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多世界宇宙 4

 もし風氏俊樹とトシキ・カザウジが同一人物ならば。

 あくまでも仮定に過ぎないが、美樹はココアを飲み終えると考えをまとめていく。

 まず、風氏俊樹と美樹が初めて出逢ったのは三年前。俊樹の新人賞受賞パーティでのことだ。処女作がいきなり受賞したというので、話題になり、その光景が美樹の記憶には鮮明に残っていた。

 俊樹は当初、今のような「夢見がちな空想家」ではなく、特有の緊張感のある男だった。その時は、俊樹が初めての授賞式で、慣れていないせいかと、美樹は思っていたが。

 だが、もしそれが違うのならば、もし俊樹、いや「トシキ・カザウジ」が難事を逃れるために、「美樹の世界」へ来たばかりだったがための、緊張感であったとすれば。


「彼は経歴にもいろいろと不備があったし、どこか不自然な人でもあった」

 

 「俊樹が来たばかり」。それならば、「意識転送」はその頃に完成したといえる。

 次に美樹が考えたのは、俊樹が「美樹の世界」へ来た理由だ。美樹はすぐに、それがロウとカルツァの死とも、関わりがあるはずだと見当がついた。

 ではロウとカルツァの「死の共通点」とは何か。それは「AI研究」。ロウとカルツァは、「AI研究」の理想家であったがために、殺されている。それは美樹もジファから聞いている。ならば、同じ科学者でだったであろう俊樹も、何らかの形で「AI研究」に携わり、それがために身の危険に晒されていたとしても不思議はない。


「仮定が正しいのならば、俊樹君は科学者。それも命の危険に関わるほどの『研究』をしていた」


 そう思うと、俊樹の朗らかな一面しか知らない美樹の胸は、締めつけられる。俊樹は、「ジファの世界」で何らかの「災難」に見舞われながらも、「美樹の世界」では優しく、穏やかに振る舞っていたことになるからだ。

 一瞬、シャム猫を胸に抱えた俊樹の笑顔が、美樹の心を掠める。彼の飄々とした笑顔が、今となっては美樹の胸に痛く、切なくうずく。


「俊樹君」


 そう唇を動かし、美樹はもう一つの疑問に触れる。それは、彼女が「ジファの世界になぜ招かれたのか」、その理由だ。もし俊樹が「意識転送」を使って美樹を「招いた」のならば、彼はなぜそうしたのか。

 この疑問を解くには、美樹には余りに情報が少ない。仮定も想像すらも出来ない。俊樹とトシキ・カザウジが同一人物だとすれば、この疑問は俊樹に直接訊かなければ解けそうにない。


「今は全てが仮定の段階だけど、あるいは」


 美樹はそう呟いて最後の疑問に手をつける。それは「ジファの世界」と美樹の物語に、なぜこうも一致するところが多いのか、だった。俊樹が何かしらの細工をしたのだろうか。だとしたら一体どんな方法で? 「ジファの世界」のテクノロジーは格段に進歩している。その世界の科学者かもしれない俊樹なら、何らかの策をほどこしたかもしれない。

 だが、それは全て「仮定」から始まっていて、美樹には本当のところは分からない。

 一通り、疑問の検証が終わった美樹は、姿勢を一度正すと、いずれにせよ俊樹が事件の重要なキーパーソンであるのをたしかめる。

 慣れない長い推理を終えた美樹は、椅子に腰を降ろす。するとモニターに手短なメッセージが映る。それはローズから送信されたものだった。


「美樹へ。もし私が命を落としても悲しまないこと。追記・ジファとは必ず仲直りするように」


 美樹は、ローズの心遣いに、ふっと笑みを浮かべて、モニターの文字に触れる。やがて美樹はココアのカップを仕舞うと「オフィス」を出る。

 美樹はジファの気持ちをたしかめるつもりでいた。彼女の足は自然と「アトリエ」へと向かう。


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