雪の降る夜 2
海軍施設。そこは新兵器や艦隊の開発をもする場所だ。海軍施設でアノマは、母船の開発の進み具合について聞く予定だった。
「母船ごときで、戦況が大きく変わるとは思えないが、宰相の意志だ。仕方ない」
そう一人零したアノマは、施設に着くと早速、開発チームの話に耳を傾ける。話の中心になったのはチームのリーダー、イノ・ゲラだ。まだ二十代の青年である彼を、アノマは高く評価していた。
開発状況に満足しながらも、アノマは持論を口にするのも忘れない。
「政府は軍事マニアに、いつまでも資金と時間を使うつもりはないことを心に留めておくように」
彼女のやや皮肉めいていて、それでいて辛辣な意見に、眉をしかめる開発チームの人間もいたが、イノ・ゲラは快く一言「期待に応えてみせます」とだけ返す。
アノマは相も変わらぬイノ・ゲラの優れた資質に満足し、施設から離れる。アノマの乗り込んだ車は、次はホテルへと向かった。
アノマの手元には、最近、捕えた三人のレジスタンスのデータがあった。彼女はデータをチェックしていく。
「テラ・アギトー、32才。IT会社勤務。リリガ・デュカリ、子会社経営……」
アノマの手元の資料にある限り、三人はみな恵まれた境遇にある。そんな人間がレジスタンスに加わるとは。その状況をアノマは疎ましくも思っていた。
「『反戦』。反戦が美徳の一点張りか」
そう、レジスタンスを軽視するアノマは、ホテルに着くと、とある食事会に加わる。食事会には「レジスタンス掃討計画」のメンバーが集まっていた。
アノマは、食事に手をつけるのもそこそこに、計画のリーダー、ガカ・ジャノメに尋ねる。
「『時計塔の地下街』をどうする」
ガカは、叩き上げの元諜報機関員で、その行動力、アイデアには誰もが一目置いている。その能力から、のちのちには政治的影響力も持つのではないかと目されてもいる。ガカは軽妙に右掌をあげると、自信ありげに答える。
「放置します。彼らが暴力を使えば人々の心は離れていく。それを狙いにして」
アノマはガカの計算に満足すると、加えて尋ねる。
「怪人、『オルザヴァ』については?」
「『彼』は『時計塔』にいます。AMSOSIと我々しか彼には対抗出来ないでしょう」
だがガカは冷淡な瞳で付け加えるのを忘れない。
「ただし、火種はすぐに消せます」
アノマはガカの有能振りにいたく満足して、こう信任すると、食事会を打ち切る。
「分かった。任せよう」
アノマはまるで何かの「亡霊」、憎しみという「亡霊」に駆り立てられるように、食事会から離れる。続いてアノマは、特務機関の訓練施設へ向かう。
アノマは、そこで「レジスタンス掃討計画」の中心になる、「第七課」のトレーニングの様子を視察する予定だった。
施設へと移動する車中、空を滑走する車の窓から、アノマの目に、精霊に扮した子供たちの姿が入る。今日も22年前のあの日と同じお祭りの日だ。
子供たちは楽しげに街を歩いている。アノマはほんの一瞬だけ子供時代を思い起こす。だが彼女の追想は、自宅での暗殺現場を目にする前で、まるでそれを拒むかのように途絶える。アノマは一つ息をつく。
「私の記憶が閉ざされるのなら、それはそれでいい。レジスタンス。彼らが私の標的であるのに変わりはないのだから」
ちょうど22年前のあの日、ポツリポツリと舞い落ちた雪のように、冷たく凍る彼女、アノマの心を乗せて、車は走り去り、彼女の視界から、はしゃいで笑い合う子供たちの姿は遠のいていった。




