―美紀のボタンスイッチ―
俺と進藤は、時空の歪みの中を進んで行き、ついに中ボスと思われる、とてつもなく大きな恐竜のような魔物に出くわしたのだった。一瞬逃げたい気持ちになったが、こいつを倒さないと先に進めない。俺と進藤は戦うことを決めたのだった。
今までの戦いと同様、俺は剣で斬りつけ、進藤は魔法で攻めたが、ザコのように一撃では倒せなかった。当然、敵の反撃を喰らうわけで、もしも、やられてしまった場合、俺たちはどうなるのか・・・と考えざるを得ない状況になってきたのだった。
恐竜のような魔物が氷の息を吐いてきた。避けようと頑張ったが、俺の右足に少しかかってしまった。
「っ痛!・・・・」
右足のスネに凍傷のような傷が出来てしまった。
「勇生!大丈夫!?」
進藤が心配そうに声をかけてくる。しかし、今はまだ戦いの途中。ここで、逃げるわけには行かない。
「大丈夫だ。美紀、気を抜くな!」
「うん!行くわよ!フレイム!」
進藤がフレイムの魔法を使う。少しずつ敵にダメージは与えているが、まだ倒れそうにない。俺は動こうにも右足に力が入らず、力強く剣を振ることが出来ない。それでも、なんとか敵がまた氷の息を吐く寸前に攻撃を与え、反撃されないように抑えることは出来ているようだった。
「フレイムラッシュ!!!!!」
その時、進藤が新たな呪文を唱えた。進藤の持つ杖の先からいつもの数倍の炎が連続して飛び出て行く。
「おお・・・」
炎は渦を巻くように恐竜の体へぶつかり、かなりのダメージを与えることが出来た。今の魔法、進藤のアドリブだよな。俺も何か技を考えたら使えるのかも知れない。
「勇生!今よ!」
「よし!」
俺は剣をしっかりと握りしめ、右足の痛みを我慢しながら、ジャンプして敵に斬りつけた。
「行くわよ!スペシャルザックリンコ~~~!!!!!」
適当だが、スペシャルな感じで斬ってみた。剣がまぶしい光を放ち、恐竜の体を真っ二つに割った。
『ウオオオオオオオオオ~~~~~~ン・・・』
悲しそうな雄叫びを上げて恐竜はチリヂリと消え去った。
「やったね!」
「おう!」
――――――よくやったな。勇生、美紀。
「シド!」
「シドちゃん!」
――――――ずっと戦いぶりを見ていたぞ。新たな魔法を唱えたり、必殺技を出したり、見事だった。
「なんか夢中で唱えたら出来たのよ」
「俺も、ザックリンコ~とか普通あり得ないんだけど」
――――――今のエリアボスを倒した其方たちに、これを。
シドがそういうと、何もない壁に四角い穴が開いた。
「これは?」
――――――この四角い穴にスイッチを入れて、ボタンを1回押すのだ。
「そしたらどうなるの?」
――――――これは記録ポイントとなる。一度ここを出ても次からはここから始めることが出来るのだ。
「おお」
「良かった~」
――――――それと、これが美紀のボタンスイッチだ。
進藤の手元にボタンスイッチが現れた。
「わぁ!ありがとっシドちゃん!」
「あれ、進藤のは色が違うんだ?」
進藤の持っているスイッチを見ると、ボタンがピンク色をしている。
――――――今は時空の歪みの中で、ピンク色になっている。通常の色は水色だ。
「へぇ~可愛いじゃん!もしかして、女の子用バージョン?」
――――――まぁそんなところだ。美紀よ、そのスイッチで記録しておくのだぞ。時間切れだ・・・また会おう・・・
シドが消え、進藤ももらったばかりのボタンスイッチを四角い穴に差し込み、ボタンを1回押した。これで、また2人ともここに戻って来れる。
「戻ろうか」
「そうだね。勇生、怪我しちゃったし」
「傷の手当してくれるか」
「もっちろん!」
そして、それぞれボタンを3回押して、元の場所へ戻ったのだった。
「とりあえず、勇生の家に行って手当しましょ」
「おう。あ、あれ??」
歩いても右足に痛みはなかった。制服のズボンをたくし上げて見ても、怪我をしたはずのスネが、何もなかったかのように元に戻っていた。
「次元の歪みの中で負った傷は戻ると治るのか」
「そうみたいだね。良かったじゃん!」
「もしかして死んでも戻れば大丈夫なのかな」
「うう~ん・・・大丈夫かも知れないけど試す勇気はないね」
「そうだよな。倒れないようにもっと強くならないとな」
「今度から別々のボタンで変身出来るし、不具合もなくなるはずだよ」
「だな」
「とにかく、続きはまた明日だ」
「明日からはちょっと遅くなるね」
「時間は大丈夫か?」
「親に遅くなるって言っておくわ」
「オッケ。じゃあまた明日な!今日はお疲れ!」
「お疲れさま!バイバイ!」
郵便ポストの前で、俺と進藤は挨拶をし、それぞれの家に帰った。
「ただいま・・・」
俺が家の玄関を開けると、中から優歩の歌声が聞こえてきた。
「シードーシードー♪」
「えっ・・・」
何故、優歩がシドの名前を呼ぶのか。俺は靴を急いで脱ぎ、優歩の元へ走って行った。
「シード・・・あれ?おかえり、どしたの?そんなに慌てて」
「おい!シドのこと知ってるのか!?」
「え・・・?」
落ち着いて状況を見れば、それが俺の勘違いだということに気が付いた。優歩は目の前に楽譜を広げているのだ。ブラスバンド部の優歩だから、それはよくある光景だったはずなのに、俺が過敏に反応してしまったのだった。




