エピローグβ 誰かの願いは、容易く世界を滅ぼす
初めて、この世界に来て。
俺は浮かれていた。
きっと、小説の中──仮想でしかない世界に来れたのが、嬉しかったのだろう。
別にチートが欲しいわけではない。
ただ、特殊性が欲しかった。
自分一人だけのモノが欲しかった。
そんな淡い期待を込めて過ごしてきた俺が見たものは──まさに地獄だった。
戦場にて咲き誇る血の華、その楽園。とめどない血、折れた剣。途切れることのない死体。
まさに、死の楽園。
そこで、初めて悟った。
これが遊びなのではないのだと。
異世界に来て、浮かれて。これはゲームだと勝手に思って。
何もかもが自分の都合通りに運ぶと信じて。
その結果が、これだ。
この腐った俺に、何度も話しかけてくれた青髪の少女は死に絶え。
そんな傲慢な俺に、喝を入れてくれた赤髪の少年は愛想をつかして、今もどこかの戦場を駆け巡って。
誰よりも仲を深めていた金髪の少女をいけにえに捧げた。
ただ戦場を眺めている俺に死の足音が、近づく。
今からでも頑張れば、何かできると信じてやまなかった大馬鹿者。だが、実際はそんなことを言って、何一つしなかった愚か者。
そんな俺に死が、刻一刻と近づく。
「準備はいい?」
戦場には相応しくない、桜を写したような少女が。いつの間にか俺の目の前に立っていた。
「──ぁ、俺、は……」
「──こうして、こんなところで会うのは、初めてじゃない気がするね」
俺は、思い出していた。
この少女との出会いを。いいや、既に滅んだ世界で出会った、一輪の花のことを。思い出してはいけない、思い出すはずのない、その想い出は──あまりにも救いなんてものがなくて。
「俺は」
改めて、周りを見渡す。
どこを見ても、地獄、地獄地獄地獄。
これらは全て、俺が引き起こした。
俺が、引き金を引いた。
何も為せず、妄言ばかり吐いていた、俺の理想の終わり。夢の結末。泡沫の夢はまるで泡が弾けるかのように音を立てて割れる。
一度、俺は自分の両手を見て──。
「俺の、罪……」
「──私は、本当はこんなこと、したくない。だって、こんなのは誰も救われない。貴方も、ここで死んでいったみんなも」
「──いや、ここで、殺してくれ」
俺を殺そうとしない優しき少女に、しかしそれは許せないと諭す。それだけは、してはならない。これだけをしておいて、最早どう罪を贖えばいいのか。
──死だ。死と言う概念こそが、俺を裁ける。
逃げかもしれない。甘えかもしれない。だけど、もうこれしか思いつかなかった。
全てを諦めた俺に、少女は一度だけ目を伏せて──。
「──」
「ああ。そうか。これが、俺の役割だったんだ……こんな、誰も救われない結末が、俺が願った光景なんだ……」
──この世界は傲慢だ。
──だから、破壊されなければならない。
──そして、破滅の運命に囚われた少女を救わなければならない。
「さあ、殺せ。『英雄』。いずれ、この願いは醜いものへと変化する。誰にも制御できない化け物となる。だから、せめて。ここではそうならないように──」
「──さようなら」
ザシュ、と。無機質な音が響いた。
そして、地面に何かが落とされる。
シルヴィアはただ、赤い何かが伝う剣を見て──。
「こんなの……私が、したかったことじゃない……!」
これは、もう救えない物語。
終わることによってにしか、救いを得られない世界の末路。
だが、それでも。俺は悲願のために──。




