エピローグ 二人の道
「ようやく帰ってこれたね。王都に」
「ああ、生きて帰ってこれたな、シルヴィア」
二人は今、宿が立ち並ぶ王都の東ブロックに来ていた。
死闘とも呼べる最大の戦闘を終え、各所で休みながら走って、星が輝く夜に帰ってきた。
奇しくもシュウが異世界に来て過ごした最初の日と同じように月は満ちていて、星が連なっている。
王都全体で見れば復旧が全く進んでいない状態であり、王都の東ブロックに住む場所を失った人が一時的に住んでいる状態だ。
あまり泊まれる宿舎がなかったので、そのままシルヴィア邸へと帰ろうとしたのだが、ガイウスに止められたのだ。
なんでも、明日八岐大蛇を倒した勲章が与えられるだのなんだのでまだシュウ達には王都に居てもらいたいと言うことだ。そういうことで、シュウが依然泊まっていた宿舎に空きがあるとのことでここに来たのだ。
「明日も早いから早く寝ないとね。それに待たせるとミルから怒られちゃうかもしれないし」
「待たせるっても明日いっぱいは予定埋まってるから、納得はしてくれるだろうさ。それに……シルヴィアは怒られないだろうから……」
結局怒られるのはシュウだけだ。別にそれ自体はに文句はないのだが、もう少し時と場合を考えてほしい。
「なあ、シルヴィア。その、ええと、寝る前にさ少しだけ話しないか?」
「──いいよ。星でも眺めながら、話そう?」
そう言って、やってきたのは東ブロックの中心に位置する公園だ。
流石にこの時間にイチャついているリア充どもはいないようで、二人っきりだ。
束の間、二人の間には沈黙が流れる。どちらも上空を眺めてるだけで、話そうとしない。
そんな久しぶりの感覚に耐え切れず、シュウがついに口を開く。
「シルヴィアはさ。何のために八岐大蛇と戦ったの?」
八岐大蛇戦に加わるまで、シュウの知る限りシルヴィアは戦う理由を失っていた。剣を取ることも出来ず、ただ普通の少女だった。
だが、途中で加わった彼女はまるで別人だ。明確な理由を持って戦い、まさに彼女に受け継がれる『英雄』の名に相応しいものだった。
一体何があってどうしたら、あそこまでの輝きを取り戻せるのか。
シルヴィアはシュウの質問に、一度だけ小さく笑って。空を仰ぎながら答える。
「一人じゃないって、分かったからかな」
目を閉じて、何かに想いを馳せるように見えるシルヴィア。その脳裏に何が描かれているのかは知らないけど。
「ずっと一人だって思ってた。誰も私の事なんて理解してくれないと思ってた。同じような人間なんてだれ一人いなくて、孤独だと思ってた」
「──」
「でも、ね。気づいたの。大切なことに」
シルヴィアは大事なものを抱えるような優しい声音で、視線で、語り掛けてくる。
「私の周りには、私を想ってくれている人がいるんだってこと。ようやく分かったの。一人なんかじゃなかった。いつだって仲間がいてくれたから、私はここまで来れたんだって」
「シルヴィア……」
「いつだって私の事を守ってくれている人がいたから。だから、今度は私が守りたいって願ったんだ」
「そっか……」
シルヴィアの想いを聞いて、シュウは安心したように溜息をつく。
何も変わっていなかった。シルヴィアはシルヴィアのままだ。
そう、シュウがシルヴィアを好きだと気づいたあの時から、何も変わってはいない。
いずれ、互いに今の関係ではいられなくなる時が来るかもしれない。このままの道を行けば、いつか分かたれる日が来るのかもしれない。
きっと二人の道は交わったままでは続かない。そんな気がして止まないのだ。
「俺さ、ずっと疑問だったんだ。なんで俺は戦ってるんだろうって」
『大罪』の中心核の『傲慢』に改めて核心を突かれたことで、初めて悩んだ。
自分のしていることは正しいのか、それとも異世界に来てからのシュウの道は間違っていたのか。
戦いの中で得た答えはこれからもシュウを縛り付ける。何度答えを出そうと、きっと逃れられるものではない。
人の正しさなんてすぐに変わる。誰だって同じなのだ。多くを経験することで、自分は正しいのか迷う。
ダンテは言っていた。
人は何かに依存していなければ、生きていられないと。
そして人々の大半がきっと自分の正しさに依存するのだろう。そうでなければ、自分が何をしたいのかも分からなくなって、そのうち袋小路に迷い込んでしまう。
それでも人は足掻ける。どれだけ死ぬような経験を繰り返しても、何度争いに巻き込まれようとも人は正しさを求めて歩き続ける。
「俺も、ようやくその答えを得たよ」
シュウはシルヴィアを守りたい。それだけは紛れもない事実だ。
右も左も分からない時から一緒にいてくれた優しい少女を死なせたくはない。
だけど、それ以上に。
「俺は、君の力になりたい」
「シュウ……」
「君がしたいことなら、俺は全力で手伝いたい」
いつか道は分かたれるかもしれない。でも、シュウはそれで構わない。
それがシュウのやりたいことだ。
「──」
シルヴィアはシュウの答えに笑って。
そうして、長かった王都での物語はようやくの終わりを迎える。
だが、これで全てが終わるわけではない。
むしろ、これは序章だ。
長い長い序章はようやく幕を閉じ、ようやく始まりを告げる。
だが、彼らの物語が再び動きを見せるのはまだ先なのであった。
はい、そういうわけで三章がようやく終わりました。
かなり急ぎながらの投稿だったのですがいかがだったでしょうか。
投稿期間にして三か月ぐらいでした。
さて、三章のテーマについて少しだけ触れておこうかなと。
三章を思い描いたとき何を軸に据えて書こうと悩んだ末、自分たちの足で前に進むということでした。
ある意味では最強のダンテがいることで、今までは何とかなるだろうという雰囲気が自分的にはあったような気がしたんですよね。だから、まずは安全な所からぶち壊そうと思い始めたのが最初でした。
ダンテがいなくなってから先の読めない展開にしたかったのですが、伝わったのかどうか。
今回の事件は色々とイレギュラーを入れてみました。もはやシルヴィア達だけでは解決できない問題などを取り込み、彼らがいかに弱いのかを自覚させるための章だったとある意味では言えますね。
そして、ダンテの死を超えた先に彼らが辿り着く運命、そしてちりばめられる伏線。かなりの数がありますが、出来るだけ回収し終えたいと思っていますのでこれからもよろしくお願いします。
ちなみにエクストラ章で回収される伏線も多々含まれていますので、どれが物語と関係するのかそれともエクストラ章に繋がる伏線なのかを考えていただければ幸いです。




