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「やめてよ!出して!お願い!」


仕事終わりで公園を通りかかると、仮設トイレの周りが賑やかだった。

男女五名の小学生が、トイレのドアを必死な顔で抑えている。


(イジメ?)


昨今、何処から何処までがイジメなのかという曖昧な議論が交わされていて、下手に注意しようものなら最悪変質者にされてしまう。

俺は公園のベンチに座り、スマホをいじるフリをしながら様子を伺った。

我ながらちっぽけな性分だが、イジメは見逃せない。

トイレの中の声が涙声にでもなったら、「ダメじゃないか仲良くしなきゃ」と声をかけるつもりだった。

ベンチで小学生を監視するなんて、そっちの方が変質者っぽいが大丈夫。見極めはキチンと行う。なにせこちとら立派な大人ですから。


「いっちゃん!もっと力込めてよ!」


「出してるよ!誰か大人呼んでこいって!」


「もう嫌よ!ママ!ママ!」


様子が変だった。

イジメている側の方が泣きそうなのだ。

その目は涙で滲み、顔を真っ赤にしてトイレのドアを抑えている。


(なんだ?)


しばらくその様子を見て、俺は意を決して子供達に近づいた。


「あ、あのよー。何してんだ?」


「おじさん!助けて!」


「お願いドア閉めるの手伝って!」


「スマホ持ってるでしょ⁉︎警察呼んで!」


切羽詰まりすぎだろう。


昨今の平和ボケした日本人にはあるまじき表情をしている。


「何があったんだ?おじさんに教えてくれないか」


「早く!開けられちゃう!」


子供達が急かしてくる。


コレがイジメなのだとしたら、俺はその手助けをしてしまう事になる。事案の発生だ。

明日の朝に警察が家に来る。


「説明してくれよ。おじさん何もわかんないんだって」


「うわあ!」


その時、仮設トイレが横に激しく動いた。

嘘だろ。確かに軽い構造をしている仮設トイレだけど、その床はコンクリートの土台で公園の砂利と接地してるんだぞ?


「開けて開けて!なんでこんな事するの⁉︎お願い出してよ⁉︎」


聞こえて来る声をは紛れもなく子供の声だ。

多分男の子。


「イヤー!開けられちゃう!ママ!ママ!」


「おじさん!早く!」


「うぇぇぇぇぇ!うぇぇぇぇん!」


「馬鹿!泣くなってば!押さないと!早く!」


「おじさん助けて!」


子供達はさらにうろたえ始め、泣き出した子もいた。


「大人の人がいるの⁉︎出せよ!早く出せ!こっから出せ‼︎」


驚くべき事に、トイレの中から聞こえて来る声が突然野太くなった。

俺は慌ててスーツを脱ぎ、スマホを取り出す。


「もしもし!警察ですか!公園に不審者が出て、子供達が危ないんです!住所は……」


緊張感の無いオペレーターの声を急かせながら、通報を急ぐ。


「よし!これですぐ警察が来るぞ!おじさんも手伝うから、みんな頑張れ!」


そう言って子供達の頭の上から、ガタガタと揺れるトイレのドアを抑えた。





















「え?」


気づけば、子供達はいなかった。五人もいた子供達が、影も形もない。

トイレのドアは依然ガタガタと揺れていて、俺の力だけでは持ちそうにない。


「な、なんだ!あいつら何処行ったんだ!」


半狂乱の頭をフル稼働させてみても、いつ立ち去ったのか記憶にない。


「うふふ」


トイレのドアから女の子の声が聞こえた。


「あはは」


「うふふ」


「あはは」


さらには違う声色で、笑い声は響く。


俺は唐突に悟った。

嵌められたのだと。

恐怖に震える俺にできるのは、ドアを強く抑える事と、警察の到着を願う事だけだった。


終わり

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