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エピローグα いつかどこかで終わった世界

 秩序なき破壊。ただそれだけが世界を支配していた。


 周りにはおよそ建物と呼べるものはなく、野端に生い茂るのは雑草だけだ。もうそれだけで人が辺りに住んでいない事ぐらいは想像がつく。


 そして真上から照り付ける太陽は影に飲み込まれ、永遠にその姿を見ることは叶わない。


 実際、夜の世界とでも呼んでもいい程の暗さだ。だが、人の生活圏すらない場所を果たして世界と言ってもいいのか。


 それどころか動物すら顔を出さない。生きている生き物がいるかどうかも怪しい。


 まるで世界から断絶されたようだ。神に見捨てられ、もはや破滅の道しか辿りえない。


 そんな隔絶された世界にて、未だ蠢く何かがいた。


 それは自らの上に被さっていた瓦礫をどかし、這う這うの体で立ち上がり、埃が被った自らの黒髪を手で乱暴にさする。


 あと、他には何もない。


 誰も生き残っていなければ、何もかもが死に絶えている。


 まさに死の都と言っても過言ではない。


 そして、もう一人。そんな地獄から這い上がる影があった。


 それは桃髪を荒涼の風でたなびかせながら、ただゆっくりと地上へと降りてくる。


 互いに相対し、視線を交わし合い、束の間緊張が二人の間に駆け抜けて──。


 そっと、黒髪の少年の首に一本の剣が添えられる。


 それはきっと死の宣告だ。世界をこんな風に変えてしまった者への罰。だが、少年は振り払うことも、動揺することだってしない。まるでこれが正しいとでも言うように──。


 それを見かねたのか、あるいは単純に疑問を持っただけだったのか。桃髪の少女は口を開く。


「どうして、こんなことを?」


 それは問いだった。人間に属しながら、人間ひいては世界のすべてを滅ぼすに至った引き金を引いた少年に向けての。


「あれを目覚めさせれば、世界は滅ぶって分かっていて、どうしてその引き金を引いたの?」


 少年は首を傾げようとして、そのまま首が刎ね跳ぶと理解したのか、一歩後ろへ下がり嘆息する。


「誰かを救おうとすることの、何がいけないんだ?」


「──」


 さも当然のように少年は言った。躊躇なく言ってしまった。


 世界の全てを天秤にかけてでも、人類を滅ぼしてでも救いたい対象があったのだと目の前の少年は言い張った。


「本当に、ただ一人のために、世界を……?」


 信じられないと言った顔で、少女は呟く。


「ああ。それの何がいけない。いつの時代だって、見捨てられる小さな存在を救いたいと思う誰かがいたって何の問題もないだろう」


 きっとこの少女と少年は永劫に分かり合えない。


 運命の歯車にすり潰され、理想を捨てた少女とそれでも捨てることの出来なかった少年は違うのだ。


「結局、俺とお前は分かり合えないんだよ、『英雄』。大勢を救い、少数を見捨ててきたお前には一生理解できない」


「あなたは……」


「お前は立派だよ、シルヴィア・ウォル・アレクシア。最後の最後まで人類を救おうと足掻いたんだから」


「あなたとは出会いから最悪だった……」


 きっとこの世界は終わる。誰が見ても、そう感じれてしまうのだ。


「さあ、殺せよ。例え俺がここで死んだところで、俺の願いはいずれ受け継がれる」


「──さよなら、ササキシュウ」


 そして、世界は途切れた。

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