番外編1 ダンテの一日
さて、皆様元気でお過ごしだろうか。
今回は俺こと──ダンテ・ウォル・アルタイテの疲れる一日を話していこうと思う。
そう、あれは村での作業を終え、屋敷に戻ってきたときのことだった。
森の開けた場所に豪華な屋敷が見える。
この屋敷こそが、ダンテが作った屋敷であり、今ダンテと最愛の娘シルヴィアと使用人ミル、そして不本意ではあるが黒髪の少年(以下クソガキ)が住んでいる。
そして、今回の屋敷への帰還は実に数週間ぶりだ。
ダンテはとある計画を図っており、その布石を張っている時期だ。
そのために賢者の塔へと行き、とある魔法道具を貰ったのだ。
ついでに言えば、数日後の夜にはダンテの友人である二人を招いている。
結論から言えば、非常に疲れる数週間だった。
布石のためにいろいろな場所を歩き回り、人探しをしてと自分からすればかなりハードな方である。
「んで、俺は自分の部屋に行って休むが……お前らはどうするんだ?」
働き者である二人と一応クソガキにこれからの予定を聞く。
「そうですね……とりあえずは掃除や、書類の方を……」
「え、待つんだ。ミル。その掃除って……」
「もちろん、シュウの考えているとおりよ」
「ですよねーー!!」
なぜか涙目になるクソガキだが、あえて無視させてもらおう。
「そうですね……私も、書類の方を見ようかなと」
「そうか。なら、頑張ってくれ。俺は少し休む」
ちなみに書類というのはダンテが統括──治めている領地の事についてだ。
正直、ダンテとしては領地や地位などは興味なかったのだが、王に泣きつかれては承諾せざるを得ない。
ゆえに、仕方なく領地を請け負ったが、何をしていいのか分からず、結局シルヴィアに放任している。
そのことを若干気にしつつ、部屋へと戻っていった。
部屋──そう、そこにあるのは自由な空間だ。
確かに自分の家というのは自由な空間だ。
だが、それは家族などが入り乱れての自由、つまり完全な自由ではないのだ。
その点、個人の部屋というのは違う。
誰も勝手に入っては来ないし、完全にフリーダムな空間なのだ。
そのことにいつも通り笑みを浮かべつつ、ドアを蹴り開くように勢いよく開く。
まず目に入ってきたのは大量の本棚と、本だ。
これらすべては王から送られてきたものであり、大半というかすべて読まずに本棚に放り込んでいる。
「くっ……この本が俺の気分をどん底に突き落としていくが……ふふ、だが残念だったな。俺にも秘策アあるのだよ」
不敵に笑い、本棚の後ろ、隠し部屋に入る。
そこにあるのは、天国だった。
とても、言えないような本が累積しており、未成年には刺激が強すぎるものだ。
それに滑り込むようにスライディングし、飛びつく。
「これが、俺の宝だ。誰にも触れさせやしない」
覚悟を決めた顔をし、再び男の顔に戻る。
しかし、そこで気づく。
秘蔵のコレクションの中に足りないものがあることに。
「な──。馬鹿な!?なぜだ、なぜなんだ!?なぜ足りない。──はっ!まさか、人の目にでも触れたというのか!?」
何度でもいうが、決して未成年の目に触れてはいけないものだ。
もしも、そうならば回収しなければならない。
誰の目にも触れられぬうちに。
「さて、どっから始めるか……まあ、まずはシルヴィアにそれとなく聞いてみるか……」
信頼する娘に聞いてみるのが最善だ。
そういうわけで、シルヴィアの部屋に行く。
「なあ、シルヴィ。最近俺の部屋に入っていたりしたか?」
「師匠の部屋のですか……?いえ、べつに誰も入ってませんよ。どうかしたんですか?」
「いや……なんでもない。そう、なんでもないんだ!別に何もなかったぜ!?」
シルヴィアに心配され。、若干どころか異様に焦り始めるダンテ。
その姿が不思議に思ったのか、シルヴィアは不思議そうに首をかしげて。
「えっと……何かあったなら、手伝いますよ?」
「えっ!?いや、本当に何でもないんだ!だからシルヴィは書類の整理をしていてくれ!!」
逃げるようにその場から去るダンテ。
その行動を不審そうに眺めながら、仕事に戻っていくのだった。
「さて、まずシルヴィアに思い辺りはない、と。とすれば、次はミルだな」
そういうわけで、ミルが掃除している場所に来てみた。
「なあ、ミル。最近俺の部屋に掃除に入ったか?」
先ほどのシルヴィアと同じ質問をかける。
「ダンテ様の部屋に掃除に……?いえ、していませんが。ああ……ですが、シュウ辺りが間違って入った可能性もなくはないですね」
どうやら、ミルも知らないようだ。
そして、最終的にあのクソガキに話が集中していく。
何たる不運だろうか。
そのことを最大に恨み、ミルにシュウの居場所を聞き出す。
「じゃあ、クソガキは今どこにいる?」
「そうですね……いつも通りの時刻ならダンテ様の前の廊下を掃除している頃かと……なぜ、そんなに焦っているのですか?」
「えっ!?いや、そそそそんなことはななないんだぜ?!」
まさかの核心に迫る一言に再び焦るダンテ。
その態度を怪しいと見たのか、ゴミでも見るかのような視線を投げかけてくる。
「まさか……また、買ったんですか。面倒なんですよ、あれ片付けるの」
「な、なにい!!まさか、お前がやったのか!?」
つまりはミルが片付けたことであり、そのことが全員に知られている可能性がある。
「安心してください、ダンテ様。誰にも言っていません」
「お、お前というやつは……よし、俺の権限で給料を増やしてやろう」
ダンテに出来る最大のお礼をし、感謝の意を表す。
「それよりも、ミル。中身は見たか?大丈夫だよな、見てないと言ってくれ!」
「ちょっと待ってください。何のことを言ってるんですか?」
懇願するように言うダンテに、その懇願の意味が理解できず困惑するミル。
何だろう。この感じ。間違いなく意見のすれ違いが起こっている。
「ん?ミル、お前が片付けたのは本だよな?」
「いえ、違いますよ。ダンテ様宛に届く意味不明な機械のことです」
「え」
「え?」
「ああ、何だ、そういうことか。なんだ、その、今のやり取りは忘れてくれ」
ようやくミルが何のことを言っているのか理解できた。
おそらくミルはたびたびダンテ宛に届く魔法道具の数々を拝見し、整理していたのだろう。
つまりは本でないことが分かり、ホッとする。
「? ええ。そういうことなら」
そう言って、最後の住人、クソガキに向かって突き進んでいくのだった。
「こんのクソガキがああああああああああああああ!!!!!」
「ふごおぅ!!?」
ダンテの強烈な蹴り技が炸裂し、シュウを廊下の彼方へと吹き飛ばしていく。
まるでなぜ蹴られたのか分からないと言わんばかりの顔をしているクソガキに向かい、怒りのまま言い放つ。
「おい!お前だろう、お前なんだな、さっさと吐きやがれ!!」
「ちょ、ちょっとのたうち回る時間を……」
「問題無用だ、この野郎!」
蹲るクソガキの胸倉を掴み、
「さっさと俺の秘蔵の本を出しやがれ!」
「何の……話で……」
未だにしらを切るクソガキに、ダンテは怒りを募らせる。
「しらばっくれんなよ!お前が、俺の部屋に入り、秘蔵のコレクションを奪っていったんだろう!?」
「秘蔵のコレクション……?」
「そう、男なら誰もが憧れ、誘惑に負ける、そんな秘宝だよ。そして、お前はその誘惑に負けたんだ」
「意味が……分かりませんけど、これ届いてましたよ」
そう言って、懐から一通の手紙を取り出す。
差出人は剣神からだ。
封を切り、中の手紙を見てみれば。
『ダンテ。すまない、お前の本獲っちゃったぜ』
そこにはダンテが探している情報があって。
「お前かよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
怒りに任せてそう叫ぶ。
つまりダンテの懸念も、行動も全部無駄だった。それが分かり、疲れがどっと出る。
その後、シルヴィアに怒られたのは言うまでもない。