―弓の名手―
落とし穴に落ちた優歩が無事に戻ってきたところで、今日は元の世界に戻ることにした。シドに聞いた話では、優歩を助けてくれたロビンという少年は、弓の名手らしい。魔王の城の兵士として入り込んでいたのだが、俺たちが動き出したことでこちらの味方に付くべく、城を抜け出して来てくれたみたいなのだ。城の方には怪しまれないように双子の弟と入れ替わってきたようだ。魔王と決戦間近になった時に、弟にはうまく逃げてもらう作戦のようだ。
「良かったー、戻ってこれて!」
優歩が腕を伸ばして大きく伸びをする。ここは俺の家のリビングだ。今日は元々時間がなかったのもあって、戻ってきて時計を見ると、冒険に出ていたのはほんの小一時間のようだった。
「あのロビンって人、俺、夢で見たんだよ」
「えっ?そうなの?」
俺の言葉に進藤がビックリする。
「今朝の夢だったよ。赤い髪の人が立っていて、振り向くと青い目をしていたんだ」
「へえ」
「そのあと、起きてから・・・なぜか突然『ロビン』という言葉が頭に浮かんだんだ」
「何だろうね・・・不思議な力でメッセージ送って来たのかしら」
「もしかしたら前世でなんか繋がりがあったりしてー」
「わからないけど・・・なんか変な感じだ」
「変って?」
「いや、夢で見た人がそのまま仲間になったし・・・それに、この世界の俺たちと違う人種で強い人がいるなら、俺たちみたいなヘッポコは戦う必要ないんじゃないか?とか思わないか」
「ザコ倒すのにも最近は苦労してるものね。だんだんと敵も強くなっていってる」
「だろ。俺たちが魔王なんて倒せるわけないし、このまま旅続けるのもどうかな・・・」
「ええー?冒険やめちゃうの??せっかく部活終わったのにー」
――――――勇生よ。どうしたのだ。何か気に入らないのか。
「いえ・・・ロビンと出会って、俺たちの他にも魔王を倒そうとしている人がいることを知って、その人が強い人で・・・戦い方を知らない俺たちとは格が違うみたいで・・・」
――――――自信がないのか?
「自信もないし、本当に俺たちがしなくちゃいけないのかもわからなくなってしまいました」
――――――勇生。魔王を倒せるのは其方しかいないのだ。時がくれば全て話す。私の言葉を信じて欲しい。
「なんで・・・なんで俺なんですか。ロビンの方が絶対強いですよ」
――――――確かに、ロビンは弓の名手だ。しかし、弓矢では魔王にとどめはさせない。魔王にとどめをさせるのは勇生、其方だけなのだ。
「そ、そんなこと言われても・・・」
――――――時がくれば全て話す。どうか頑張って欲しい。時間切れだ・・・また会おう・・・
「シドって人消えたー」
「勇生、なに自信なくしてるの?らしくないよ。シドちゃんを信じて、頑張ろうよ」
「そうだよ!私も一緒に頑張るんだから!」
進藤と優歩が俺を励まそうとしてくれている。そうだな・・・シドの言う「時」が来れば、全ての謎が解けるだろう。なぜ、こんなフツーの俺を選んだのかも。
「弱音吐いて悪かった。明日は朝から図書館に行くフリして頑張ろうな」
「うん!そうこなくっちゃ!」
「あっ!私もう帰るね。勇生のお母さん帰ってきちゃうし」
「おう。また明日頼むよ。10時に来てくれ」
「わかった。じゃあ、明日ね!」
進藤は慌てて玄関を出て帰って行った。
「ただいま~」
進藤が家を出て、わずか数分で母親が帰って来た。
「ああ、おかえり」
「勇生の同級生の女の子・・・前に家に遊びに来てくれた子とすれ違ったわよ」
母親は進藤の顔を覚えていたようだ。
「へえ。塾かな?あいつ、頭いいからな」
「感心ね。勇生に勉強教えてくれないかしら」
「ずるいーお兄ちゃんだけー?私も教わりたい!」
「ええ?優歩がめずらしく勉強したいだなんてビックリだわ」
「こいつ受験生だしな。部活も終えたし明日からは勉強も頑張るんじゃないかな」
母親に変に思われないように適当にごまかす俺だった。
その夜。ベッドに横たわった俺は、またロビンのことを考えていた。確か、魔王の城を抜け出したロビンは時空の歪みの中にずっといると言っていた。俺たちがこちらのペースで冒険を始めると、ロビンも合流して一緒に進むことになるとかシドは言っていた。俺たちは記録ポイントからスタートして、また次の記録ポイントまで行かないと動きが無駄になるからそこまでは必ず進まなければならないが、ロビンの場合はどうなるんだろう。
「とりあえず、寝るか」
不思議に思ったことは本人に直接聞いてみればいいか。ロビンは俺たちの仲間なんだから。強い仲間が増えたらきっと冒険もさくさく進むことだろう。そう思うと少し気が楽になって、俺は眠りにつくために部屋の電気を消した。




