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6話 大英雄

 先ほど宿の受付で文句を言いまくっていた男性は、探し人であるシルヴィアを見つけたことにより、受付の人に誠心誠意土下座し、事なきを得たのだ。


 それから男性は俺が目覚めた部屋──おそらく俺の部屋なのだろうが──に来た。


 男性の外見を一言で言い表すのならば、ライトノベルなどに出てくる冒険者そのものの格好だ。言い方は悪いが薄汚れたローブを着ており、その首には古ぼけたマフラーを着ている。


「いやあ~、すまんな。シルヴィ。まさか事件があったなんてわからず、騒ぎ立てちまった」


 まったく悪びれた風もなくあっけからんと言ってのける男性に、シルヴィアはため息をつく。


「まったく、これで何度目ですか‥‥‥ミルがいないときに問題を起こされると、その後始末をするのは私なんですから」


「いいんだよ、後でなんか送っとけばなんとかなるって」


 なんか師匠が起こした不祥事をシルヴィアが後始末して回っているらしい。今の会話を見るにおそらく問題を起こさないと気が済まない性格なんだろう。


 疑問に思うだのが、この人がシルヴィアの親なのだろう。が、この性格だ。なぜシルヴィアような聖人が生まれたのか不思議でならない。


「ところで‥‥‥その男は誰だ?」


 一通り会話を終え、会話の話題がシュウに切り替わる。


 一応笑いながら言っているものの、目が笑っていない。ここで下手なことを言ってしまえば、ガチで殺されかねない。


 どういったものかと悩み、口をつぐんでいると、シルヴィアが説明してくれた。


「えっと、こっちはシュウ。昨日魔獣に追いかけられてたから私が助けたの」


 シルヴィアのナイスアシストにより男性は顔をしかめるにとどまった。おそらく俺が説明したところでなんだかんだと文句をつけられ、問答無用で斬られていたかもしれない。いや、これは誇張でもなく本気で目が語っていた。


「そうか‥‥‥本当にそうなんだな? シルヴィを誑かすつもりだってんなら容赦はしねえぜ?」


「ちょっと! そんなことないです!」


「ふっ‥‥‥甘いぞ、シルヴィ。こういうやつはな、わざと助けてもらって弱いところを見せて保護欲を駆り立てて、女の母性本能をくすぐらせていくスタイルなんだよ」


「だ・か・ら! そんなんじゃないです!!」


 男性のおどけたようなセリフにシルヴィアはご立腹なご様子である。


 とりあえず、シルヴィアの怒りをなだめて話の続きを要求する。


「それでさ、シルヴィア。この人誰?」


 その言葉を聞いたシルヴィアは一瞬だけ驚き──すぐさまいつもの顔に戻り、その質問に答えようと口を開こうとしたが、男性がその手で制する。


 男性はその言葉を待ってましたとばかりに立ち上がり、理解不能なポーズをとりながら言う。


「俺の名はダンテ・ウォル・アルタイテ。かの有名な『大英雄』だ!」


 男性──ダンテは変な自己紹介を終え、満足したように座る。なぜかシルヴィアはダンテに呆れているようだが、その理由はわからない。


 『大英雄』──はっきり言おう。まったくわからない。もしかしたら、こっちの世界だと有名なのかもしれないがこの世界について理解が及んでいないためわからない。


 その自己紹介を聞いて首をかしげている俺に気づき、


「えっと‥‥‥もしかしてわかんない?」


 ただ、頷くしかなかった。




















 『大英雄』──朝の話で出てきた15年前の戦争で王国に多大なる貢献をした『英雄』らしい。『英雄』という称号は何人もいるらしいが、大英雄はダンテ一人だという。魔族の実力者を何人も屠っていることから『英雄』の中でも最強だともいわれている。


「つまり、すごい人だってことか‥‥‥」


「まぁ、そういうことだね」


 シルヴィアのレクチャーを受けてもたいした理解を得られず、シルヴィアは若干疲れ気味の笑顔を浮かべつつ肯定した。


「何言ってんだ。シルヴィだってすごいだろう?」


 シルヴィアも『英雄』である可能性は実は前からあった。というか、あれだけの実力者だ。『英雄』でなければなんだというのだ。


 シルヴィアの方を見ると仕方ないか、という顔で呆れていた。


「ごめんね、隠してて。正確には後継者なんだけど」


「まだ、『英雄』にはなっていないってこと?」


 シルヴィアはその言葉にうなずき、何か説明を加えようと口を開いたが、


「へい! そんなことよりもなんでシルヴィは外出してたんだ? ああ、いや事件だったか」


 ザ・空気の読めない男ダンテによって阻まれる。


「あ、えっと、事件のことを言うの忘れてたね」


 それから十分ほど、事件のおおまかなあらすじを説明。まあ、説明はすべてシルヴィアが行ってくれたが。いや、なんというかまだ、ダンテさんの目が厳しいような気がするので基本口出しはしないようにしているのだ。


 一通りの説明が終わり、その話を聞いていたダンテは神妙な顔で黙りこけっていた。


 そして、シルヴィアの方を見やり、


「そうだな、シルヴィ。俺はちょっと外出してくる。ああ、安心しろ。問題を起こす気はまったくない」


 さっきまでの飄々ととした態度とは一転、まさにスイッチが切り替わって別人のような振る舞いである。


「はい、わかりました」


 それにさして驚く様子もなく、シルヴィアは承諾する。


「さて、まったくまた面倒ごとかよ‥‥‥。しかも今度は、魔族絡みときたもんだ。正直、くそめんどくせえ‥‥‥」


「そう、ですね。最近魔族がらみの事件が頻繁に起こっていますから」


「そうだな、じゃあ、シュウっつたか? お前はシルヴィアと行動してくれ」


「え、いいんですか?」


「いいに決まってんだろうが。今この状況で動けんのは俺たちしかいねえ。だから猫の手も借りたいってわけよ」


 猫の手も借りたい──つまり、大した期待はされていないということだ。だが、あながち間違いではない。なにせ、この場所の道すら知らないのだ。


「よし! じゃあ、俺は酒場のほうに行ってくるから、お前らは西のほうを中心に動いてくれ」


 その言葉とともに、行動を開始した。




















 ただ何事もスムーズにいくわけではなく、シュウの宿泊代を払っていないことに気づき、どうしようかと悩んでいた所、目の前でシルヴィアがダンテに宿泊代を払ってくれとお願いしていた。愛する娘の頼みごとにより、ダンテは一瞬で陥落。宿泊代をシュウに持たせ、支払わせにいった。


 その間、一人で佇んでいたシルヴィアにダンテが近づいてくる。


「シルヴィ。さっきのは迂闊すぎだぜ」


「すみません、つい喋ってしまうところでした」


 シルヴィアは聡明だ。それは何よりダンテがよく知っている。だからこそ腑に落ちないのだ。シルヴィアが迂闊にも手の内を明かすなど。


「どうしたよ、いつもなら考えられねえミスするなんて。いや、まあそこがいいところなんだが」


 いつもの調子でおどけてみせるダンテにシルヴィアは苦笑して、


「いえ‥‥‥私にもわかりません」


「そうか‥‥‥だが、気をつけろよ。やつらはどこにだって現れる。もし、あいつがそうだったら‥‥‥お前はあの男を殺さなけりゃいけなくなる。まあ、なんにせよ、深く入れ込むなよ。そのときが来たとき、迷っちまうから」


 できれば、その時は来ないほうがいい。そうなれば、少なからずともシルヴィアの心に傷を負わせてしまうことになりかねない。


 珍しく二人に間に流れた緊張感は、シュウの到着により若干ほぐれたのであった。

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