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11話 愛という名の呪い

「くそ……まさか、あんな奴にしてやられるとは……」


 地面に刺さった剣を抜きながら、カストルは悪態をついていた。


 確かに、油断していたのは認めざるを得ない。あんなボロ雑巾が如き存在に、自分が出し抜かれるとは思ってみなかった。


 だが、あくまで一度の失敗だけだ。


 あのような者が護衛についているなら、いつでもアリス王女を手に入れられる。


 あとは、ダリウス王へと交渉を突きつけるだけだ。交渉次第によっては、父の教えである、『無闇な殺生はするな。私たちの剣は一般市民のために在るものだ』を破る事にも繋がるだろう。


 だが、それでもカストルは自らの目標を遂げなければならない。


 父に着せられた汚名──それを雪ぐために、例え父の教えに反し、悪魔に堕ちようとも、これだけは譲れない。


 もしかすれば、父はこんなことを望んでいないかもしれない。それとも、こんなことをしでかした愚鈍な息子に腹でも立てているかもしれない。


 だが、それでいい。誰かに理解されようとはしていない。


 ただ、父のために──ダリウス王と交渉し、そして『英雄』に復讐をしなければならない。


 ただ分からない。これが、自分のしたい事なのか。これが、『英雄』であろうとした男の息子なのか。


 分からないが、進むしかないのだ。例え、その先に地獄が待っていようとも──。























「取りあえず……ここまで来れば、大丈夫か……」


「──」


 カストルから逃げおおせた二人は、暫く走った場所にある公園にて休んでいた。


 どこに敵が潜んでいるか分からない以上、少しでも逃げるのが先決だろうが、魔法の使い過ぎからかアリスの顔色が優れないのに気が付き、こうして休んでいるのだ。


 正直、シュウの魔力を与えられるなら与えてやりたいところではあるが──残念ながら、やり方が分からない。シルヴィアが分け与える対象ならばなんとか出来なくもない。だが、他の人に対しては成功した試しがない。


 一度、ミルにもやってみようとしたのだが、見事に失敗した。恐らくはシルヴィアにしか魔力を与えることが出来ないのだろう。


 だから、取りあえず今は休んでもらうしかない。それに、この先は疲労が溜まるだろう。死線だって、何度潜り抜けなければならないのか。


 膝に手をついて、肩で息をしている状態のアリスが、少しだけ目線を上げて──。


「どうして、こんなこと……」


「まだ言うか。もう遅えよ。もう、反旗を翻しちまった。今更、なかったことになんか出来やしない。アリスと同じ、捕まれば処刑される。一心同体ってことだな」


「そんなの……頼んでない」


「お前……ほんとに、強情だな。面倒すぎんぞ……将来が心配でしかないわ……」


 今更アリスが何と言おうと、シュウはアリスと同じ扱いだ。この国にいるイリアル王国の全員が、敵に回ると考えればいい。


「うっさい……人の将来なんて、心配しなくていいわよ、馬鹿……」


「どうやら、少しだけ体調が戻ってきたようだな……なら、大丈夫そうだ。立てるか? 無理なら背負うけど」


「いいわ。自分で歩ける──ううん、歩きたい」


「──そっか。なら、行こう。目指すのは、分からず屋のお前の父親だ」


「──」


 覚悟は決まった。目指すべき場所も再確認した。出来ることは何でもする。使えるものは何でも利用する。


 アリスを救うために、死ぬ気で戦おうではないか。



















「どうして、貴方が……だって、さっき、あそこで寝ていて……」


「ああ。さっき目覚めた。それで、お前に会いに来た。何か間違っているか?」


 カストルの攻撃により、被害が拡大していく中、ローズは一人の男性と出会ってしまった。


 目の前に立つのは、グレーに少しだけ銀を混ぜた髪の色の青年。そう、先ほどローズが見まいに行った人物。


 起きるはずのない人物であり、目覚めたとしてもすぐには動くことが出来ない。そのはずなのに、なぜかここまで来ている。


 サジタハの全権委任者である男性の息子──アキレウス。


 ローズが好きになってしまった男性であり、自らの手で殺す直前にまで持って行ってしまった男性。


「お前は、綺麗になったな、ローズ。ああ、俺好みのいい女だ」


「いきなり、何を……」


「まあ、最後まで話は聞け。──俺についてこい、ローズ。なに、お前らと基本的な考えは変わらない。シュウと言う少年を、俺たちに譲ってくれれば、何も言うことはない」


「貴方は、何のために……」


「そうだな……お前は、あの時俺を命がけで止めてくれた。──嬉しかったよ。誰も、止めてくれなかった。止めてほしいのに、誰も、手を差し伸べてくれなかった。だからさ、俺──お前には感謝してるんだ。我が儘かもしれない。もう一度だけ、俺のために戦ってはくれないだろうか」


「──」


 ローズの耳に甘い囁きが届いてくる。恋と言う名の呪い。それはローズの全身を縛り上げ、正常な判断力を奪っていく。


「つ──」


「なにも怖がる必要はない。ただ、俺に委ねればいいんだ。方法は既に考えてある。だから、お前は俺の言うとおりに──」


「──、あ、あぁぁああああ……ちが……違う……私は、こんな、こんなこと、望んで……」


「そう。それでいい。それで、いいんだ、ローズ……さあ、行こう」


 薄れゆく意識の中、ローズも遅まきながらに悟る。──利用されたのだ。自らの中に疼く、淡い恋心。


 許してはならないのに、それを心地よいと思ってしまう自分が憎ましい。アキレウスの手がローズの頬に触れ──次には。


 ローズの意識は、奥底に消え去った。

























「シモン。君にはカストルの方を頼みたいが、いいだろうか」


 そして、紫髪の青年──ガイウスとシモンは、カストルの被害にあった店の前で、話していた。無論、カストルと言う直近の脅威についてだ。


 ガイウス直々に命令されたシモンは、しかし意外そうに眉を顰めて。


「いいんすか。俺が、こっちで」


「君は、あれだね。こういう時だけは、勘がいいらしい。──だが、無用な心配だ。あの方は、私が直接行かねばなるまい」


 それが、ガイウスに出来る最善だ。最早こうなってしまった以上、道が交わることはもうないだろう。だから、せめて、アリスを主と仰いだガイウスの手で彼女を捕縛することが、彼に出来る唯一の事だ。


「そうすか。──なら、俺はカストルの方に」


「ああ。頼むよ、シモン。それと、あまり街の方で被害は出さないでくれ。いくら、戦いが激化してもね。あとで苦情を貰うのは王なのだから」


「極力、頑張ります」


「なら、早く行動を開始しよう。──あまり時間をかけるのも、良くはない」


 なにせ、アリスにはシュウと言う極大のイレギュラーがついている。彼がいる限り、恐らく並みの衛士たちには捕まらないだろう。


 であれば、シュウと言う人物を少しなりとも知っているガイウスの方が、幾分かやりやすい。それに──。


「シルヴィア様に、やらせるというのも酷でしかないからね」


 ガイウスの眼から見ても、シルヴィアとシュウの仲は良かったように見える。そんな彼らに殺し合わせるなど──本人たちからすれば耐え難いものだ。


「とはいえ、どこにいるのか。人目が着く場所か、それとも……」


 衛士たちが忙しなく動いているのは、ガイウスの眼にも止まるが、シュウたちのような姿は見えない。


 それというのも、この繁盛ぶりが原因だ。今回のアリス捕縛命令は、衛士やガイウスのような騎士にしか知らされていない。


 こちらにとっては、最悪で。シュウたちにとっては幸運以外の何物でもない。


 だが──。


「追われる者の心理になればいい。彼らは、どこを目指す? ──決まっている。ダリウス王の場所だ」


 今現在、ダリウス王は主要都市のコロシアムに向かっている。本来の用途は、別にあるのだが、ダリウス王の意向だ。無下にすることも出来ず、結局そこがアリスの最期を飾る場所となった。


 恐らくは、どこかでその情報を仕入れる。そう、仮定する。


 ならば、彼らは必然的にコロシアムへと向かう。ルートはどうあれ、そこが目的地なのだから付近で見張ればいい。


 主要都市の構造、コロシアムへと続く道。それらを鑑みて、彼らが通る経路を予測し──。


「とすれば、3番道路か。そう、誰も思わないだろうね。まさか、自ら事を起こした場所に舞い戻るなんて」


 確証はないが、シュウならそうすると思ったのだ。だが、もしもこの推測が間違っていれば、強引な手法ではあるが、家の屋上を伝って全体を見渡せばいいだけだ。


 取り敢えず、目的地を定め──そこに向かうのだった。

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