表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/288

番外編1 歌姫

「それで、私とシモンが呼ばれたのか……」


「いいじゃねえか、どうせやることないんだし。それにこれ俺達三人だけでやったって面白くもないからさ」


「──俺も強制参加なのか……?」


 そんな風に各々の声を発するのは、シュウとシモン、そして五人将であり騎士の中の騎士、ガイウスだ。彼らは今、王都より数十キロ離れたシルヴィア邸にやってきていた。いや、正しくはガイウスらが招待されたのだが。


 というのも今回彼らが集まったのには理由があった。


 王都の事件より既に一か月が経とうとしており、未だ王都では復興最中だ。だが、そんな中でシュウはとある一つの事を考えていた。


 それが王国が誇る最大の美少女達──都合によりミルは除く──をこの場に集め、テレビ放送のようなものをしようと考えたのだ。


 それも勿論、王都を活気づけようという気持ちから派生したものだ。ちなみに今彼らの後ろでは王都内に配置されている魔法道具、それと同じような機器が後ろにある。


 まさにシュウの世界でいうテレビ放送と同じ原理だ。とはいえ、今回ばかりは生放送というわけにはいかないので撮影しようということだ。


「シュウ……君はどうして面倒な事ばかりを思いつく……」


「うるさい! これは必要な事なんだ。王都襲撃のせいで暗くなっている住民の心を少しでも癒そうとした結果がこれだったんだよ!」


 ガイウスはシュウの提案に呆れるが、シュウとて何も考えずに騒ぎを起こすわけではない。そこら辺をしっかり理解してもらいたいところだ。


 だが、シモンはただ暗い顔をしてシュウの肩に手を置く。


「シュウ……俺は、帰ってもいいか」


「どうしたよ、シモン。そんな死にそうな顔して……」


「いや、寒気が止まらないんだ……」


 シモンの勘は戦場においてまさに的確と言える。それはシュウも周知の事実なのだが今回ばかりは疑問を呈さずにはいられない。


「シモン……お前の勘の良さは確かに知ってる。だけど、今ここで感じることじゃないだろう。だってこれから訪れるのは天国の時間なんだぜ?」


 そう言ってシュウが目線を送るのは、青色のカーテンに包まれた先だ。そこには今回の主役たちが勢ぞろいしており、出番を待っている。


「シュウ。早くしてくれない? 私もう我慢できないんだけど」


「お前はもう黙ってろ……」


 シモンを説き伏せ、準備を強引に推し進めるシュウだが、突如聞こえてきた声の方向に首を回す。そこにいたのシルヴィア邸の使用人筆頭ミルだ。しかしその手にはシュウのスマホが握られており、間違いなく取る気満々の姿勢だ。


 いつまで経ってもぶれないその姿には呆れるを通り越して、ある種の感服を覚えるほどだ。


「よし……セット完了……! じゃあ、そろそろ始めるからみんな準備してくれ!」


 今回シュウ達が何をするのかと言えば──もう気づいている方もいるだろう。


 みんなの疲弊しきった心を癒す極上の映像。そう、それは──。


「じゃあ、今から第一回歌姫選手権開催──!」


 最も効果的に気分を上昇させる方法。即ち、歌だ。















 








 歌──それは時代と共に進化してきた文化ともいえるものだ。古今東西あらゆる国が建国され、それぞれの文化を築いてき上げた中で、歌は絶えず現代まで続いた文化だ。


 それは国家を象徴する歌。民衆によって紡がれた歌。もしくは歴史を語るような歌だってある。


 そんな歌だが、その効果は抜群と言っていい。歌には不思議な効果があるのだ。


 歌の種類にもよるものの、聞いた人の感情を揺さぶる効果だ。悲しそうな音楽を聞けば泣く人だっているだろうし、軽快な歌を聞けばテンションが上がる人もいる。


 万人に、とはいかないまでも多くの人の心に響かせる歌。それが今この場において必要な事なのだ。


 今回の出場者たちにそう言い訳し──そう言い聞かせ、出場を取り付けた者も大半だ。


「てなわけで、早速始めていきたいんだけど……そっちの方は準備とか大丈夫?」


「うん、こっちは大丈夫だよ。それよりミルはやらなくていいの?」


「私はご遠慮させていただきます。私はシルヴィア様のように上手くはないので……」


 あちらから聞こえてくるのはシルヴィアの声だ。どうやらあちらも準備万端なようだ。今回集めた参加者だが、第一回ということでかなり奮発──否、厳選に厳選を重ねた。


 五人将であろうとなかろうと、シュウの知り合いに居る美少女達に片っ端から声をかけてきたのだ。


 これで駄目だったら当分シュウは引きこもるかもしれない。


「では、まずは一番目の選手だ……じゃあ、ローズさんお願いします!」


 シュウの声と同時に幕が下ろされる。そこから現れたのは灰色の髪の女性──五人将最強であるローズだ。


 いつもはその長すぎる髪を纏めたりはしていなかったが、今回はシュウの懸命の説得により服装と髪形を変えてくれたのだ。


 その服装はまるで社交界に行く貴族のようだ。恐らくはマーリンに強制的に着せられたであろう赤のドレスを纏い、バラを強く連想させる。


 そして、ローズは前に出ると。


「どうして、私がこんなことを……」


「あのー、ローズさん? 愚痴については後でいくらでもぶつけてくれて構わないんで、今は歌の方に集中してくれませんかー?」


 なんだかんだで結局観念し、映像機の前で歌を披露するローズ。そして、野郎ども三人の審査員は。


「やべえ……なんか語句が貧弱だけどやばいってことしか言えないわ……」


「同じく……ローズさんてこんなに上手かったのか……」


「流石はローズ殿。素晴らしき美声です。まるで(以下略)」


 同じような感想しか言い合わない馬鹿二人に代わってガイウスが賛辞を並べ立てるが、長すぎるので迹の都合上全カット。


 後でガイウスに何か言われるかもしれないが、知ったことではない。


「ローズさん。なんでそんなに上手いんですか?」


 ローズの歌のうまさを現代風に表せば、カラオケで間違いなく90点を超えるほどの上手さだ。シュウなど軽く超越しているが、ここでふと疑問。


 何をすればそんなに上手くなるのだろうか。


「それは……昔、歌っていたことがあったから……本当に、昔だけど、ね」


 どこか過去を懐かしむように、それでいて思い出したくもない過去を思い出すように苦痛に顔を歪めるローズ。正直、ローズが何を抱えているのかは分からないが今は追求するべきではない。


 今は楽しむべき場なのだから。


「じゃあ、二人目だな……ここで万を持しての登場だ、シルヴィア!」


「え、ええと……よろしく」


 ローズの番を終え、次に登場するのは普段通りの格好のシルヴィアだ。先ほどのローズの歌声を聞いて委縮しているような雰囲気が見られているが問題はさしてない……はずだ。


「そんじゃシルヴィアだけど……ぶっちゃけ大丈夫? 緊張とかしてない?」


「馬鹿ね、シュウ。あのシルヴィア様がこれしきの事で緊張するはずがないでしょう?」


「さも当然のような顔してるけど、お前俺のスマホ片手に言ったって威厳のへったくれもないからな! それと部外者は表に出てこないでください!」


 まさかの闖入者ミルを追い返し、いざ歌へ。シルヴィアが歌っている間映像に映らない所でミルが興奮していたが、もはや何も言うまい。


 そして──。


「なんだろう……今一瞬三途の川が見えた気がする……」


「俺は花畑が……」


「さす(以下略)」


 三者三様の反応を見せるが、もはやシュウ如きの語彙力ではこれを言い表すのは不可能だ。


 それほどまでに素晴らしき歌声であり、ガイウスがいいことを言っていたような気がするが、尺の都合上台詞すらカットだ。


「やべえよ……なんか、上手いことは想像出来てたけど、ここまでとは……まさかこれが原因で料理スキルが残念なことになったのか……!」


「シュウ! 余計なことは言わないで!」


 思わず思ったことを言ってしまい、怒られるシュウだが今回ばかりは本当にそう思わずにはいられない。


 まさに歌姫の座はシルヴィアと言っても過言ではないのだろうか。


「ただまあ、まだ最期が残ってるんだけどな……」


 本来であればシルヴィアが最後なのだろうが、今回の順番はくじ引きで決まっているのだ。ゆえに最後はあの方になってしまった。


「それじゃあ、登場してもらいますか……レイ!」


「ねえ……これさ、公開処刑とかじゃないよね?」


 シュウの声が聞こえると同時に、最後の選手が弾幕に上がりそこから出てくるのは青髪の少女──レイだ。


 だが、その表情はあまり芳しくはない。恐らくは前の二人があまりにも凄すぎたもが原因だろう。


 シュウから見ても間違いなく彼女達の歌は上手すぎた。それゆえに緊張がかかっているのだ。


 その気持ちはシュウにだってよく分かる。


「まあ、レイ。そんなに気を張らなくてもいいさ。確かに緊張するかもしれないけど、普段通りに歌えばいいんだよ。別にレイがどうこう言うわけじゃないんだしさ」


「そ、そうだよね……うう、なんで私が最後なの……」


 それには同情せざるを得ない。三分の一の確率の中から最期を引くなどそれなりの強運──凶運だ。


「じゃあ、そろそろ……」


「う、うん……じゃあ、始めるね……」


 そうして、レイの口が開かれ──。


「え、ええと……みんな? 大丈夫? おーい、生きてるー?」


 全員がリタイアする羽目となったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ