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4話 『魔女』との邂逅

「それで、何の話だ?」


「まあまあ、焦らないでください。私はただ、貴方と他愛のない話がしたいだけなのです。今なら、幸い『慈愛』の邪魔が入らないですしね」


「そう……」


 白髪のロリ少女──もとい、『魔女』ジャンヌ。彼女に連れてこられた場所は、主要都市の中に一定数配置されている公園だ。


 これもまた、サジタハの主要都市であるここが緑に溢れている要因の一つだろう。


 取り敢えず、噴水の近くにあるベンチに腰掛け、ジャンヌに話しかけた。そうしたら、今の答えが返ってきた。


 何とも言えない。何より見覚えのないことを言われても、困惑するだけだ。


 もしもシュウに普通の感性が備わっていれば、彼女の言動は胡散臭いとして一蹴していたが、諸々の事情によりそれが出来ないのが残念だ。


 そんな風に行動できれば、どれだけ楽な事か。


「今日はいい天気ですね」


「そう言う方向に持ってく!? なんかこう、付き合いたてのカップルみたいに間が取れないっていうか!」


「私と、貴方様が、付き合ってる……!?」


「なんでこう都合のいい耳なんだ……!?」


 今の話の流れからすれば、意味合いとして合っているのは約一割程度だ。大体、例えとして出した話なのに、信じる方がおかしい。


 やっぱり、シュウの周りにはおかしい人間しか揃っていないのか。


「いいではないですか。どうせ、まだ誰とも付き合っていないのでしょう?」


「あー、なんなのかな、これ。ほんとにさあ! そのネタいつまで俺の心を抉ってくるの!?」


 さらりとジャンヌから零れた一言により、シュウの心はバキバキに折れ曲がる。


 確かに、シュウは生まれてからこの方付き合ったことはないが、そこまで心の傷を抉る必要があるだろうか。


 この世界では付き合ったことのない奴には人権がないのか。もしかして、シュウの運が悪いのも全てそのせいなのか。


 と、完全な現実逃避に頭を巡らせている中、ジャンヌはいきなり笑い出す。


「なんで、笑うんだよ……」


「いえ、別に馬鹿にしているわけではなく……ただおかしくて、つい」


 口に小さな手を当て、くすくすと笑いを堪える仕草をしだすジャンヌに。シュウは怒る気を失くしてしまう。


 溜息をついて、改めて空を眺める。


 彼女の言う通り、今日は雲一つない快晴だ。太陽の日差しが温かい。


 この空を見ていたら、今までの戦闘の疲れも吹っ飛ぶようだ。


 数日前からずっと休んでいない。暫くは奥に引っ込んで、有意義に時間を送りたいものだ。ちゃんと、足も直してだが。


「あの……その怪我は、どうなさったんですか?」


「え? あ、いや、これは……」


 ジャンヌは足に巻いている包帯に気づいたのか、シュウにどうしたのかと疑問を投げかけてくる。


「これは、『大罪』の戦いで……」


「そうですか……全く、あまり無茶はしないでください。貴方様には、治癒魔法が効かないのですから。怪我をすれば自然治癒に頼るしかないのですよ?」


「──」


 思わず、黙ってしまった。


 今、この少女は、何と言った? 


 ──貴方様には、治癒魔法が効かないのですから。


 ──なぜ、知っているのだ。これは、近しい人物にしか話していないことだ。


 一応、この秘密を知るのはシルヴィアとミル。他にはメリルとレイ、シモンしかいない。


 この中でシルヴィアたちはまず秘密は洩らさない。レイらも同様だ。ただ気にかかるのはメリルだけだが、こっちも漏洩の心配ないと踏んでいる。


 ならば、この少女は、なぜ。


「どうして、それを知っているのか、という顔ですね」


「──読まれてたか。でも、そうだ。俺が聞きたいのは、それだ。なんで、知ってるんだ?」


「──当然です。なにせ、私は貴方様の前任者を知っている。そうであれば、勿論知りえないはずがない」


「前任者……他にも、この体質、というか能力を持った奴がいたのか? 過去に? それとも、現在に?」


 さも当然と言うように、知っていると返す少女。その理由は、前任者を知っているというものだった。


 だが、少女の話を聞かずにはいられない。なぜなら、少女はシュウが知りえない事実を知っている可能性が高い。


 シュウの疑問に、少女はすぐには答えなかった。まるで、答えを選んでいるかのように一瞬だけ目を伏せて。


「──実際、貴方様のような人間が確認されたのは、二度目です。そもそも、『冥王』に気に入られることなんて、中々ないことですから」


「『冥王』……?」


「ええ。『冥王』についてですが……これは、今は気にしなくていいでしょう。なにせ、今は生きていませんから。ですから、貴方様が気にするべきは、『冥王』に気に入られてしまったという事実です」


「どうして」


「当然です。『冥王』は神からは嫌われている。そして、『冥王の眷属』に選ばれると言うことは、神から嫌われると同義。貴方様の運気がないのは──多少は自分そのものの運があるからかもしれないですが、ほぼ全てはその能力のせいです」


「──そっか。『冥王』、か……」


 今の会話で出てきた単語。『冥王』をもう一度、口ずさんでみる。


 ──なんだか、懐かしい感じがする。なんでか知らないが、その単語は妙に馴染む。


 だが、その隣で。


「──」


「──えっと、なんでそんなにむくれているのか。色々と聞きたいことがあるんだけど……」


 なぜかジャンヌは頬を膨らませていた。目尻に涙さえ浮かべて、本気で怒っているように見える。


 何分、女性に対する経験が薄いため、こういうときはどうすればいいのか、全く分からない。こういう時、スマホでもなんでも使えれば──。


 とはいえ、この異世界に来てからメールは送れなかったので掲示板で質問しても返してくれる人がいないどころか、そもそも質問すら出来ないだろうが。


 そんな関係のないことを考えながら、対応に困っておろおろしていれば──。


「──哀れな『冥王の眷属』にどうか慈悲を。そのために、私の権能を発動する許可を与えてください」


 天使の声音が、その場に響く。いつの間にか浮かんでいた涙をふき取り、少女の声が耳に届く。


 彼女が光ると同時、包帯が巻かれている足がそれに連動するように光り出す。


 そして、眩い光がシュウの視界を埋め尽くし──。


「これで、大丈夫です。無事、怪我は治りましたよ」


「──ほんとだ。傷跡も、何もかもなくなってる……」


 彼女の言う通り、包帯を取った先にあったのは赤の足ではなく、従来通りの、怪我などなかったようにすら思える。


「これ、一体……」


「──すみません。本当は、もっと話したかったのですが……もう感づかれてしまったようです。本当に、申し訳ございません」


「──気づかれたって、誰に……!」


 シュウの質問と、彼女がここから去るのはほぼ同時だった。シュウの声が届く前に、白髪の少女は消えた。


 ここにいた痕跡など何一つない。思えば、サジタハは今繁盛している時期じゃなかったのか。


 なのに、人が誰も公園近くを通らないなどありえない。最初からこの空間には、ジャンヌとシュウしかいなかった。


 まるで、空間を捻じ曲げたかのようになっていたのだ。


 そして、ジャンヌと入れ替わるように一つの影がその場に舞い降りる。


 規格外すぎる少女に迫れる唯一の青年。昨年、ジャンヌと激闘を繰り広げた空色の青年。


「初めまして、ササキシュウ。今日は、話があって来た。これからのこと、話さなければならない事。その全てを、語り合おうじゃないか」


「──っ」


 『大罪』と同格の化け物。まさかの邂逅に、背中に冷や汗が伝っていくのだった。

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