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番外編 IFルート~賢者~

月が闇夜を照らす月下の夜。


暗闇だけがすべてを支配しているそこに二つの影が蠢いていた。


一人は水色の髪の少女、賢者と呼ばれるメリルだ。


もう一人はフードを被っていて、その顔を判別できない。


だが、その体格から推測すれば男の面影が見える。


二人は暗闇に紛れ、森を駆け巡っていた。


向かう方角は南。


国の北の端から南にある王都に向かっていた。


「いやいや、この森、結構虫が多いね。なんだか肌を刺されそうで怖いよ」


メリルは退屈を紛らわすようにもう一人の男に聞こえるように呟く。


対して、もう一人の男は無感情な声で答える。


「貴方には肌なんて関係ないと思うが。大体、魔法で治せるだろう」


「分かってないなあ。女の子の肌に傷がつくんだよ? それを気にしてるんだよ」


メリルの答えに、しかし男はただ不思議そうに首をかしげる。


「? あなたはそもそも女子を名乗っていいのか? 人間ていうのはそもそも限られた時間でしか生きられないものだ。だが、貴方には時間の制限がないはずだ。それを、果たして人間と呼べるのか」


その受け答えを聞いたメリルはため息をついて、呆れたように首を振る。


「ねえ、その生き方、疲れない? 問題に突っ込んでばっかりいるとストレス溜まるよ?」


その心配したような声に、しかし男は気にする様子はない。


「なら、貴方が黙っているのが一番いいんだけどね」


「はあ……そういうのはね、思っていても言わないのがいいんだよ。だから君は女の子にもてないんだよ」


男の呆れた言葉にメリルは拗ねたように言葉を重ねる。


「まったく……だからこそ、貴方と一緒に王都に向かうのは嫌だったんだ」


「一人で過ごしたかったのかい?」


「ああ。そうだね。こういう日は、一人でいるのがいい」


「それはなぜ? もしかして、あの日から一年が経ったからかい? ササキシュウ」


ササキシュウと呼ばれた黒髪の少年は、その黒の瞳の奥に異常な闇を映らせ、懐から出した花──みそはぎに似た花を眺めながら、黙っていた。


あの日──ササキシュウが賢者の手を取り、一人の少女を裏切った運命の日から約一年だ。


そこで、ササキシュウは全てを知った。


この世界の事を、真実を。


だからこそ、こうして世界に歯向かっている。


そのために必要なピースを、王都へと取りに行くところだ。


「──メリル。早く行こう。これ以上時間をかけるのは得策じゃない」


その話題から逃げるように話を切り替えるシュウ。


「そうだね。じゃあ、行こう。この無為な日々に、終わりをもたらそう」


水色の瞳に覚悟を秘め、王都へと向かっていく。


その寸前。


一人の影が、彼らの行く手を遮った。


桃色の髪をなびかせ、一人の『英雄』が立ちはだかる。


「やあ。シルヴィア。久しぶりだね」


「────」


見知った少女に、メリルは気軽に挨拶をし、シュウは押し黙る。


「お久しぶりです。賢者様。そして、シュウ」


シルヴィアは賢者に一応の敬意を示し、挨拶を返す。


しかし、シュウは何も返さず、ただ下を向いているだけだった。


「うん。ところで、シルヴィア。今日は何の用だい? 彼がすごく居心地が悪そうな顔をしているんでね。出来るだけ早く済ませてほしい」


「二人を、止めに来ました」


簡潔に述べられる内容。


それは『英雄』候補である彼女に課せられた使命だ。


事実、彼らは今日まで様々な事件を起こしてきた。


今までは黙認されてきたが、ついに耐えきれなくなったらしい。


だが、その事実に臆することなく飄々とした態度で続ける。


「そうか。ついに『英雄』直々に赴かれたか。まあ、彼にしては我慢したほうかな」


そう言って、この命令を下したであろう自らが契約したはずの男──この国の王の姿を思い浮かべる。


「で、ボクとしてはなぜ君が派遣されたのかが分からないんだ。本当にボク達を止めたいなら、ダンテをよこせばいい。だけど、彼は君を送ってきた。その意味が、分からない」


「──私は」


「いや、推薦したのはダンテかな? ああ、なんて酷なことを。彼も分かってない」


瞬時に彼女がこの使命を受けた理由を見抜いた賢者は、ダンテの愚かさを嘆く。


「何が──」


「君に、ササキシュウは殺せない」


賢者の言っている意味が理解できない『英雄』の前で、そう言ってのける賢者。


そして、シルヴィアもそれを否定をしない。


「理由はおおよそ見当がついている。──まだ、目が怖いのかい?」


その一言に、まるで親に何か悪さをして怒られることを怯えるように、肩をビクッ、と震わせる。


核心の一言。


シルヴィアが抱えている闇。


その闇の本質に迫るものだ。


「私は──そんなつもりじゃ」


「分かってる。そういうつもりではないことぐらい理解できている。だけどね、人間とはそういうものなんだ。心が勝手に求めてしまうんだ。そして、それに出会った時、人間はそれを離すまいと必死になる」


まるで実体験の様に語る。


「そして、唯一彼だけが、君をそんな目で見ない。──だから、君は彼を殺せない」


シルヴィアは否定も肯定もせずにただ俯いている。


長い沈黙。


やがて、『英雄』は口を開く。


「私は、君を止めに来た」


揺るがない決意。


それを口に出す。


「君のしていることは、間違ってる。どうして、そんなことを?」


シュウに対しての問いかけ。


それは今まで国中で混乱を招いてきたシュウに聞いているのだ。


「俺は、この世界が嫌いだ。だから、全て壊す」


「どうして──」


ぽつりとシュウの口から出た言葉。


それは少なくともシルヴィアが知るシュウからは絶対に出ない言葉だ。


「この世界が、全部狂わせた。何もかも、これは復讐だ」


世界に対して異様な執着を見せるシュウ。


その言動から垣間見える悪感情。


それらは全部ササキシュウに似合わないはずなのに。


「俺たちが世界を壊して、全部作り変える」


「そんなの──」


「そう。それがボク達の目的さ」


シュウの言葉を待っていたかのように、賢者が介入する。


「ボク達は世界が、運命が、何もかもが憎い。だから、壊す」


賢者が滅多に見せない感情の渦を爆発させる。


「そのために、必要なものは王都にある。けど、一つ誤算なのは、君が来たことだ」


シルヴィアが止めに来たこと。それが最大の誤算だと恥じ入るように語る。


「本来であれば君を失うわけにはいかない。君はボク達の計画に必要なんだ」


「メリル。もう、いいだろう。そろそろ時間だ」


しばしメリルの怒りに触れ、何も言えなくなっていたシルヴィアの意識が引き戻される。


「そうだね。まだ、そのときじゃない。今回は下見だ。だから何もしないよ」


安心させるようにそれだけ言い残し、去っていく。


それを止めるように、シルヴィアはシュウに向かって叫ぶ。


「シュウ……!! どうして、君はそんなことするはずじゃあ……」


シュウに向けての最後の忠告。


しかし、反応したのは彼ではなかった。


「彼がこんなことをするはずがない……? ふ、ふふ」


その叫びが面白かったのか、実に久しぶりな笑みを見せる。


ひとしきり笑った後。


彼女は、賢者は、『英雄』の少女に突き放すように。


こう言った。


「君に、彼の何がわかるんだ!?」


「────!?」


いきなりの怒声に再び声を失うシルヴィア。


「君は彼の何を知っている? 彼の苦痛を、悩みを、どれだけ知っている? 何も、知らないだろう」


「────」


「君が彼と過ごした数週間で、何を知った? まさか、その程度で人を分かったつもりか? はあ、思い上がりもいい加減にしなよ」


「────」


「もう一度、言おう。君は彼の事を何一つわかっちゃいない」


シルヴィアは。


ただ、困惑していた。


彼女だってあの一面が全部ではないことを知っている。


誰にだって汚い部分はある。


だが、根本的に彼は優しい。


それだけは、分かっているつもりだった。


だけど、違うと。


賢者はそう告げる。


「シルヴィア」


最後に。


「本当に済まない」


それだけ言って、シュウが持っていた花を置く。


満月の夜は変わらず、世界を照らし続けていた。



今回のお話で番外編は終了です。


次からは三章へと入っていくのですが、自分の都合上三章の更新は11月からになります。


もしかしたら、その前にキャラ設定を出すかもしれません。



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