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PUSH!!  作者: 桃色 ぴんく。
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―選ばれし者―

 俺、朝倉勇生は、ついさっき出会った・・・というか、コーラを買うために自販機のボタンを押したら、コーラの代わりに自販機から出てきた、ペラペラの悪魔にしか見えないシドと名乗る男と話をしていた。



「シド・・・さん。一つ聞いてもいいですか」



――――――なんだ? ちなみに、シドと呼び捨てで呼んでもらって構わない。



「はい。えっと・・・シド。どうしてシドはそんなペラペラに薄っぺらいのですか」



 わかりやすく言うならば、一反木綿のイメージだ。世界を救うとか、俺がボタンを押したからとか、そういう話を聞く前に、シドという男のペラペラ具合がとても気になったのだった。



――――――本体は、別の場所にあるからだ。今は仮の姿で其方に助けを求めるために来た。



「本体?仮の姿?」




――――――そうだ。私は今、ある場所で捕らわれている。私を助け出し、魔王と戦い、この世界を救ってほしいのだ。




「えっと・・・シドはどこに捕らわれているんですか?」




――――――魔王の城のすぐ近くだ。ここにはまだ其方は来れない。



「えっ・・・じゃあどうすれば・・・」




――――――其方が私を助け出すまで、こうして仮の姿で其方に指示を出す。



「ええっ・・・」



 そんな・・・ペラペラの状態で支持されて、俺は戦ったり出来るのだろうか。頭の中には不安しかない。だいたい、敵もどんな奴なのかも知らないし。世界を救うって、世界は今どうなってるって言うんだ。




――――――時間切れだ。また会おう。



「えっ、えっ、俺どうすれば!?」

 まだ何も詳しい説明を聞いていないのに、シドが消えようとする。




――――――また、ボタンを押して、私を呼べばいい・・・・・・・・・・




 その言葉を最後に、シドのペラペラな姿は見えなくなった。ボタンを押すって・・・?俺はもう一度、自販機を見つめたが、虹色に光るボタンはなかった。

「あっ!!!」

 俺は思い出した。汗かいて暑くて、コーラを買おうとしたのに、コーラが出てこなかったことを。

「おいおい・・・150円返してくれよぉ・・・」

 喉が渇いてカラカラだったが、戻ってこないお金を諦めて、俺は家路を急いだのだった。





「ただいま・・・」

 俺は家のドアを開けた。

「おかえり~」

 妹がテレビの方を向いたまま、そっけなく言う。いつもと変わらない日常だ。母親はパートに出ていて、この時間は家にいない。

 このいつもと変わらない日常の中で、俺が世界を救う者に選ばれた・・・とか、絶対おかしい。とりあえず、冷蔵庫の中の冷えた麦茶をコップに注ぎ、一気飲みする。

「ふーっ・・・生き返った・・・」

 冷たい麦茶が体の中に入り、頭がスーッと冴えた気がする。そうか。俺はあまりの暑さで、幻覚を見ていたのかも知れない。こんなどこにでもいるありふれた高校生が世界を救えるわけがない。





その後、母親が帰ってきて、リビングのソファで寝ころんで漫画を読んでいる俺を見て、

「勇生、明日からテストじゃないの?漫画読んでていいの?」

と、うざいことを言ってきた。

 俺の成績は中のちょい下ぐらい。多分、頭が悪いわけではないが、日ごろから授業以外の勉強をまずしない。だからこんな成績なのだ。

「いつもそんなに勉強しないんだから、テストの前ぐらいしなさいよ~」

 母親がキッチンから声をかけてくる。ああ、だるい・・・とりあえず勉強するフリでもしてくるか。

「わかった。晩御飯までちょっと勉強するわ」

と、言い残し、俺は自分の部屋へと向かった。





 夕暮れの部屋は、いつもなら涼しいのだが、今日は異様に暑かった。本当ならエアコンをつけたいところだけど、勿体ないとか言われるんだろうなぁ・・・しょうがない。晩御飯まであと1時間ほどだし、扇風機で我慢するか。そう思って、扇風機のリモコンを手に取った時だった。




「・・・!」




 扇風機のリモコンの電源ボタンが虹色に妖しく光っている。これは・・・押せばシドが出てくるのか?さっきは時間切れとかで詳しく話が聞けなかったから、もし、これが幻覚じゃなく本当にシドに会えるのなら、じっくり話を聞かなければ。俺は、虹色に光るボタンを押してみた。



――――――呼んだか。



 扇風機の羽根の隙間から抜け出るようにして、ペラペラのシドが姿を現した。



「あ、やっぱり・・・幻覚じゃなかった・・・」

 俺は改めて、自分に課せられた使命を思い知った。ああ、どうせなら幻覚であってほしかった。



――――――其方の名前をまだ聞いてなかったな。



「お、俺は勇生。”勇ましく””生きる”と書いて勇生。だけど俺、どっちかっていうとヘタレです」



――――――ヘタレとは何だ?



「えっと・・・意気地なしというか・・・臆病というか・・・弱虫というか・・・」




――――――其方・・・勇生はきっと世界を救える。そして、そのために私も出来るだけのことはする。




「こんな普通の高校生に一体何が出来るんですか。どんな敵がいるかもわからないのに」




――――――そうだ。勇生にこれを授けよう。




 シドがそう言うと、俺の足元に何かが転がってきた。拾い上げると、それは小さい押しボタンスイッチだった。



「これは?」



――――――私を呼びたい時に押せばいい。そして、変身する時にもそのボタンを押すといい。




「へ、変身???」



 何だって?俺は変身出来るのか?小さい頃からずっと見ていた戦隊ヒーローになる日がやってきたのか???よし、変身出来るとしたら戦う能力もあるはずだ。思ったより何も出来ないわけでもなさそうだ。俺は少し安心した。



――――――時間だ。私は5分間しかここに留まれない。また会おう。




 そう言うと、シドはまた姿を消した。5分しか居れないって・・・仮の姿だからか。続けて呼ぶことは出来るのかな?俺はシドからもらったボタンを押してみた。

「やっぱ無理か」

 時間を置いてまた呼び出してみよう。今度は敵の話や変身の仕方も聞かないとな。テスト勉強どころではないが、とりあえず扇風機を回して俺は教科書を開いた。






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