7話 魔法の判定
ダンテと別れてから数十分が経った。
ダンテと別れてからは事件の起きた場所に行ってみようということでシルヴィアの意見に合意した。
この王都では王城を中心に東西南北で四つのブロックに分けられており、北は貧民街、東は王都に入るための門がある影響で宿や食事店などが多い。南は居住区、西には商い通り──つまり、商人たちが店を構えているブロックということになる。その周りを外壁が囲んでいる。
ただ、ブロックに分けられているとはいえそこまで一つ一つのブロックが大きいわけでもなく、またほかのブロックに行くためにお金を取るわけでもないので、正直なぜ分けているのか不思議なところではある。
そして今、シュウ達はブロックとブロックの境、衛兵がいる詰め所らしき場所に来ていた。
詰め所は基本石でできており、日本でいうところの関所のようなものだ。またしっかりと兵士が見張っており、問題を起こせば即刻捕まることなど容易にわかる。
シルヴィアの話によれば、ダンテは一度ここでやらかして捕まっており、それから苦手意識でも持っているのか西のブロックにはほとんど行っていないという。もしかしたら、シルヴィアにこっちを任せたのはそのせいではないだろうか。
「しかし‥‥‥なんでまたブロックになんか分けたんだろうな」
「たぶん、兵士を各地に配置させて問題を減らすってことじゃないかな」
ということらしい。確かに兵士がいれば、それだけで抑止力になるに違いないが。
「まあ、そこらへんは対策してるんだろうなあ」
「大丈夫だよ。だって王城には『五人将』がいるから」
シュウと同じ答えにたどり着き、しかしそうはならないとシルヴィアは呟いた。
「『五人将』? そんな人たちがいるのか。もしかしてシルヴィアがその一人だったり?」
シュウの質問にシルヴィアはかぶりを振る。
「違うよ。ただ、全員とは面識があるよ。何回か王城に呼ばれたときにね」
面識があるとはいえ、あまりしゃべったことはない。つまり、偉い人のパーティーに行って挨拶させられるようなものかもしれない。
そのまま詰め所をシルヴィアとともに通過したが、どうにも視線がシュウを射貫いてきていたのだが、別に気にすることなく通過。
商い通りに入ってみれば、とんでもない人の行列だった。
今朝事件が起こったというのにこの大繁盛だ。王都の全体の買い物客がここに集結しており、ここが王都の経済をけん引していると言っても過言ではない。
「さて、シルヴィアどうする?この人込みじゃ聞いて回るのもできなさそうだけど」
シルヴィアは遠くを見渡し。
「あ、あれ今朝会った人たちじゃない?」
シルヴィアが指をさした先にいたのは、今朝事件を解決していったあの二人だった。確か青髪の少女がレイだったか。赤髪の少年については名前を知らない。
あちらもシュウ達に──正確にはシルヴィアに気づいたのだろうが──気づき、寄ってくる。
「お二人さん、さっきぶりだね。……と、そう言えばしっかりと自己紹介してなかったね。主に、シモンの方が」
そう言って、明後日の方向を向いている少年を強引に引っ張り、シュウの前に立たせる。だが、何も語らない。どうやら、喋るのが面倒なタイプの人間らしい。
「もう! ──えーと、こっちはシモン。今、私たちは買い物に来てるんだけど……もしかして、二人も?」
「いや、俺は一文無しだから買い物はできないよ」
「え‥‥‥お金持ってないの?」
シュウが一文無しだということを聞き、驚くレイ。
当然だ。この大通りに来たにも関わらず、お金を持っていないのもおかしな話だ。
ここは正直に話すよりも嘘をついてでも平凡を装うべきだったかもしれない。
いや、有名人であるシルヴィアがいる時点で不可能だ。
「あ、いや、その。私の付き添いっていうか。そう、私の従者なの」
「そういう……。でも、彼黒髪ですよ? 貴族達からボロクソ言われるんじゃあ……?」
レイはシルヴィアの説明で一応は納得するが、すぐにシュウを見て──正確にはシュウの髪を見て、シルヴィアに助言みたいなものを与える。
「そうなんだけど……どうしても、放っておけなくて」
「『英雄』の従者ってことは‥‥‥お前強いのか? だったら、俺とやろうぜ」
シルヴィアが何とか弁明している最中、空気を読まない脳筋シモンが割って入ってくる。
しかも、その口から飛び出たのは彼との勝負を示唆するものだった。とんでもない誤解だ。有名人の知り合い、全員が全員面白いとは限らないように。
強い人間の付き添いが強いと言う常識はない。というか、シュウ自体はそこら辺に居る一般人となんら変わらない。
ゆえに、自分の特別を持っている彼らの足元にも及ばない。
「えっと、だからその‥‥‥なんていうか、あれだよ。その、ええと‥‥‥あ、家の手伝いとか、そっちのほうの人だから、だから、強くはないよ?」
そんなシルヴィアの必死の弁明により、何とか事なきを得た。
シュウは通行人の奇異な視線を集めながら、シルヴィアを含む四人で大通りを歩いていた。
「しかしなんでこんなに視線が痛いんだろうな……」
そんな黒髪の少年の呟きにシルヴィアは何度も口を開いては閉じ、シュウの黒髪を見ては視線を外しを繰り返す。
シュウも大体は想像がついている。
原因は間違いなくこの髪だ。黒という色はまだこの世界では見かけていない。
そのシュウの考えを、シモンが肯定した。
「その髪のせいだろ。どう見ても」
「シュウ。この国では、というか人間領では黒は禁忌とされているんだ」
「──!?」
思い返せば、宿からここに至るまで何度奇異の視線──恐ろしいものを見ているような視線を浴び続けられてきた。
そこで気づくべきだった。
シュウはこの世界に歓迎されていないということに。
「さすがに理由はわからないけど‥‥‥。それでも大多数の人が黒に危険意識を抱いてる。だから、気を付けてね」
今の今までシュウが無事でいられたのにはひとえにシルヴィアが傍に居てくれたからだ。
いくら危険視されているとはいえ、信頼されているシルヴィアが黒と楽しそうに会話していれば結局のところ、手出しは出来ない。
本当に、何度もシルヴィアには助けられている。
「そうなのか‥‥‥つか、ことごとく俺を狙い撃ちしてきてないか? この世界」
いきなり理由も分からないまま、この世界に召喚され、悉く不幸に見舞われる。これはまるでシュウに世界が出て行けと言っているようなものだ。
「はあ‥‥‥なんか俺も魔法とか異能、使えないものかね」
そんなシュウの諦めたかのような言葉にレイは首をかしげて答えた。
「え? 魔法って誰でも使えるよ? ま、流石に『オラリオン』の方は習得まで時間がかかるからあまりお勧めしないけどね」
「魔法、使えるのか?」
全てに絶望した彼にたった一つ差し伸べられた救いの手。
魔法が全員、使えるという新事実だ。
「うん、一応誰でも使えるよ。でも、才能の良し悪しも関係してくるから全員が全員凄腕ってわけじゃないんだけど」
それはシルヴィアから聞いた話だ。
魔法は使う人の才能が大きく作用されるものだと。
それも当然だ。全員が全員、凄腕の魔法士ばかりならこの世の問題など全部解決できてしまう。
「何か調べる方法は?」
「うん、あるけど簡単だよ。──その人が何の属性と繫がりが深いか調べるの」
よって、本日の調査は聞き込みから、シュウの魔法適性を調べるものへと変わった。