―時空の歪み―
「お兄ちゃん?」
妹の優歩が、俺の方を向いている。なんだ?俺のズボンのポケットに隠し持っているボタンがもう見つかってしまったのか?俺は緊張した顔付きになってしまった。
「それ・・・私のなんだけど」
妹の目線が、俺の手元を見ている。
「え?」
「味噌汁!!!それ、私のでしょ!お兄ちゃんのはそっち!」
ぼーっとして遊歩の味噌汁を飲んでいたみたいだ。
「相変わらず、ぼけぼけしてるわね」
と、母親もきついことを言ってきた。
「お父さんにそっくりだわね」
それを聞いた父親が『アイタタタ~』とおでこに手を当てて古いリアクションで大げさにのけ反る。
和気藹々とした、一家団欒のひと時だった。
晩御飯を済ませ、俺はお風呂の浴槽に身を沈めていた。あ~あ、この先どうなるんだろう。RPGのゲームみたいに、いきなり敵が出現して戦闘とかになるんだろうか。そんな時はどうしたらいいんだ?例えば今みたいにお風呂に入ってる最中とか、はたまたトイレで便意と格闘してる時とか・・・。
「あ・・・」
風呂を出て、タオルで体を拭きながら、脱衣所に置いておいたボタンを見ると、色が変わっていた。シドにもらった時には赤い色だったのが、今は緑になっている。もしかしたら、これがシドを呼べるか呼べないかの判断になるのか。緑なら呼べて、シドが居る時や、消えてすぐは赤なのか。
「なるほど」
俺は、寝る前にもう一度シドを呼んで、話を聞いてみることにした。
自分の部屋に入った俺は、ドアの鍵を閉めて、ボタンスイッチをそっと床に置いた。そしてその前に自分も座って、緑色のスイッチを押してみた。
すると、緑色のスイッチが虹色に変化し、ボタンとスイッチ台の隙間からペラペラのシドが登場した。
――――――呼んだか。
「はい。ちゃんと話を聞こうと思って」
――――――何が聞きたいのだ。
「このボタン・・・普段は緑色なのですか?」
――――――そうだ。勇生が私を呼びたい時にボタンが緑なら私は出てこれる。赤は無理だ。そして、何もせずに虹色に光る時は、私が勇生に会いたい時だ。虹色に気付いたら押してくれ。
「なるほど。変身出来るって・・・このボタンでどうやって?」
――――――変身するには、時空の歪みの中に入り込まなければならない。
「時空の歪み?」
――――――そうだ。勇生がいるこちらの世界と別に、私が捕らわれている魔界がある。そして、こちらに来るには時空の歪みの中に入り、進まねばならない。
「・・・魔界・・・」
魔界なんてゲームやアニメでしか見たことないが、実際にあるのか・・・。
「どうやって時空の歪みの中に入るんですか?」
――――――試しに行ってみるか?すぐに戻れば大丈夫だ。そのボタンを3回連打すれば、時空の歪みに入る。戻る時も3回押せばいい。
「は、はい。やってみます」
俺は、ボタンを3回押してみた。すると、自分の周りの景色が一瞬、ぐにゃっと歪んだように見えた。
「はっ・・・」
一瞬の歪みが来て、俺は反射的に目を閉じてしまったが、目を開けると、真っ暗闇の中だった。
――――――ここが時空の歪みの中だ。そして、私はもう時間切れのようだ。また会おう・・・・・・
えっ!?今ここで一人にしないでくれよ!!!俺は慌ててボタンを3回押した。一瞬足元がぐらっと揺れた気がして、俺は元の自分の部屋に戻ってきた。
「ふう・・・」
まずは、俺のいるこの世界と時空の歪みの中を行き来することに慣れないと話にならない。試しに行ってみた時空の歪みだったが、真っ暗で何も見えなかった。あんな状態で何が出来るんだ。俺はまた不安になってきた。とりあえず、今日は疲れた。明日からテストだし、もう寝るかな。俺は部屋の電気を消し、深い眠りについた。
翌朝。昨日の天気とは打って変わって朝から強い雨が降っていた。 俺は、念のためカバンの中にボタンスイッチを入れたまま、学校へ向かった。
「朝倉くん、おはよう」
校門を入ったところで、背後から声をかけられる。振り向くと、同じクラスの進藤美紀が水色の傘をさして立っている。
「おはよう。傘さしてるのに、なんで俺ってわかったの?」
俺の傘はどこにでも売ってるようなごく普通の黒い傘だ。こんな大雨の中、傘さしてあんまり見えない状態で良く俺だとわかったなぁ。
「お尻の形でわかるの」
「えっ???」
意外な答えだった。
「朝倉くんのお尻、キュッてなってるの、ズボンの上からでもわかるよ」
「ええ・・・」
こいつ、どこを見てるんだ。
「ごめんね、変でしょ。別にお尻フェチってわけじゃないけど、朝倉くんのお尻だけはわかるの」
ますますわからなくなってきた。俺のお尻のどこがどう特徴があるっていうんだ。俺と進藤は、喋りながら校舎へと入った。
「朝倉くん、テスト勉強した?」
階段を上がりながら、進藤が聞いてくる。
「30分ぐらい教科書見てたぐらいかな」
「へえ、余裕なんだね」
「ただ勉強が面倒なだけだよ」
そんなことを言いながら、教室についた。
「勇生おはよう!・・・あれ??なんだ?カップルで登校か!」
悪友の佐々木大輔が大声で茶化す。他のクラスメイトもみんなこっちを見る。
「違う」
と、俺が言うより先に
「一緒に来たの!ね、勇生!」
と、進藤がクラス中に響く大きな声で言ったのだった。おかげで、クラス中に冷やかされ、俺は進藤と付き合っているかのような誤解をされてしまったのだった。俺には進藤が何を考えているのか全くわからない。テストなのに、また一つ余計な考え事が増えてしまいそうだ。




