は、ファンタジーでしかないことを、美樹は知っていたし、ジファもわかっているはずだ。
美樹はそう思うと、物憂げなジファの横顔に一度視線を送り、口をつぐみ、ガーベラを見つめていた。




