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11話 情報の整理

 西ブロックを目指し、歩いていた折、衛兵によって再び似たような事件が起こったと聞き、やってきたのが先ほど事件が起こった北ブロックの反対側の場所だった。


 結論から言えば、惨憺たるものだった。


 しかしシルヴィアはただ前を見て、呟く。


「どうやって、これを引き起こしたのかな?」


「どうやって? それは‥‥‥全部犯人がやったんじゃないか?」


「ううん、たぶん違う。そもそも私を狙ってくるってことは相当な実力者なはず。でも、この傷跡は戦い慣れしていない人がやったようにしか思えない。ねえ、シュウ。なんで犯人は私を直接狙ってこなかったんだと思う?」


「『英雄』‥‥‥そんな大仰な名前を授かってるんだ。それだけで人々の支えになってる。言い換えれば、みんな英雄を信用している。つまり、それを崩しにかかってる?」


 シュウの推理にシルヴィアは頷く。


「そう、つまり『英雄』への評判、信頼、それらを落とそうとしているはず」


「何のために? そんなことしても、意味はなくないか?」


 シルヴィアはかぶりを振って、


「ううん、すでに布石は打ってある。あの時、宣戦布告してきたけど、それをして何のメリットがあると思う? もしも、あの宣戦布告に、私たちに気づかせる以上の意味があったら?」


 シュウはただ、シルヴィアから紡がれる言葉にうなずいていく。


「もしも、あの宣戦布告を他の人が見ていたら? 例えば、一般人とかでもそれは広まっていく。その状態で私がそれを止められなかったら?」


 そこでようやくシュウはシルヴィアの言いたいことが分かった。


「『英雄』の評判は失墜していく。それも止められないたびに」


 言ってしまえば、宣戦布告は『英雄』との一騎打ち同然だ。例えば、誰かと勝負して負けたとき、その負けた人の心象が悪くなるように。これをあくまでゲームと見立てて、進めているのだ。


 それが分かって、シュウは拳をいつの間にか握りしめていた。


「許せねえ‥‥‥つまりは、犯人はそんなことのために人を殺してきてるってことだろ?」


 許せることではない。それは人の命を冒涜する行為である。


「だから、私たちはどうやってこんなことをしているかを暴く必要がある」


 シルヴィアは迷いのない顔でそう言い切る。


「そうだな。でも、どうやって犯人は事件を引き起せるんだ?」


 そこが問題である。犯人はこの惨劇を引き起せたのだろうか。シルヴィアの話を聞いた限りではその犯人がやったようには聞こえなかった。


「シルヴィア。さっきのはどういう意味だ? その、傷跡の話」


「この前、呪いの可能性があるかもって言ったでしょ? もしかしたら、私が知らないだけで誰かを操る呪いもあるかもしれないってこと。だから、今それをレイとシモンに確かめてもらってるの」


 呪い──魔法の道から外れた魔法。レイに教えてもらったとき、唯一レイが苦々しい顔で言った魔法だ。


 曰く、呪いは人を殺すために特化したものだ。曰く、もとは魔法から派生した。


 これについては詳しく教えてはくれなかったものだ。レイが言うには、普通に生きていればまず見ることも、その存在を知ることも叶わないという。それをシルヴィアが知っているのはおそらく『英雄』の後継者としての活動の最中で実際に目にしたのだろう。


「その二人からの連絡は?」


 シルヴィアは首を横に振り、まだ来ていないと言う。まだ、確かめるのに時間を要するのかもしれない。


「シルヴィアはさ。どこで呪いのことを知ったの?」


 シュウの質問にシルヴィアはほんの一瞬だけ狼狽する。


「ああ、いや、言いたくないなら言わなくていい。悪いな、変なこと聞いちゃって」


「ううん、ありがとう。君が悪いわけじゃないから。‥‥‥乗り越えられてない私が悪いんだから」


 シルヴィアの掠れた声はシュウに届くことはなかった。




















 しばらくして、レイとシモンがやってきた。


「ごめんね、レイ。どうだった?」


 シルヴィアはレイに呪いの事がどうだったかを聞く。


「うん‥‥‥まず、死体の方には魔法のかけられた痕はなかった。呪いといえど一応は魔法だから使えば、その残滓が残るはず。でも、それが一切なかった。不自然すぎるほどに」


 レイの最後の一言にシュウは違和感を覚える。


「待ってくれ、不自然ってどういうことだ? 普通の人は呪いなんてかからないだろう?」


「いや、治癒魔法は別だ」


「シモン、説明雑だよ」


 シュウの疑問に答えたシモンだったが、答えになってない答えを頂き、その言い草に呆れたレイがその補足をする。


 レイが言うには、治癒魔法も使えば残滓が残るらしい。


 そして、その残滓は一生消えない。だが、そのままの状態で人体に悪影響はないので気にすることではない。


 魔法をそれなりに極めた魔法士であれば、何度治癒魔法を使ったかが分かるとのことで、王城に配属されている魔法士は全員が分かる領域に達している。


 それはレイも例外ではなく、治癒魔法及び呪いの残滓を見れる。


「生きている限り、絶対に傷は負う。なのに、治癒魔法で一度も直したことのない体はおかしいってことか」


「そう。まあ、言っちゃえば、シュウの体にも治癒魔法をかけた跡が見当たらなかったんだけどね」


 何か怪しいものを見るかのようにジト目で見てくるレイだが、スルーさせてもらう。


「治癒魔法を使った跡が見つからないのは、もしかしたら、呪いの残滓を消す際にいっしょに消した可能性があるってことか?」


「‥‥‥うん。そうだね」


 シュウの導き出した結論にレイは頷いた。


「ただ、その呪いをどうやってかけたかだよなあ」


 結局は何をしたってここに辿り着く。


 この世界での異能──『オラリオン』の可能性も捨てきれない。


 だが、そうなればこちらは完全にお手上げだ。対処法もないし完全なチートだ。


 だからこそ、今回は『オラリオン』の事は除外させてもらう。


 レイの話では呪いというのは対象に触らないと発動条件を満たせないらしい。だが、生存者の話によれば変なやつに触られた覚えはないとのことだ。


 これでは呪いの発動条件を満たせない。


 つまり、これでは結局振出しに戻る羽目になってしまう。それでは、これから何人の人が犠牲になるか分かったものじゃない。


 横を見れば、シルヴィアとシモン、レイの思案顔が見えるが、芳しい結果は得られてないように思える。


 ──あきらめるな。何か、何かあるはずだ。


 この世界での経験、その中で得た知識。それをフル回転させ、あるかどうかも分からない答えを探す。


 魔獣、今朝の事件、取り込む、英雄、呪い、魔法、『オラリオン』。


 一見すれば関わりなどあるはずがない単語がかすかな繫がりを見せたとき、シュウに一つの考えが浮かんだ。


 ──もしも、もしも。俺たちの呪いに対する定義が間違っていたら。


 もしも、対象に触れなくても発動する方法があるとしたら。


 例えば、目で見た相手を片っ端から呪えるのならば。説明がつくのではないだろうか。


 何の根拠もない話。しかし、この世界でこの考えを思いつく者はほとんどいないはずだ。


 レイやシルヴィアですら呪いは触れなければ発動しないという先入観、言わば固定的概念があった。


 だからこれは異世界人であり、その定義に絶対の自信を持っていないシュウだからこそ思いついた考え。


「なあ。もしも、呪いに対する定義が間違ってたらどうする?」


 僅かな可能性──雲を掴むような微かな糸に縋り、シュウは三人に問いかけていた。

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