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8話 王との謁見

「シュウ。大丈夫? 体調悪くない?」


 昨日遅くまで起きていたシュウを心配し、声をかけるシルヴィア。


「ああ。大丈夫だよ。なんともない」


 元々、通常の人間とは違った時間を過ごし夜行性となっていたのであまり問題はない。


「それで、王城にはいつ行くんだ?」


「えーと、あと数時間後かな。それまで準備をしたほうがいいかな」


「そっか。なら、いいや」


 王城に行くまで約数時間。


 その間に覚悟を決めなければならない。


 シュウはもう一度昨日の夜あったことを思い返す。


 貧民街での出会い、少女の母親、現状。


 それらを再確認し、決意する。


 今回、シュウは進言するつもりでいるのだ。貧民街の待遇の変化を。


 受け入れてもらえないかもしれない。聞く耳なんて持たれなくて、貧民街を人間とは思っていない貴族達に止められるかもしれない。


 だが、それでも止めようとは考えない。


「それじゃ、朝飯でも食べに行こうか」


「うん、そうだね」


 シルヴィアとともにミルが待っている場所へと向かうのだった。





















「それで、昨日の弁明はそれだけでいいの?」


「本当に返す言葉もございません……」


 目の前で怒髪天を衝くような雰囲気でミルが詰問してくる。


 事の始まりは簡単なことだった。


 シルヴィアとともにミルが待つ場所に着た瞬間、ドロップキックを決められダウン。


 しかしミルはそのまま意識を手放すことを許さず、胸倉を掴み腹に一撃。


 シュウは腹を抑え、悶絶。


 ミルはその姿を見て溜飲が下がったのか、それ以上の追撃はせず、代わりに尋ねてきたのだ。


 昨日、何をしていたのかということを。


 シルヴィアが慌てた様子でミルに説明しミルはその説明を受け、納得の姿勢を取ったのも束の間。


「それはそれとして、言いつけを破った後輩にはきつい罰を与えないとね……?」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!! どうかご慈悲を、てか、俺は何も悪くないんだあああ!!?」


 罰──それはミルが考案したシュウをいびるためだけの地獄。


 種類は一種類だけでは留まらない。


 24時間耐久や、ミルの仕事を肩代わりするというものが含まれている。


 ちなみに24時間耐久は一度だけ経験したことがあるが、あの時は死ぬかと思ったのを鮮明に覚えている。


 そういうわけでシュウが悪くないことを述べたのだが、その楽しそうな目は変わらず、会話の冒頭に戻ってくる。


「ミル。シュウは悪くないよ。人として当然のことをしただけ。それで、罰があるなら──私も受ける」


 シュウの行いを褒められこそすれ、説教されるものではないとシルヴィアは説得する。


 最後の一言。


 つまりシュウに罰を与えれば、必然的にシルヴィアも罰を受けることになる。


 自らの主であるシルヴィアに罰を与えるなど、従者失格だ。


 シルヴィアもそれを狙ったのかは知らないが、結果的にミルの判断を鈍らせることに成功する。


「──。────。分かりました、昨日の事で咎める気は、私にもありません」


「そう、なのか? なら、なんで……」


「それに関しては触れないでおくわ。──それよりも、昨日暗殺者に遭ったって、本当?」


 これまでと違った神妙な面持ちで話しかけるミル。


 暗殺者──そこから導き出されるのは、セイロス達の事だ。


「ああ、会った。それが、どうした……?」


「そいつに何か特徴、みたいなものは?」


 セイロスの事に限れば拘束具で全身を固めていた。


 しかし、もう一人は全く分からない。


 完全に視界を奪われた状態での接触だ。


 ただ一つ、感じたこと。


 気配がなかった。


 ガイウスの様に強者から感じる感覚がなかった。


 つまりそれは意図的に消しているということで──。


「ああ、あった。一人は拘束具をはめてた。もう一人は、外套のせいで何も分からなかったけど──かなり強い」


 気配を消し、殺気を出さず、あそこまで近づくことが出来る者は限られている。


 ひょっとしたら、ミルよりも強い。


 そう思わせるほどの片鱗を、シュウに刻み付けていった。


 ミルはシュウの発言を聞き、思いつめた表情になる。


「そう。──気を付けて。まだ、終わりじゃない」


「え?」


「あいつらは──目標を殺すことを生業としている。ゆえに、狙った獲物は、地の果てまで逃さない。たとえ、東の果てまで行くことになろうとも」


 東の果て。


 この世界の東に位置する小さな島。


 シュウもシルヴィアから聞いた話ゆえ見た事もないし詳しくもないのだが、この世界の端に位置する場所には遺跡島が存在しているとのことだ。


 誰が、何のために作り出したのか、そもそもいつ作られたのか。


 全てが不明であり、謎の遺跡。


 かつてそこに行こうとした英雄達は皆辿り着けずに、その人生を終えている。


 では、なぜその存在が知られているのか。


 この世界に伝わる伝承のうち、『魔神』、『剣神』、『龍神』の英雄譚に書き写されているのだ。


 それぞれが別個の物語でありながら、最後は共通して東の果てで終わる奇妙な物語。


 今もなお、世界の人々を魅了し続けている最古の冒険譚だ。


 その中では結局辿り着けたかどうかは曖昧な部分で終わっているため、学者の中で長い間論争の焦点になってきたそうだ。


 結論からして、彼らも辿り着けなかったものとして処理された。


 それほど、不可能なのだ。


「つまりは執念深いと」


「彼らは言ったことを絶対としている」


 まるで知っているかのように語るミル。


 それに若干の疑問を覚えるが、そのまま聞き流す。


「貴方を目標に設定すれば、どこまでも追いかけてくる。──だから、目の敵にされないことね」


「忠告ありがとう。……まあ、言っちゃえば、今回も狙われた意味が理解できてないんだけどな」


 そもそも、なぜ自分が狙われたのか、それが理解できない。


 王女であるアリスを狙うなら、まだ納得できる。


 だが、セイロスはあの時こう言った。


『さあ。ササキシュウ並びにアリス・イリアル。──その首、貰いに来た』


 つまりはシュウも標的だった。


 傍から見れば何の力もない少年を、わざわざ殺すだろうか。


 もしかしたら。


 シュウの知らない所で、何かが動いている可能性が高い。


 シュウが狙われる理由になる何かがあるのだ。


「だけど、まあ。今回は来ないって信じてるけどな……」


 撤退の間際、外套を纏った誰かは囁いた。


 手出しはしないと。


 それを信じるのならば、王都にいる間彼らは仕掛けてこないことになる。


 そして。最大の疑問。


 あの男が言っていた不吉な言葉。


『今回の事に、関わらないことを約束しよう』


 まだ、終わらない。


 次がある。どこかで爆発するときが必ず訪れる。


 そのことに気を配りつつ、着替えるために部屋へと戻っていった。
















「──でかくねえ!?」


 シュウは目の前にそびえたつ王城を目にして叫んでしまった。


 王都にいればまず否が応でも目に入るその存在感は、近くに来れば来るほど増す。


 城壁が石で囲われており、その四隅には党が配置されている。


 南西、北西、北東、南東に設置されている塔には金箔が施されている。


 そこに太陽の光が反射し、まさに幻想的な風景になっていた。


「シュウ。喚かないで、品性が疑われるわ」


 周りの目を一切気にせず、叫ぶシュウにミルは注意を促す。


「大丈夫だ。所詮俺の品性なんてたかが知れてる……はあ、もう自分で言うようになっちゃったよ……」


 もはや自前でツッコミとボケをやらなければならない状況に危惧を覚える。


「シルヴィア様。城門が」


「うん、そうだね」


 固く閉ざされていた城門がついに開く。


 まさに難攻不落の砦のように思わせる城門はゆっくりと開いていく。


 中から迎えるのは白い鎧を纏った集団。


 その手に剣を持ち手を胸に当て、敬意を表す仕草をし乱れなく整列している。


 騎士。


 自らに負荷を与え続け、境地に至った者たち。


 シュウとは生き方もまるで違い、憧れすら抱くその畏敬の姿に圧倒される。


  城門から城の入り口に続く道には赤い絨毯が敷かれており、その脇に王城に住む者たちが膝をつき並んでいる。


 その真ん中を歩いていく。


 勿論、真ん中にシルヴィア。その後ろに控えるようにシュウとミルがついていく。


「『英雄』の後継者様、並びにその従者であるミル殿、シュウ殿。ようこそおいでなさいました。奥で、王が待っておられます」


 脇に控えていた内の一人にそう言われ、奥へと向かう。


 辿り着いた場所。


 謁見の間。


 騎士団の中でも高い立場にある者が行く末を見守るように佇んでいる。


 その中で最も異彩を放つ二人。


 白い鎧を着こなし、優雅という言葉すら似あう青年。


 ガイウス・ユーフォル。


 そして、もう一人。


 同じ五人将の一角にして、騎士とは思えない程の冷酷さをアメジストの瞳に秘めた灰色の髪の少女。


 しかし鎧は纏っていない。


 当然だ。鎧などという不純物は、彼女の美貌を曇らせる。


 まさにバラを連想させるような印象を万人にもたらす少女の名はローズ・ウェルシア。


 五人将最強と名高い女性。


 それらを束ねるように、一段上。


 王座に、一人の男性が座っていた。


 この国の王にして、アリス・イリアルの父──ダリウス・イリアル。


 言いようのない緊張感が場を包む中、静寂とした空間にて声を震わせる。


 王の威厳をもって。


 それは先ほどまで瞑目していたガイウスは目を開け、俯いてたローズの視線を上げさせる。


「さて、始めようか」


 重々しい言葉が放たれる。


 その言葉とともに、魔法道具は効果を発揮し始め──任命式が始まるのだった。

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