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まんまるは中二病

「ねえ、おねえちゃん」

「なーに?」

 カズ君は、助けてくれた女の子と手をつなぎ、女の子が「まんまる」と呼んだ真っ白なナニかと一緒に、女の子のお家へと向かっていました。

「おねえちゃんは、あの鬼がなんでカズ君のおうちにいたのか、知ってる?」

「よくは知らないけど」

 ミサキちゃんは、そう断りをいれてから、話し始めた。

「ママがね、言ってたの。あれは、違う世界からきて、ミサキやカズ君を食べちゃうだって」

「カズ君、おいしくないよ!」

「子供のお肉は柔らかくておいしいからね」

「えええええええ!?」

 まんまるの言葉に、カズ君とミサキちゃんはあわてて、抱き合ってまんまるから離れました。

「カズ君、ミサキの後ろに」

「うん」

 ミサキちゃんは、カズ君を背中にかばうと、持っていた魔法のステッキを、握りしめ、自称『せいじゅう』へと先っぽを向けました。

「あんたも、あいつらの仲間なんだ! ミサキがセイバイしてやるから、カクゴしなさい!!」

「なんでよー!!」

 白くて丸い『せいじゅう』は、ミサキちゃんの言葉にショックを受けたような声を出しますが、こればかりは自業自得というもの。彼のうっかり発言により、幼気なお子様たちの警戒心をマックス状態にまで引き上げてしまったのですから。

「おかしいとおもったのよね! いきなり、『けーやくして』なんて言ったんだもの」

 ミサキちゃんは、そう言って、杖の先端に小さな火をともしました。

「ママが言ってたわ。『イタイケなオコサマにけーやくしてなんていうのは、アヤシすぎる』って。だから、言われた通り、けいかいしていたのよね。そしたら、やっぱりショータイをあらわしたんだわ!」

「ミサキ、言っている意味、分かっているのかい!?」

「じつはほとんどわかんない。でも、これだけはわかるわ」

 ミサキちゃんは、まんまるの言葉に対し、胸を張って答えました。    

「あんたがボロを出したってことはね!」

 そういうや否や。ミサキちゃんは、杖の先に宿っていた炎を大きくしてまんまるに向けました。

「いっぺん、焦げ焦げになっちゃえー!!」

 ミサキちゃんがそう言ったとたん、杖の先から発射された火の玉がまんまるを飲み込みました。

「あっつい!!」

「焦げ焦げになっちゃえば、あの悪い鬼たちも仲間だとはわかないわよね」

 白くてふっかふかだったまんまるは、やきすぎたトーストみたいな状態になってしまいました。

「おねえちゃん、コレ、どうするの?」

「そうねえ」

 カズ君のもっともな疑問に対しミサキちゃんは、ほっぺたに手を押し当ててしばらく考えていましたが、ポンっと手を合わせると魔法の杖をぷすぷすいっているまんまるに向けました。

「えい」

 魔法の力でまんまるをもちあげたのです。

「このまま、ママのところに持っていくの。ミサキのママならなんとかしてくれるわ」

 そう自信たっぷりに言って、ミサキちゃんは再びカズ君と手をつないで歩き始めました。


「あらまあ。見事に焦げちゃって」

 まんまるを見たミサキちゃんのお母さんの第一声に、ミサキちゃんは魔法の力でぶら下げていたまんまるを得意げに動かして見せました。

「すごいでしょ! ワルモノ退治したのよ、ママ!」

「ワルモノ退治?」

「うん。まんまるは、カズ君とおねえちゃんを食べちゃうつもりなんだよ!」

「そうなの?」

「コドモのお肉はおいしいって、いってたんだよ!!」

「だから、ワルモノでしょ!?」

 ミサキちゃんのお母さんは、ふたりの言葉に何とも言えない表情になっています。

 ミサキちゃんのお母さんには、わかっていました。この、異世界からの珍客は、ただ単に口を滑らせただけで、子供たちを食べる気など全くなかったこと。だけど、この自称『聖獣』とやらは、種族的なものか彼個人てきなものかはわからないが、先天的に「空気を読む」という能力が全くと言っていいほど欠けており、そのせいで口を滑らせただけだということを。この星獣とやらは、地球こちらで言う中二病を派手にこじらせている割に、天然ボケもはなはだしく、深く考えず話の流れでそう口走っただけなのは、それこそ火を見るより明らかなのです。

「うーん。まあ、大丈夫よ」

「なんで!?」

「カズ君たちを食べちゃうつもりなんだよ!!」

 涙目になって、詰め寄るお子様たちの様子に、ミサキちゃんのお母さんこと、サクラさんは今でもぷすぷすいっている聖獣を見下ろしました。

「起きなさい。いつまでのんきに焦げているの。ジル」

「シヴァリオだ!!」

「うそおっしゃい」

 サクラさんは、そう言うと、爪先で焦げ焦げになっているまんまるを突っつきました。

「ママ、『ジル』って?」

「この星獣の名前よ」

「まんまるの名前って、なんかなが~いおなまえだったよ?」

 カズ君の疑問に、サクラさんはにっこりと笑って見せました。

「それはね? この星獣が勝手に名乗っているだけよ? ほんとのお名前は『ジル』っていうのよ? この馬鹿聖獣はね、お父さんやお母さんからもらった自分のお名前が『かっこ悪い』からって、自分が考える『かっこいいお名前』を勝手に言っているの。ミサキやカズ君にはわかんないと思ったのよね」

「じるって、かっこ悪い?」

「呼びやすくていいと思うけど?」

 おこさまふたりは、不思議そうに顔を見合わせました。

「そうねえ。気にすることは、ないと思うわ。あ、そうそう。ミサキ。まんまるの言葉、録音しておいて何年か後に聞かせてあげたらいいわ」

「そうしたら、まんまる喜ぶ?」

 ミサキちゃんの言葉に、お母さんはにんまりと笑ってうなずきました。

「喜ぶあまり、そこら辺を走り回るわ」

「そんなによろこぶの!?」

「すっごいねえ」

 ミサキちゃんとカズ君は、素直に感心していますが。ほんとのことは違います。今現在こそ派手に中二病を発病させてこじらせていますが、あと数年もすれば。我に返り、この時期の自分の様子を思い出し、恥ずかしさのあまり黒歴史として盛大に封印して、おきたいと思うのでしょうが、そうは問屋が卸しません。この世界には「録音データ」という異世界には存在しない便利アイテムがあるのです。お母さんとしては、異世界のごたごたに巻き込んでくれた「お礼」をするために、自分と娘にも録音させておくことにしたのです。

「走り回って喜ぶなんて、すごいねえ」

「カズ君たち、すっごくいいことするんだねえ」

 そう。その黒歴史が日の目を浴びたとき。現在進行形で中二病をわずらっているこの星獣が、そこら辺を羞恥のあまり走り回るどころか、下手すれば、どこかに引きこもって出てこなくなるのは目に見えるようです。

「そうね。すごーく、イイコトよ」

「うん!」

 手にて取り合って喜んでいる子供たちをしり目に、サクラさんはギャアギャアとわめいている異世界からの招かねざれる客人を冷たい目で見やり、呟きました。

「わたしの可愛い子供たちを巻き込んでくれたんだから、その落とし前はきっちりとつけてもらわないとね」

 そう言って、サクラさんは黒焦げ状態になったままわめいている星獣をむんずとひっつかむのでした。
















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