表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/288

41話 決着の時は近く

「宣言しよう。──君では、ボクに及ばない」


 時は、そこまで巻き戻る。メリルの杖が振るわれ、『色欲』の頭上に轟雷が降り注ぎ──。


「はは、マジか……」


 だが、それを『色欲』の簒奪者は軽やかに避けた。


 そのことに、メリルは内心舌打ちをかましつつ、しかし攻撃に移らせないように次々に雷を打っていく。


 ──翼だ。簒奪者に生えた翼。それこそが、メリルの魔法を躱せる秘訣。


 メリルも一応は人間の構造だ。だからこそ、魔法なんかを使っても翼を生やすことは出来ないし、浮遊魔法はあっても、あのように飛ぶことは出来ない。


「ち──」


「行け、光線」


 翼に対処しきれない内に──『色欲』の簒奪者はにやりと口角を曲げて、生じた隙に付け入るように、未だ避難しきれていない住民達を狙って、光線が放たれた。


 メリルはそれを防ぐために、転移魔法を使って光線を防ぐように立ち回って──。


「当然、そう来るよなあ?」


「ち、これも予想通り、か……」


 だが、それを見計らったように。いや、分かり切っていたかのように、『色欲』の簒奪者は突っ込んでくる。爪をチラつかせ、獰猛な笑みを浮かべて突進してきて──。


「ライトニング」


 轟雷が、『色欲』の簒奪者を近づかせなかった。


 メリルが編み出した、圧倒的威力にして、魔力を使わない魔法。彼女が何千年もの時を経て作り出した、ある意味で言えば彼女の努力のたまもの。


「ああ……くそ、鬱陶しい魔法じゃねえか」


「流石にこれ破られたら泣くよ? これ、何年も頑張って作ったんだから」


「何年……じゃ、済まされねえだろうが。永遠を生きるお前だからこそ、許される所業だろうよ」


 永遠の生、即ちそれは永遠のトライ&エラーを繰り返せるということ。魔法式の解読、使い方から何から何まで。全てを繰り返し、最適を導き出した、彼女だけのオリジナルだ。


 無論、無敵と言うわけではないが──それでも一応、彼女の切り札的存在ではある。ただし、何番目なのかは誰にも教えていないのだが。


「なあ、『賢者』。お前は、人間を殺したいと思ったことはねえのかよ」


「なんだい? 急に」


「急……ってわけでもねえ。俺は、ずっとお前に聞いてみたかったんだよ。……あるだろう? なにせ、人間はつまらねえ生き物なんだから」


「うん……そうだけど? 悪いけど、ボクという存在に、この世を生きるすべての良し悪しを解いたところで無駄だよ? 人間のような死生観なんて持ち合わせていないし、そもそも、ボクは人間と言う生き物には興味がないからね」


「なに……?」


「君が何を言いたいのかが、ボクには理解できないが……きっと、あれだろう? どうせ、人間達に失望でもしたんだろう? ──ああ、その気持ちはようく理解できる。だって、それはボクがいつだって感じていることなんだから」


 顔をしかめる『色欲』の簒奪者に向かって、メリルはそう告げた。


 ──メリルはこの世界が大嫌いだ。何度同じ場面に遭遇しようと、彼らは同じ選択しかとらない。いや、選べない。自分の意志で選んだと思っていても、結局その選択は誰かの意志が介入している。


 ──自分の選択は、ない。故に、世界は必ずこうなる。いや、こうなることを決定づけられている。


 ──それが、メリルには許せない。


 人の数だけ願いがあって、未来(みち)があっていいのに、だが、それすら許されない世界。誰もがそれに疑問を抱かずに、平然と暮らす世界。


 ──どうして、嫌悪感を抱かずにいられるだろうか。


 腐っている。どこもかしこも、メリルには腐っているようにしか見えない。固定概念に縛られ、誰かが決めたシナリオでしか動けない。再度言おう、だからメリルはこの世界が嫌いだ。


「なら……!」


「結論を急ぐなよ。……だけどまあ、人間をどうこうしたい、なんて思ったことはないかな。だって、いつだって同じ失敗を繰り返す者達を、どうして気に掛ける必要があるのかな?」


「──」


 無関心、無頓着。


 それこそが、メリルが人間に対して抱いている感情だ。例えば、とある空間に二人の人間を置いて、もう片方を殺せ、と命じたとし、それを何回も何十回も何百回も繰り返してみよう。


 ──結果は、変わらない。百回なら百回、千回なら千回。全く、寸分狂わない結果が、そこには待っている。


 ならば、期待を抱く価値もない。希望を見る価値もない。生きられる道を限定され、可能性を閉ざされた種族に、メリルは今更拘泥する必要もないのだ。


「──なあ、気付けよ。『色欲』の簒奪者」


「なにを……?」


「本当は、薄々気が付いているんだろう? 本当は、分かっていることなんだろう? 認めればいいじゃないか。──本当は、人間が嫌いではなく、好きなのだと」


「なん、だと……!?」


 『色欲』の簒奪者の顔が怒りに染まった。それに呼応するかのように、背中に付いた翼は更に禍々しく変貌し、魔獣のそれに変わっていく。


 だが、メリルはそれを一切気に留めないで。


「当然だ。もしも、君が本当に人間に絶望したというのなら……君は既に人と言う種族に拘泥しないはずだ。無関心になって、とっくに籠っている。人の世、人情ってやつをくだらないって思っているなら、とっくに感情を失くしている」


 だが、『色欲』の簒奪者はそうではない。むしろ、感情がある。人間に対して、怒り、悲しみ、苦言を呈し、自ら裁こうとするほどに。


 ──普通、人間と言う種を見限ったならば、そんなことはしない。勝手に滅びろと、興味を失くすはずなのだから。


「ほうら、これで分かったはずだ。嫌いの反対は好き。……それってつまりさあ、君はまだ、本当の意味で見限っていないわけだ。だって、君はまだ拒絶を見せていない。まだ、もしかしたら。改善の余地があるかもしれない。……考えてみてほしいんだけど、人を裁くってさ、人類を、この世界が好きだったからできるんだよね」


「……いいや、詭弁だ」


「詭弁であろうとなかろうと、ボクはそれを真実だと言い続けるよ? 君は人が好きなんだ。どうしようもないくらいにね。……ああ、なるほど。君は認めたくないんだね。自分が大嫌いで、人と言う種族が、どうしようもなく、大嫌いだから」


「そうだ。だから、俺は全員殺す。残るのは、二人だけでいい。それ以外は、この世界に居らない」


 メリルの言葉を振り切るように。『色欲』の簒奪者は猛る。


 変貌した異形の姿をフル活用し、『賢者』を噛みちぎらんと牙を研ぎ、引き裂かんと爪を伸ばして。メリルが撃つ魔法、そのすべてを躱すために翼を広げて。


「人類を愛することの裏返しが、滅ぼす事……ああ、なんと滑稽か……」


 だが、メリルはその姿を憐れんだ。


 自らを偽り、自らの本意ではないことをしようとする『色欲』の簒奪者に、憐憫を持って対処する。


 ──偽ることでしか、前に進めない愚者に。本意で語れない化け物に、終止符を与えることこそが、きっと、人の輪廻から外れ、人間と言う枠組みから外れた『賢者』の役目だ。


「死ね、人間!!」


 迷いを断ち切り、人を化け物へと変じさせる光線が街中に降り注ぎ──しかし、メリルはその全てを撃ち落とした。


 ──これもまた、出来ない話ではないのだ。


 『色欲』の簒奪者が放つ光線は、この世のもの──とりわけ、自らに対する悪感情を欠片でも持っている人間が作り出したもの、もしくは魔法では対処できない。だから、逆に考えればいい。


 そもそも、メリルの魔法であれば、防げない事もない。ただし、空中で無限に放出されるのならば、話は別だ。いくらメリルであろうと、街全体を覆う防護結界など張れないのだから。


「まだまだぁ!!」


「ち──」


 『色欲』の簒奪者が何度も光線を放つたびに、メリルは杖を振るい魔法を使って、光線を片っ端から相殺させていく。


 ──流星、とでも呼べばいいだろうか。


 打ち消すたびに発生する音が街中を覆い、また光線の光が街の空を埋め尽くす──。


 ──埒が明かない。終わらない。これでは、決着がつかない。メリルが光線を打ち消すのに対処している以上、決着はあり得ない。だから、きっと、メリルの他にも、彼の終わりを見届ける者がいるのだろう。


 ──そして、それはやってきた。


 光線を処理しているうちに、メリルに生じてしまった隙──それを、『色欲』の簒奪者は見逃さず、爪で引き裂かんとし、真っ赤な血が辺りにばら撒かれて──。


「全く……ありがたい、とは思うんだけど……流石に、君は予想外だったかなあ……」


「大丈夫ですか、メリル様」


 ──しかし、そうはならなかった。正しくは、メリルの体が引き裂かれる寸前に、剣が割り込まされたからだ。それも、一級品の剣。海に沈んでいた壊れかけの剣を、有名な刀鍛冶が三日三晩掛けて作り出した、至高の剣。


 ──イリアル王国の砦にして、古代より続く『英雄』の系譜。アレクシアの正統な後継者にして、ダンテの娘。シルヴィア・ウォル・アレクシア。『英雄』を引き継いだ、全てを終わらせる英傑。


「倒しましょう、『色欲』を!」


 そして、舞台は完全に整った。『英雄』と『賢者』。あるはずのなかった、共闘でもって。暴走を続ける『色欲』の簒奪者を倒す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ