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4話 明ける夜、その先に待つのは

 シュウが『賢者』と組み、『嫉妬』攻略への足掛かりを経たころ。


 王都に残ったシルヴィア達もまた、己の為すべきことをしていた。


「ガイウスさん。この魔法道具は……」


「それは前線へと物資を運ぶ際に必要になるものです。確か、物を多く入れられるとかで」


「分かりました。では、準備しておきますね」


 『憤怒』攻略への足掛かりとして、シルヴィアと五人将は昨夜から町中を駆け巡っていた。


 突如としての襲撃。この展開が読めなかったわけではないが、その報が訪れたのはつい三日前。そして作戦が決まったのも昨日なのだ。


 いくら準備を怠らなかったとはいえ、あまりにも急すぎる決定だ。


「シルヴィア様。そろそろお休みになられた方がいいかと。今日一日働きづめですよ?」


「うん、分かってるけど……それでも、皆が頑張ってる中、私だけそんな風に休めないよ」


 働き過ぎだと注意を促すミルに、しかしシルヴィアは休んでいられないと答える。


 考えれば、彼らは『大罪』襲撃の報告が上がったときからずっと働いているのだ。


 今日一日だけでなく、もっと前から。精神的にも、肉体的にも限界の者達だって多いだろう。


 いくら騎士達はそういうのに慣れているからと言って、それでも負担は決して少なくはない。


 しかも彼らは明日から展開される作戦にだって加わるのだ。休んだ方がいいのは変わらない。


「ですが、シルヴィア様は作戦の要です。シルヴィア様がいなければ、持たせられないのは紛れもない事実です」


「──」


「シルヴィア様に何かあれば、すぐにでも突破される可能性が高いかと」


 ──これは間違いない事実だ。今の人間族には『大罪』達を抑えられる切り札は少なくとも、一人しかいない。


 だからこそ、ここでシルヴィアに何らかの不調が見られればそれこそ苦肉の策が破綻してしまう。


「無論、私も死力は尽くしますが……」


「──どうにかしないと、ね」


 彼らが待つのは一人の少年だ。


 生まれた場所も、育った場所も、何もかもが不明な少年。この世界で禁忌とされている黒の象徴であるかのような風貌の彼に、全てが託されている。


 彼の知識はシルヴィア達とは一線を画している。


 この一年間、彼と暮らしてきたシルヴィアが言うのだから間違いはないはずだ。


 とはいえ、あちらも中々身の上の話はしてくれないが。


 だが、それもまあいいだろう。時間はまだある。


 この戦いに負ける気などさらさらない。そして、シルヴィアとシュウには確かな勝機(きずな)がある。


「──とはいえ、シュウがいつ戻ってくるかによります。限界でも一日──それを超えてしまえば、もはや勝機は無に等しいかも」


「どれだけの猛威を振るうかにかかってるね。なんか敵を頼りにしてるみたいで癪だけど」


 こういう時、決まって彼女は期待してしまう。


 ──とある少女の事を。


 今から数年前の時に出会った、少女。彼女はもう生きていないというのに、それでもどこかで認められていない自分がいる。


「──ふう」


 ぶんぶんと首を振り、意識を保つ。彼女の事を忘れる。


「じゃあ、ミル。あとはお願いしていい?」


「はい。なんなりと。今までの不甲斐なさを纏めて返し致しますので」


「ふふ。そんなこといいのに。ミルも、早く寝てね」


 夜は更けていく。


 それぞれが譲れない願いを抱きながら。























 それは天啓か。もしくは託宣とやらか。


 だが、そんなものはどうだってよかった。


 そんな些細なことは気にする必要がなかった。


 だって、出会ってしまったのだ。


 気高くも美しい、魔の王に。


 その時の衝撃を、彼女はなんと表現すればいいのか分からない。


 彼女はそのために今まで闘ってきた。


 自分達に課せられた規則を破り、生き永らえてきて。例え、罰が下ろうと構わない。


 何人であろうと、あの女性の気高さを奪うのならば容赦はしない。


「そう、誰であろうと、彼女に近づくことは私が許さない」


 雲一つない星空を見つめながら、『嫉妬』──メグレスは独白した。


 気持ちの良い夜の風──正確には海より飛来する風に、当てられながら彼女は思い出していた。


 彼女の想いを、願いを。忘れてはならない物語を。


「『嫉妬』の名に懸けて、必ず貴方を殺す」


 そして、夜は明けていく。


 その先に待っているのは、果たして勝利か、それとも──。

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