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16話 次に打つ手は

 アリスがガイウスに連れられ、コロシアムへと向かっている最中。


 彼女が連れてこられるはずのコロシアムで、金髪の偉丈夫──ダリウスは難しい顔をして、ボードゲームで使われる盤を眺めていた。


 先ほど入ってきた情報──都市全体を見通すメリルの目を持って強引に得させた情報によれば、カストルと言う異分子に、シモンは敗れた。


 だが、ガイウスはアリスを捕まえることに成功した。概ね、盤上は決まった。


 これから動き出す勢力は、アリスを連れ去られたにも関わらず盤上に顔を出さない黒髪の少年と、野放しになっているカストル・アルナイル。


 そして──。


「結局は、ここに収束するか」


 未だ足取りが掴めず、予想もつかない誰かを想像し──しかし、今は不確定要素に気を取られている暇はないと首を振る。


 ダリウスは自らが削った駒を、自らが滞在しているコロシアム場へと置いた。


 ──恐らくは、全てがここに集結する。これは、予測でも、予想でも、なんでもない。


 ──確信だ。間違いなく、決着はここで着く。


「当面の問題は、カストル・アルナイル。力技でしか渡り合えない以上、やはり当初の予定で進めるほかないな」


 通りで暴れるカストルに当てるのは、少女を象った駒──『英雄』。


 剣神や冷酷を出すのも、悪い手ではない。が、良策とは呼べない。


 彼らは陰謀渦巻くこの都市で、メリル以外に信用できる数少ない友人たちだ。出来れば、傍に置いたままにしておきたい。


 ならば、残った策として。未だ現状を掴み切れていないシルヴィアを動かすのが、一番だ。


「メリル、『英雄』にこう伝えよ。──カストルの処理は任せる、と」


 今この場に居ないメリルだが、彼女は彼女でこの都市中を見て回っている。当然、ダリウス王の部屋も見ているわけで、彼の言葉も伝わる。


 返事はないものの、恐らくは伝えてくれるはずだ。


 これで、憂慮は断てた。一応警戒すべき対象として、存在が確認されている『憂鬱』と、『虚飾』も入らなくはないのだが──。


「これらについては、考えるだけ無駄だな。それに、彼らを深く考えるのなら、王国内に根差す厄介な毒も潰さねばなるまいよ」


 一年前の王都での事件。首謀者は貧民街の男だと断定されているが──ダリウスはそれだけではないだろうと踏んでいた。


 貧民街に通ずる人間が一人いたところで、変わりはしない。もっと、強大な影響を持つ人間が。


 それこそ、王国に連なる貴族が妥当ではある。だが、彼らに関しては不正だの、疑惑だのが多すぎて本命が埋もれてしまう。


 ゆえに、今は掘り返すべきではない。ゆっくりと、時間をかけて進ませればいいのだ。


 そして、ダリウスは手に持っていた最後の駒を見つめ。


「さて、どう動く。守るべき者を奪われ、打つ手がなくなってしまった状況で。情報が圧倒的に足りない中、君はどのように動く」


 極大のイレギュラー──ササキシュウ。一手間違えれば全てが瓦解してしまう可能性を孕んだ、最悪のジョーカー。


 シュウの駒を、盤上の真ん中に置いて──計画について、再度確認を取るのだった。




























「さて、全く……人使いが荒いものだ。折角頼られているところ悪いけど、君の思い通りには動けないな」


 主要都市の中で最も高い塔の天辺で、メリルは都市全体を見回していた。高度がそれなりにあるためか、折角結んできた三つ編みが解けそうではあるが、メリル本人は気にしていないようだ。


「うーむ、これ下からだと、色々見えそうだけど……ま、気にしたら負けだね」


 風の影響ではためくスカートの端を手で押さえながら、仕方ないかと諦める素振りを見せ──ダリウスに指示された通り、再び千里眼を使い都市を見渡す。


 千里眼──などと言っても、所詮は視力を少しばかり助長させるだけの使い道のない魔法だ。ただ、こうして全体を把握するのには役に立つだろう。


「ササキシュウの行動に関しては、ボクは君に伝えない。それが、王家の後継者と交わした誓約だ。文句は言わせない」


メリルがここに来た理由はそれでしかない。早い話がササキシュウを死なせないためだ。


 もし、そのようなことがあれば、メリルは全力でシュウを保護する。もう、後がない。何度も地獄を見て、救えない世界と割り切って、そうして生きてきた中でようやく得た天恵なのだ。


 今までとは違った形で現れた黒髪の少年に、期待を抱かざるを得ないのは仕方のないことだ。何せ、これ以上は本当に擦り切れてしまう可能性が高い。


 心が未だ人間性を保っていられるうちに、心が未だ人間であることを拒否しないうちに達成しなければならない。


 悲願を、達成する。それだけが、今のメリルに生きる意味を与えてくれている目標だ。当然、そこに至るまでの過程は消え失せた。なぜ、そんな考えを持ったのか、果たして疑問ではあるが──。


「ただまあ、生きる意味なんてものは基本そんなものだ。人それぞれで、後から見返してみたら、どうしてそう思ったのか不思議に思ってしまう。でも、それでも──」


 メリルは動き始めた黒髪の少年に対し、視線を傾け──。


「もう少しで、そうなる。もう少しで、悲願は達せられる。君の本質が何もかもを殺しつくす。『英雄』も、『賢者』も、魔族も。『破壊』という君の本質が、否が応でもその未来を引き寄せるんだ」


 この先の結末は知らない。全能に等しい力を持つメリルでさえ、混沌としたこの世界の全てを見通すことは叶わない。


 未来は傾きつつある。本来の方向へと引き寄せられながらも、新たな方向へと向かい、破滅を逃れようと抗っている。


 だから、辿る結末も変わるはずだ。これまでとは違った世界へと進む。


 そのことに、ほんの少しの期待を乗せながら──動き出す者たちに興味を寄せるのだった。



























「さて、どうするか……」


 連れて行かれたアリスを助け出すために動くことを決めたシュウだが、待ち構える困難は多い。


 情報が少なすぎる。ダリウス王がどこに居て、どこにアリスが捕まっているのか。そもそも、敵側の戦力は、それに五人将最強足るローズも対処しなくてはならない。


 シルヴィアの力を借りず、一人で。


 たった一人で並み居る敵を超え、積み重なる問題を解決しなくてはならない。


「くそ……こんなとき、土地勘がある奴がいれば……」


 初めて来た都市だ。どの道がどこに繋がっていて──なんていうのは、頭にすら入っていない。シュウはいろんな意味で平凡すぎる。頭が良ければ覚えられたかもしれないが、無い物ねだりをしても意味がない。


 現状あるもので何とかするしかないのだ。


「考えろ、頭を回せ。鍵はあるはずだ。どっかに、見落としはある、はず……」


 アリスを助け出すために必要な情報、鍵。サジタハの現状。そこら中に潜む騎士たち。


 彼らの動向を詳しく観察すれば、いずれ本命に辿り着ける可能性はある。だが、彼らは何も聞かされていない気がするのだ。彼らを追って行動などすれば、全て事が終わってしまう。


 とすれば、普通の騎士たちを尾行するのは下策。ダリウス王に繋がる騎士はローズや、ガイウスなどの主力の騎士のみ。彼らを尾行しようものなら、一瞬で斬り刻まれるだけだ。


「なら、どうする。手詰まり感がやばい……」


 こんなとき、どこを目指せばいい。絞れ、絞り出せ。所詮、シュウにはこの程度しか出来ることがないのだから。


 高い塔から見下ろせば──いや、違う。ならば主要の建物を全部巡って──いや、違う。


「なら、知っている奴に聞けばいい。この都市に、詳しい奴に」


 子供のころから過ごし、今日の異常感を即座に見抜いた商人。──クレモントや、宝石商人。


 道筋は立てた。あとは成功するか否かの段階へと進む。


 勝率はほぼなく、味方も存在しない。


 孤軍奮闘で乗り越え──最高の結末を迎えさせる。それこそが、シュウの存在する意味なのだから。

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