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33話 宝石族

 さて、ここで一つ話をしよう。


 宝石族(カーバンクル)という種族を聞いたことがあるだろうか。


 この世界に住む人間のほとんどは、知らないと答えるだろう。なぜなら、基本的に彼らは争いを好まない。


 魔族の中で『大罪』の席が回ってくるぐらいには地位が高いにもかかわらず、名は知られてこなかったのはそれが理由だ。


 彼らが興味を持つのは争いではない。ただ、知識欲のみ。自らが知らない何かを知り、この世の真理を紐解くことこそが彼らの真意。


 ゆえに、宝石族から排出される『大罪』は基本的に強欲であることが多い。


 ──そう、今代の『大罪』、宝石族(カーバンクル)であるメラク・ウェヌス。『色欲』を除いて。


























「やっぱり、こうなるよな~」


「まあ、当然っちゃ当然だよな。面子的にもこれが一番だし」


 メラクの下へ歩いてくる二つの影──それを彼女は注視しながら、純粋に笑いそれにシュウが答える。


 当然、このメンバーが間違いなく最適だ。人類最強と言えるシルヴィアに、『大罪』の権能が通用しないシュウ。これ以上の人選は恐らくない。


「なんだか、不安な顔してるけど……大丈夫! お前だけは殺すなって言われてるから、殺しはしないからさ。……ただまあ、そこの『英雄』は別だけど」


「──」


 無邪気から一転浴びせられる剥き出しの闘志に、しかしシルヴィアは臆さない。これくらいで臆するようなら最初からここには来ていないだろう。


 揺るがない覚悟を持って、シルヴィアもここへ来たのだ。


「もともとあたしは話し合うような頭は持ち合わせていない。基本的に、それが原因で種族を追い出されたような身だけど……」


「──」


「でもまあ、興奮するよな~。やっぱり、強者との戦いってのは」


 一瞬、メラクは目を伏せ悲しそうに瞳を曇らせた後──しかし、獰猛に嗤う。好戦的な笑みを向け、口角を吊り上げ、低姿勢へと変更しかがむような態勢で構える。


「それじゃあ、始めようか。ここまで来た時点で、和解なんてありえない。あるのは、戦いと言う活路のみ」


 シルヴィアも呼応するかのように、腰に帯びている剣へと手を伸ばす。いつでも抜刀できるように、居合の構えを取って、視線を交差させる。


「極限の戦闘を。誰もが到達しえない、至高の戦いを。それこそが、あたしが望むもの」


 そして、『色欲』と『英雄』の戦いは始まる。






















 先に動いたのは、シルヴィアではなくメラクの方だった。低姿勢からの地を這うようなタックルでもって、シルヴィアの腹を突き破らんと迫る。


 だが、シルヴィアはあくまで冷静に対処する。メラクの突進を避け、振り向きざまに抜刀──しかし、メラクはそれに対して、唐突に消えることで避ける。


「な、あ?」


 自分で見ていて、おかしなことが起こった。突然、視界からメラクが消えたのだ。背景に溶け込むとか、そういう次元の話ではなく、一瞬ほんの一瞬目を離した隙に消えた。


「せい、よっと!!」


「──っ」


 だが、答えはすぐに訪れた。そう、上からシルヴィアの下に攻撃が叩き込まれたのだ。想定外からの攻撃に、シルヴィアの反応も遅れるが間一髪剣を滑らせ割り込ませることに成功する。


 だが、安堵していい状況ではない。


 なぜ、メラクは上から攻撃してきた? そこを明かさない限り、今後の戦いではシルヴィアは翻弄されるだけだ。


 普通に跳躍しただけならば、視界から一瞬で消えた事の説明にならない。ならば、一体どんな策を?


 シルヴィアが戦闘しているならば、それを考えるのがシュウの役目だ。


 頭を回せ。必ず、何かあるはずだ。


「あははっ、あははははははっ!!!」


「く──」


 留まるところを知らない猛攻撃。手数では完全に上をいかれている。


シュウが敵の手を見抜こうと頭を必死に回転させている間にも、彼女の不思議現象は幾度も起こる。


 シルヴィアに拳を繰り出したかと思えば、次の瞬間には空に浮かび重力を利用した落下攻撃──次には視界外へと一気に移動し、シルヴィアに反撃の機会を作らない。


「くそ……一体、なんのからくりなんだよ……」


 分からない。一体、どんなからくりを使えばシルヴィアを翻弄できるほどの力を得られるのだろうか。いや、そもそも本当に小細工なのか。


 正直、小細工如きでシルヴィアがここまで追い詰められるとは思えない。


(なら、これが実力だってか? 『色欲』は『憤怒』とかと比べ物にならない程の実力を兼ね備えてるっていうのか……!?)


 純粋な力勝負に、シュウが割り込める余地はない。このまま大人しく籠っていればいいというのか、シルヴィアが追い詰められる様を見ながら。


(違う……あるはずだ。なにか、からくりが。こんなに強いなら、シルヴィアを手玉に取れるのならば、そもそもこんな策を取らずとも攻め込めばよかったんだ)


 彼らにとっての脅威であるシルヴィアをここまで追い詰められるのならば、こんな策を打ち出した意味が見えない。なぜ、今この瞬間に王国を狙わなかったのか、という最初の質問に関してはこの際目を瞑るとして。


 勿論、理由はいくらか浮かばないこともない。だが、それらでは説得に欠けるのだ。


 腑に落ちないことなど、たくさんある。そもそも、王国の実力者が来ると分かっているにも関わらず、なぜ今日この日に策を実行したのか。


 こんな日に事を起こさなければ、邪魔されることもなく成功していた。


 ──なぜだ? なぜ、彼らはこの日を?


 ──決まっている。王国が来たから、それ以外に理由など有るまい。いや、もう少し首を突っ込めば。


 ──ササキシュウが、サジタハに来たからこそこの計画を実行したのではないのだろうか。


 なにより、事を起こすにしては計画性がないように思えるのだ。つまり、ごく最近考えられた、ありていに言えば即興性の高い計画。どれもこれも、急ごしらえのもの。


(俺が、引き起こしたと言っても過言じゃあ、ない……?)


 そこまで辿り着いて、ぶんぶんと首を振る。


(考えるのは後だ。今は、見極めろ……! どんな手で、どんなからくりを……?)


 そう、今するべきことはそんなことではない。シルヴィアを勝たせるための、一手を思いつくこと。


 結局、これしか出来ないから。シュウ如きにはこれしか選べないから。だから、せめてこれだけでは役に立たなければならないから。


「そういや、宝石……」


 激しく動き回る二人を視界に収めながら、メラクの額に埋まっている宝石がなぜか目に留まった。あくまで、目に留まっただけだ。なぜか、理由は分からないけれど視線がそこに集中する。


 そう、宝石と言うのは純度が高ければ高いほど、魔力が高くなる。


(──まさか……宝石を砕いて、魔法を連発していた?)


 シルヴィアに気づかれない範囲で宝石を砕いて、空間に魔力を補充させ尽きることのない魔法を放ちまくる。つまり、彼女は宝石を割ることによって得られる魔力を使い、身体能力を向上させる魔法を使っていた、ということになる。


(だけど、それは……大体、宝石なんてどっから持ってきたんだ……)


 この戦いを見ている限り、少なくとも彼女が宝石を割っている様子はうかがえなかった。いや、そもそもどこから宝石を準備しているかも分からない。


(いや、生み出していると考えれば……?)


 だが、可能性はなくもない。そう、彼女が自ら生み出していると言うのならば、辻褄は合う。


「シルヴィア! そいつが使ってるのは魔法だ! しかも、身体能力強化の! 宝石を使って、魔力を空間に補充していた……だからこそ、魔法を何度も使っても魔力切れを起こさなかったんだ!」


「魔法……?」


「ああ、なんだ。もう分かっちゃったのかー」


 シュウの叫びに、しかしメラクはあくまで動揺しない。どこか冷めたような感じで、シュウを見つめて。


「あたしは宝石族(カーバンクル)。魔法に長けた種族って言われてるんだ。だって、宝石を生み出して無限に等しく魔法を使えるんだから当然そうなるよなー」


「あいにく、身体能力向上系統の魔法ってのにあったことがないもんでな。そんな魔法があること自体初耳だ」


 この世界の魔法の元素は四つだ。火・水・風・地しかないはずなのだ。つまり、身体能力強化の魔法はオリジナルなのだ。どこをどういう風にいじれば、そんな魔法が生み出せるのかは疑問でしかないが。


「ま、魔法の知恵だけはあったからねえ……適当にいじったら、出来た、とだけ」


「適当にいじったらとか、最早羨ましいまでの才能じゃねえか……」


「でもさ。種明かししたところで、勝率が上がったわけじゃないの、分かってるよね?」


 そう、シュウは戦わない、というか戦えない。基本的に戦闘はシルヴィア任せだ。なにより、からくりが分かったところで対策を立てられるわけではないのだ。


 身体能力が上がっているのならば、対応のしようがない。


 そう、だから有利なのはメラクで間違いないはずなのに──。


「は──?」


 つい、メラクの口からそんな率直な感想が漏れた。驚くのも無理はないだろう。


 なぜなら、今まで対応しきれていなかった視覚外からの攻撃にシルヴィアが対応しつつあるのだから。いや、それだけにとどまらない。メラクの攻撃の隙を縫って、攻撃を加えてまでいる。


「ちょ、ちょっと……なんで、さっきよりも動きがよくなってる!?」


「貴女が師匠と何度もやり合っているのなら、分かるはず。──桜舞。その応用だよ」


 桜舞──八岐大蛇に致命傷を与えた、魔力を籠めることによって威力が増減する剣技だ。いや、剣技と言っていいかどうかは分からないが。


 とにかく、シルヴィアはこれを応用させた。剣に魔力を纏わせられるならば、体にも纏わせることが可能ではないかと。


 実際には、その試みは失敗した──わけではなく、一部分的に成功した。全体は不可能だったけれども、一部──つまり、一つの部位に限定して纏わせることに。


 いや、纏うと言う表現は正しくないかもしれない。正しくは魔力を筋肉に通すことによって、人間に存在するリミッターを解除したのだ。


 とにかく、纏めると。シルヴィアは魔力を体に通して、存在するリミッターを排除し、一時的な身体能力向上に成功したのだ。


 とはいえ、長くはもたない。彼女の魔力量はそこまで多くないのだ。出来て、数分間が限度だろう。


 だが。


「はああああ!!」


「つ──」


 攻守が逆転した。今まで戦局を有利に運んでいたはずのメラクが追い込まれ、追い詰められていたはずのシルヴィアが攻め込む。


「こんな、はずじゃあ……っ」


「これで……!」


 そして、時は訪れる。シルヴィアの刃が、メラクの下へと吸い込まれる時が。


「あ、ああああああ!!?」


 メラクの叫びと同時に、シルヴィアの剣の腹が叩き込まれたのだった。

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