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エピローグ これからのこと

 あの高台での戦闘の後、シュウとシルヴィアは高台を降り、シモンたちと合流した。


 実際、シモンたちは高台の近くにいたらしく、落ちてきた犯人を捕まえようとしたのだが、あいにく見つからず、捜索を断念しシュウ達が下りてくるのを待っていたということだ。


 その後、レイとシモンは王城に今回の報告をしに行き、シュウとシルヴィアはとりあえず、休める場所がほしいとのことで東ブロックへ直行。


 すぐさま、部屋を取り、死んだように眠りこけた。


 起きたのは無数の星が輝く夜だった。


 辺りにはほとんど明かりはなく、星の存在がより際立って見える。


 シュウはその星々を呆然と眺めていた。


 思えば、あちらの世界では星なんて落ち着いて眺めたことなんてあっただろうか。星を見る機会など、何々の流星群が来るとかでしかない気がする。


 そんな感傷に浸っていたシュウはドアをノックする音に気づく。


 シュウはベッドから立ち上がり、ドアを開ける。


 その真正面に立っていたのは、さきほどまで──とはいっても、昼なのだが──ともに戦っていた少女、シルヴィアである。


 その桃色の髪は寝る際に邪魔になるのか、ポニーテールになっており、服もどこから取り出したかは知らないが、昼間とは異なっている。


「シュウ。ちょっと話がしたいんだけど‥‥‥いい?」


 即座に頷いた。



 とはいえ、彼女からは何も切り出さない。かといって、シュウの方から何か話題を振れるわけでもなく、ただ時間だけが過ぎていった。


 というか、シュウの頭はすでに話どころではない。


 まさに自覚してしまった恋心。それを意識してか、シュウの顔は真っ赤に染まっているし、また、心臓もバクバクとさっきから鳴り響いている。


 この場にいるのが、そういう感情に慣れている人間だったら、今、この場で相手に悟られずに喋ったかもしれない。いや、もしくは勢い余って告白でもしたかもしれない。


 だが、ここにいるのはササキシュウなのだ。筋金入りのチキンなのだ。そんなことが出来るわけない。


 前を見れば、シルヴィアの方からは切り出す雰囲気が見えない。


 つまり、ここはシュウから切り出さなければならないが、この小心者にそれが出来ようか。


 そんな風に悩みに悩みまくっていたら、


「ねえ、シュウ。これからどうするの?」


 ふと、シルヴィアが言った。


「え? ああ、ええと。まあ、どうするって聞かれてもな‥‥‥」


 実際考えてもいなったがここは異世界であり、シュウには寄る辺がない。この世界の字だって読めないし、世界情勢に詳しいわけでもない。


「そこらへんで、適当に肉体労働でもしながら暮らしてくさ」


 まあ、お金が貯まる間は野宿をしなければならないし、ついでに言えば、この世界の言語についても勉強したいところではあるが。まあ、なるようになるだろう。


 ただ、シルヴィアの口から出たのはシュウの想像を超えるものだった。


「ねえ、もしも行く当てがないんだったら、私のところに来ない?」


「は‥‥‥?」


 言葉を失う。


 それは魅力的な提案だった。シュウにとってはメリットしかない。


「待ってくれ。それで、シルヴィアはいいのか?」


「うん。もし、君が了承してくれるのならだけどね」


 シュウは考える素振りすら見せず、すぐさま頷く。


「問題ないよ。つーか、寄る辺がなくて困ってんの俺だし。断る義務もない」


 シュウの答えを聞いて、シルヴィアは安堵の息をはく。


 その様子を見れば、シュウが断る可能性も視野に入れていたということになる。だが、安心してほしい。シュウがシルヴィアの提案を断ることはありえないのだから。


「でも、なんで俺なんかを雇おうとするんだ?」


 そこが疑問である。お世辞ではないが、シュウには基本的な知識はおろか、家事機能すらついていない。まあ、自分の飯は自分で作れるが。


 その質問にシルヴィアは笑って、


「だって、約束したでしょ? シュウの故郷に連れてってくれるって」


 シュウはシルヴィアの言葉にきょとんとして、そして笑う。


「ああ。もちろんだ。必ず連れて行ってやる」


 その時、親に自慢してやろう。シュウが好きになった少女はめちゃくちゃかわいいことを。そして、宣言してやる。やりたいことができたことを。


 シルヴィアとシュウはその後の話をしながら、夜は更けていった。





















 王都近くの森にて、男が走っていた。


 しかしその足取りは重く、体からは切り傷が生じており、一目で命に関わるものと分かる。


 男は逃げていた。王都から。いや、正確には、王都から脱出してきた機を狙い、追ってきている何者かから。


 だが、焦りすぎたのか、足がもつれ転んでしまう。


 惨めな姿。しかし、それすらも気にせず、なお這いつくばったまま走る続けようとする。


 その抵抗は、草が揺れることにって終わりを告げる。


 男の顔が恐怖に染まる。


 そこから出てきたのは、冒険者のようなローブをかぶった灰色の髪の男だった。


 『大英雄』ダンテ・ウォル・アルタイテ。『英雄の後継者』であるシルヴィア・アレクシアの師匠であり、今、この世界では彼に勝てる人物はいないとされている。


 当然、彼の呪いも効かない。


「よお、てめえがこんなところまで逃げるから、シルヴィとあのクソガキがいっしょに喋ってるじゃねえか。本当は俺が乱入するはずだったのによぉ」


 その言葉の数々からはやる気が一切感じられない。同じく、雰囲気からして殺気が感じ取れないのに、一歩近づいてくるのに、襲い来るこの恐怖は何だ?


「まあ、シルヴィの後始末をするのは俺の役目だが。あのクソガキにてめえの死体見せるわけにはいかねえんだよ」


 一瞬だった。男の意識は完全に消え、体には出来たばかりの生々しい傷が見える。


 ダンテは大きくため息をはいて、


「ああ、くそ。これから面倒なことになるな‥‥‥」


 これからの計画に思いを馳せる。とはいえ、シュウが加わったところでさして影響はない。


 だが、本当に厄介なのはその奥だ。彼がそれに目覚めれば計画は破綻してしまう可能性が大きい。


 それにシルヴィアのこともある。未だ、彼女の心は晴れていない。だからこそ、むしろシュウという存在が入ってくれたのは非常にうれしいことだ。


 だが、その前にあいつらが復活してしまえば。全部が無駄になる。


 だから、気をつけなければならない。


「厄介だな。本当に。『冥王の眷属』ってのは」


 ダンテはそこから動こうとはせず、そのまま夜が明けていくのを待っていた。

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