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45話 逆転への道筋は

「それで、何の用? 結構忙しいのよね私達も。──とはいえ、活躍している以上、話を無下にできないのも確かなのだけど」


「なら、いいですよ。俺も言いたいことは一つだけですしね」


 シルヴィアとの会話を終え、シュウはたった一人で王城にやってきて、五人将が一人マーリンと話をしていた。勿論、運命を打破するために必要な戦力をかき集めるためだ。


 既に百回もやっている身だ。これから起こることの大体を既に把握している。


 その上で言うが、まず『暴食』を倒すにはシルヴィアが必要だと言うこと。しかも、消耗していない状態で。尚且つ、シルヴィアだけでは『暴食』を倒すには足りない。


 もっと必要だ。シルヴィアに迫る戦力──そう、イリアル王国が誇る五人将が。連れて行けるのは、最大でも二人。


 五人将は都合上二人は必ず王都に残り、有事の際に備えなければいけない。今現在、五人将で自由なのは四人。サジタハに残っているローズを除いての数だ。


 このうちの二人を味方に付けなければいけない。


 ──理想はガイウスとアルベルトの二人だ。アルベルトに関しては運要素が若干どころか滅茶苦茶絡むが、マーリンやウィルヘルムよりかは確率が高い。


 百回やって、アルベルトが付いてきたのは大体十回程度。ただし、それでも多い方だ。ガイウスなんかは50超えてて数えるのも億劫だが、マーリンとウィルヘルムは五回程度。ゆえに可能性の話で上げるならアルベルトだ。


 とはいえ、先ほども挙げた通りアルベルトは運要素が強い。時間がほんの少しずれただけで、ほんの少し変わっただけで条件が一瞬で変わる。気まぐれと言えば聞こえがいいだろうが。


 さて、ここで問題がある。


 ガイウスについては大体ついてきてくれる。友と、そう彼が思っている限りは。シュウが彼を失望させない限りは、ひとまず問題ない。


 だから、他三人。三人を納得させるために必要な情報。それを、今ここで示さなければならない。


 シュウの世迷言ではない。確固たる証拠を叩きつけ、可能性を提示し、認めさせなければいけない。しかも、リアリストである三人を納得させられるほどの、理由を。


 ──王国の、危機を。


 正直、動悸が激しくなるのは抑えられないし、怖い気持ちはどこかに存在している。百回も繰り返したように、失敗して、シルヴィアを救えなくなってしまうことが、どうしようもなく怖い。


 でも、やるしかない。ある種の賭けだ。彼らを味方につけることが出来れば、勝利条件の一つを満たす事になる。


 それに──今回は、今までとは違った趣向だ。正直これで駄目ならもう打つ手はない。現状打てる手で最も最適なものだ。


「──マーリンさん。他の五人将は、今王城に?」


「ええ。アルベルトが遅刻するのを危惧していたけど……ま、概ね時間通りだから来てるわ。でも、どうしてそんなことを?」


「──決まってます。五人将に確認することなんて、一つしかないでしょ」


 シュウの言葉に、マーリンの瞳が細められ──同時に威圧が、シュウを襲う。目を背けたくなるほどの重圧を感じながら、しかし一歩も引かない。


 恐らくはマーリンもシュウの次の言葉を分かっているのだ。なぜなら、五人将が動くなど国家の危機でしかないのだから。


「──王国に危機が迫ってます。五人将を今すぐ集めてください。話し合いを、したいんです」







まず、掴みは上々と言っていいだろう。上手くマーリンに危機感を募らせて五人将を集めさせるに至った。


 だが、その後だ。確固たる証拠を突きつける必要がある。なんとなくじゃ、人は動かない。


 百回を超えるループで、シュウはそれを学んだ。証拠もなしに信じるような人間はまずいないだろう。大事な契約をする際にきちんと契約書を見せるようなもの。もしくは、警察が犯人を捕まえるために祥子を得ようとすることと同義。


 証拠もなしに捕まえでもすれば、非難は避けられないし、誰も信じようとしないかもしれない。


 つまりは今はその段階だ。証拠を提示し、信じてもらう段階。


「さて、説明してくれるんでしょうね。──貴方の、言葉の真意を」


「勿論です。そのために、皆さんに集まってもらったんです」


 現在、五人将──ローズを除いた四人が、丸形のテーブルに一堂に会していた。一番奥は五人将の中で最も年齢が高く、それに見合うだけの雰囲気を醸し出す老齢の騎士──ウィルヘルム。その隣に居るのが、鎧を常に纏う五人将古参の一人──マーリン。逆にシュウに最も近い位置に居る二人は若手の二人。一人は言わずもがな、ガイウス。もう一人は五人将で最も認知度が薄く、なぜだか知らないが一切の強さを感じさせないアルベルト。


 ──国を代表するその四人を説き伏せる。


 シュウに与えられた、最初の試練。


「覚えてますか。……一年前に戦った三大魔獣が一体、八咫烏の事を」


「勿論よ。私も戦い、この目でその命を散らす瞬間を見たのだから」


「私もだ。今更君の言葉に何かを言うつもりはないが、しかし八咫烏がどうしたと? 既に一年前に倒された魔獣に、何か?」


「いやぁー……嫌な予感するっスねぇ。……あ、もしかして復活でもしたんスか? それなら、色々辻褄合うんスけど」


 ──なんか最後だけ嫌に勘鋭いが、実際にその通りなのでそのまま進ませてもらう。


「アルベルトさん。その通りです──八咫烏が、生きていたんです」


「それは、本当か? シュウ」


「ああ、間違いない。つっても、半信半疑……どころか信じられねえよな。なにせ、俺達はあの鳥が死ぬところを見ていたし、実際に止めも刺した……けど、なぜか生き返った。それが何の能力によるものかは、分からないです」


 八咫烏の復活を知らされて──ガイウスが驚愕を露にし、アルベルトが目を細め、マーリンが見定めるような視線で訴え、ウィルヘルムは相も変わらずに瞑目を続ける。各々がシュウから告げられた真実に反応を示す中──シュウはただ思考に耽る。


 そう、八咫烏が復活したのは、恐らく二つ。一つは、魔族の能力──とりわけ、『大罪』と称される魔族軍幹部の権能だ。残っているのは『強欲』と、『傲慢』の二名。『暴食』についてはそんな能力がないのが分かっているので除外だ。


 と言うのも、『大罪』の権能が分からなすぎるのが一つの要因だろう。シュウは彼らの能力が何も分からない。それゆえに何の対策も取れないのだ。


 そしてもう一つは八咫烏自身に与えられている能力だ。こちらについては言及する者が多かったため、信憑性は高いと思っている。


 『暴食』の言葉は正直信じたくないが、あの銀髪の少女の言と合わせて、可能性は高い。


 八咫烏は不死──もしくは、死を覆せる。シュウだって信じたくないが、しかしそうでも仮定しなければダークエルフ達にやられたはずの八咫烏が何事もなかったように上空を飛んでいるなどありえないのだから。


「つまり、八咫烏が王国を蹂躙する可能性があると……いやぁ~自分で言ったのもなんですけど、やっばい状況っスね……第一あの時はローズさんがいたから何とかなった部分も結構ありますし……」


「最低でも五人将が三人は必要か……いや、仮に本当に八咫烏が出ると言うのならば、魔導士部隊や私達の部隊も用意するべきだろう。──果たして、それで倒せるかどうかは疑問だが」


「そうか、普通の国家だとそうなるのか……」


 目の前でどうするべきかの会話を進める五人将だが、シュウはシュウで失礼なことを考えていた。


 そう、忘れていたが、本来は八咫烏は大人数で対処しなければいけない相手なのだ。ダークエルフ達が少数で倒していたからそうだとは思えなかったが──いや、待て。


 八咫烏が、一度だけ数人で倒されたことを覚えている。あれは、確か……五回目、いや、六回目ぐらいか。その辺りでシルヴィアとガイウスの二人だけで倒した覚えがある。


 ──つまり、なんだ? 弱くなっているとでも?


 ありえないはずだ。同じ生物で、同じ個体であるのだから、戦闘能力に違いがあるはずがない。


 ──いや、まさか。


 もしかしたら。もしかしたらの可能性。


 ──突き止められるかもしれない。八咫烏の、その不死を。


「二人とも。白熱するのはいいんだけど……正直、にわかには信じがたいわ。なにせ、しっかりとこの目で見てるのだしね。何分見てしまった以上、生き残ってるって言うのはどうしても信じがたいのよね。ウィルヘルム殿も、同じでしょう?」


「──その通りではある。が、それについては、彼が話してくれる。ならば、私達は待てばいいだけ。違うか?」


「その通り、か。さて、今の所私達二人の意見はそんなところだけど……ちゃんと証明してくれるんでしょう? 私達の目を、固定してしまった考えを覆すに足る証拠を」


「勿論ですよ。そんなことは、嫌でも分かってる」


 何度も、何度も何度も。それに躓いてきた。さしたる証拠を提示できず、仲間を連れて行く事も出来ずに、一人の少女を死なせた。だから、もうしない。そのために全てを整えてきた。


 その証拠を提示するために、シュウは懐からとある小さな機器を取り出す。


「シュウ……それは、王都にある魔法具か?」


「そう、親機の見ている光景を映し出す……子機。いわば、映像型の通信機。これが、俺の提示する証拠だ」


 一年前になじみが深い魔法具。ダンテから渡され、秘密裏に隠し持っていたそれを今ここで出し、同時に電源を付ける。──ちなみに、あれから改良が施され、今では携帯のように会話すら出来るようになっている。


『あ……ついた』


「シルヴィア様?」


 そこで映し出されたのは──木々が生い茂る風景の中で佇んでいる桃髪の少女、シルヴィアだ。王城に呼び出されていたにもかかわらず、なぜか未だ王城に姿を現さない彼女はよく分からない場所に居た。


 ──否、違う。シュウが行かせたのだ。ここで絶対の証拠を出すために、シルヴィアを危険度の高い世界樹付近にまで行かせた。


「レイ……先ほどから姿が見えないと思ったら、そこに居たのか……」


『すいません……ガイウスさん。でも、こっちの方が緊急なんでこっちに来ました。あ、勿論シモンには内緒ですよ? あいつに言ったら怪我押してでも来ますし……それに、戦えない人間が来るほど甘い戦場でもないみたいですし』


 無論、護衛はつけた。それが今画面越しにガイウスと話している青髪の少女──王国随一の魔法使いレイだ。王城に来る前に彼女に話を付け、護衛として世界樹──正確にはジュンゲルに行ってもらったのだ。とはいえ、彼女を選んだのにも理由がある。


 ──と言うのも、簡単だ。こっちで信じてくれそうな人間が彼女しかいなかったというだけ。しかも、勝算の薄い賭けでもあった。


 シュウの知る限り、レイという少女は思慮深く、かつ慎重派。つまり、きちんとした説明、もしくは証拠がなければ動かない派の人間。感情だけでは物事を決めず、状況を確認して選ぶ人間だ。


 だから、全てを明かした。シルヴィアだけに話した全てを、彼女に伝えた。


 無論、懐疑はあった。当然だろう。なにせシュウであってもあんな話をされれば頭おかしいのでは、と疑うレベルの話だ。しかし、最終的には信じてくれた。


 その理由は未だ分かっていないが──それでも、大きな一歩で、仲間だ。


「色々と、裏で画策していたみたいだけれど……それで、何を見せてくれるの?」


「映像越しですけど……まあ、今回は映像じゃなくて、音です。重要なのはね」


 必要なのは、シルヴィアの能力──というよりかは、彼女の持つ危機察知だ。


 既に百回の中で、伏線はあった。布石も、存在していた。ただし、シュウが見落としていただけ。誰かを頼ることを知らなかったがゆえの弊害。


「──知っていますか。八咫烏の出現には、予兆があることを」


「──予兆、か。シュウ、そんなものが本当に? 私はまだ若輩ではあるが、しかし知識だけはあるつもりだ。が、国の文献のどこを見渡しても、そんなことは一切書かれていないし、書かれていた覚えもない。とすれば、その情報はどこから?」


 いつかダンテが言っていた言葉で、百回の中でシルヴィアが口にしていた言葉──ある意味では予兆。


 だが、にわかには信じられないのか、ガイウスは口を挟む。いや、挟むと言うよりかはただ単純に理解しがたいのだろう。


「聞いたことがある」


 どう説明すれば納得してくれるかを模索する中──沈黙を破り、一人の男性が呟いた。今もなお腕を組み、鎮座する老齢の騎士──ウィルヘルムだ。


「──先々代『英雄』であったアリサ殿は、なぜか八咫烏の行動を理解していた。おかげで、戦争期間では、彼女の勘に助けられたことも多々ある。ゆえに、一度聞いてみたのだ。──なぜ、そこまで当てられるのかを」


「──そういうことです。先々代『英雄』との関係性は知りませんけど、シルヴィアには八咫烏が来ることを事前に知ることが出来るんです。一年前の王都でも、そうだった。シルヴィア、今そっちの状況は?」


『えーと……風が、ちょっと嫌な感じかな。八咫烏が来る時の風に、よく似てる』


 ──さて、これで証拠になるかどうかを疑うかもしれない。


 だが、この国では『英雄』の言葉は信用されやすい。その立場や、今までの貢献を合わせて、彼女が言えば大体は真実になる。つまりは今回はそれを狙った。シルヴィアの言ならば、真正面から反対を述べにくいだろうから。


「これが、俺の提示できる、俺の全てです。これを信じてくれるかどうかは、全部そちらに任せます」


 ──結局、どれだけ証拠を重ねても、判断するのは彼らだ。彼らが信じないと言えば信じずに、同じように死ぬだけ。


「……俺には、助けたい人がいます。失くしたくない、人がいます。一緒に歩いていきたい、人が居るんです。──けど、俺には、俺だけでは守り切れない」


 そう、シュウだけでは守り切れない。今の、本当の想いを、ただ伝える。そこに、打算はない。ただ本当の気持ちを。


「だから、俺を助けてください。守りたい人を、守れるように。助けたい人を、助けられるように」


 真摯に、想いを伝える。頭を下げて、プライドなんてどこかに投げ捨てて。


「──男が、そのように頭を下げるものではない」


 沈黙。シュウの思惑に触れ、迂闊に喋ることを避けていた五人将の中で、一人の男が声を上げた。それは、シュウから最も離れた男の言葉。


「ですが、その想い。しかと承りました。男とは、見栄を張る生き物で、格好をつける生き物だ。──であらば、私が力となりまする」


「翁……はぁ、これだから。情に訴えるとは隅に置けないわね……けど、嫌いじゃない純情よ。そういうの。──ただまあ、私はパスね。レイが、自分の意志で行くのなら、それを見てみたい気持ちもあるけど……それは流石にね」


「──じゃあ、俺も行かないっス。俺は、まだ死ぬわけには行かないっスから」


「となると、残るのは私だけだが……」


「ああ、お前は来ると思ってるから言わなくていいよ」


「……そうか」


 ウィルヘルムを皮切りに、それぞれに思いを口にする五人将は、シュウは慣れない感覚を覚えてしまう。ちなみにガイウスのに関しては、照れ隠しだと思ってほしい。


『よかったね、シュウ。信じてもらえて』


 そんな中、映像からシルヴィアの声が聞こえてきて──。


「ああ、それもこれも、シルヴィアのおかげだ」


 彼女がシュウを助けてくれたから。ここまで来れた。


『待ってるから、こっちで。──一緒に、乗り越えよう。皆で』


「勿論だ。──必ず『暴食』の野郎ぶっ倒して、日常に戻ってやる」


 逆転への道筋が遂に出来上がった。さあ、反逆の狼煙を上げよう。


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