作られた体 2
フラカナは早速ジファの右足を診察し始める。フラカナはジファを手術台に座らせ、機具をジファの足の傷痕にあてる。フラカナは相当要領がいい。
「細胞を採るだけだよ。美樹さんはこの椅子に」
美樹はフラカナに勧められて椅子に腰かける。フラカナは簡単な説明をする。
「美樹さん、僕がこれから使うのは『万能細胞』だ。古くは『iPS細胞』に始まる」
フラカナは微笑む。それはこの万能細胞にまつわる、科学史の移り変わりについて少し想いを馳せたからのようだ。フラカナは話す。
「その万能細胞を傷ついた器官や臓器に変える」
フラカナの診察は流れるようだ。白い手袋をはめた彼は、余裕と自信で満ちている。
「僕がやるのはそれだけだよ」
フラカナは、ジファの細胞を乗せたシートをプラスチックで覆う。するとジファが、フラカナについて美樹に話をしてくれる。
「フラカナは敵対者が多くてね。だから、今はこのコミュニティでメスを取っている」
ジファの紹介にフラカナは屈託なく笑う。フラカナにとって過去のしがらみはたいして重要ではないらしい。フラカナは美樹に目配せすると、ある機械を指差す。
「そして『万能細胞』をごく短い時間で器官や臓器に変える。それがこの子だ」
フラカナは満足げだ。
「この装置は、細胞の成長を早めることが出来てね」
「『早める』。凄いですね」
美樹が口に手を当てて驚くのを見て、フラカナは愉快そうだ。フラカナが装置について、これ以上話さないのを察したジファが、装置の説明をする。
「この装置の中では、時間が光の速さにも似て、瞬く間に過ぎていくんだ。だから細胞の成長も早まる」
「光の速さ! どんな仕組みなの? ジファ」
「さぁ。それは光学博士の肩書も持つドクター・フラカナにしか分からないよ」
フラカナは、ジファと美樹のやり取りを見て、とても心地よさそうだ。ただ装置の仕組みについて話すつもりもないらしい。多分、美樹には理解出来ないものなのだろう。フラカナは軽快に笑う。
「まぁ、僕の医療への貢献はこの装置を作ったことくらいだよ」
フラカナは自らの業績にも涼しげだ。美樹はただただ口を開けるばかりだ。ジファは、話が一段落ついたのを確かめると、足を引きずり、フラカナに訊く。
「フラカナ、何日かかる?」
「そうだな。三日もあれば」
「頼む」
「分かった。その間、宿泊施設で寝泊まりするといい」
そう言うとフラカナは、受け付けに連絡し、宿泊室を手配したようだ。フラカナは準備が整ったことを、ジファと美樹に告げると、すぐにも次の仕事に関心が向いたらしい。彼は資料をめくり始める。ジファと美樹は、フラカナのその様子を確かめて、手術室を出た。
ジファたちの去り際、フラカナは右手を軽く振って二人を見送った。ジファも右手をあげてそれに応える。ジファはフラカナを医師としても、人としても信頼しきっているようだ。美樹もあどけない身振りで、フラカナに手を振った。
その美樹の素振りを見て、ジファは微笑んでいた。美樹はジファにまた一つの美点、魅力を見つけた気がした。それは優しくて温かかった。
「いい場所ね。ここ」
美樹はそう呟くと、セーターにくるまるような仕草を見せる。彼女の見つめるジファの横顔は温もりに満ちていた。




